スティーブ・ジョブズ最初で最後の公認の伝記を読みました。結論から言うと、パソコンやIT系のノンフィクションの中でもベストの一冊と言っていいでしょう。特にスティーブ・ジョブズに関しては様々な本が出ているが、これまでのベストだった「スティーブ・ジョブズー偶像復活」(過去記事「ビル・ゲイツ引退に思うこととスティーブ・ジョブズ」参照)と比べてもこちらの方がはるかに面白いです。

どこが面白いか。

まず、ジョブズ礼賛でなく、彼のいいところも悪いところもしっかり書いているところ。特に性格的に一般人には解釈しがたいところが彼にはあるのですが、そこも包み隠さず書いています。特に、実の親との関係が、彼の正確に大きく影響していることなど、初めて知ったことが数多くありました。

次に、複雑怪奇な彼の性格を、ジョブズからの聞き語りだけでなく、周囲への丹念な取材を通じて分析・考察している点。例えば上巻の11章全部を割いて、有名な「現実歪曲フィールド」について分析しています。近年は、この言葉はジョブズのすばらしいプレゼンを形容するものであるかのように書かれていることが多々ありますが、元々は否定的な意味合いがかなり強かったもの。本書では、否定的な部分を説明しながらも、ジョブズの魅力というものがその根底に流れていることを多くの事例から引き出しています。本書がただの伝記ではなく、スティーブ・ジョブズという稀代のイノベーターの仕事を分析するビジネス書としても、優れているのは、こういった深い考察があるからです。

下巻はアップルに戻ってからの数々の成功の話が中心になります。他書で語られてきた部分もありますが、完璧を求める姿などは他所の追随を許さないところです。

下巻のエピソードでは特にThink Differentの広告を作るあたりが、個人的にはかなりツボにはまりました。

そして、後半になると病との戦いが始まります。ここでもジョブズの弱い部分も赤裸々に語られています。私たち読者は、この戦いの結末を既に知っています。しかし、著者がこれを書いていたときはジョブズは存命でした。第40章でCEOをやめ、誰の目にも残り時間が少ないことは明らかでしたが。この完璧なタイミングで伝記を書かせたというのは、ある意味ジョブズの最後の作品でもあるのかなと思いました。