人がものを食べるとき、匂いを感じなかったら、とても味気ないものになる。例えば鼻をつまんで食事をしてみれば、その味気なさは一目瞭然だ。

ワインにおけるにおい(香り)はさらに重要だ。おそらく人がワインに感じる美味しさの半分以上がにおいによってもたらされているのではないだろうか。個人的にも、素晴らしいワインに出会ったとき、それを口の中で味わうよりも、香りをずっと嗅いでいたいと思うことがしばしばある。

『においと味わいの不思議 知ればっもっとワインがおいしくなる』は、タイトルに「におい」と「味わい」と入っているが、実際には味覚ではなく嗅覚に焦点を当てた本である。

においという、非常に感覚的であり、難しい対象を、科学的にかつ分かりやすく解説している。といってもバリバリの技術書といった体裁ではなく、ワインが好きで香りに興味を持つ人であれば、だれでも面白く読めるだろう。また、それで目からウロコの1枚2枚は落ちるのが確実だと思う。

興味深かったポイントをいくつか紹介しよう。

・においの実態は化学物質である(まあ当然でしょう)
・ワインのかおりは500種類以上の化学物質からなる
・シャネルの香水には単体では嫌なにおいのアルデヒドが入っている
・におい嗅ぎガスクロマトグラフィーで物質ごとの香りを分析できる
・物質によって人間に感じられるしきい値は大きく異る。
etc

においについてはわからないことがたくさんある。何がわかっていることで、何がわかっていないことなのかを知るためだけでも本書を読む価値はあると思う。