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Date: 2010/1224 Category: 読書感想
Posted by: Andy
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2010年も200冊くらい本を読みましたがその中からフィクション10編,ノンフィクション3編,実用書3編をベストとして取り上げます。フィクションは,こんなのも今まで読んでなかったの的なものもあると思いますが,目こぼしてくださいませ。2009年版はこちら

まずはフィクションから。
10. アラビアの夜の種族/古川日出男
昨年は「ベルカ」で一位でしたが,アラビアの夜の種族もベルカほどの衝撃はないものの,妖しさ満載の素晴らしい小説。読書好きな人ほどはまるでしょう。こういう作品は大好きです。

以下はmixiに書いたレビューから。
ナポレオンがエジプトに攻め入ろうとしているとき,守る側のマムルークで,ナポレオンへの献上品として偽りの書物を作ろうと支配階級のイスマーイール・ベイに進言した奴隷のアイユーブ。ズームルッドという謎の女が夜毎に語るその偽りの書,その翻訳が本書であるというのが本書における作者の設定だ。どこまでが真実でどこからが偽りなのか,二重三重に張り巡らせられた罠に,読者も自然に嵌まり込んでしまい,その語りに引き込まれる。

自分も読者として危うくその迷宮に取り込まれてしまうところだった。ようやく生還できてほっとしている。あまりに危険すぎて人には勧められない本。勇気ある人は挑戦あれ。ただし戻れなくなってもしらないよ。



9. 天地明察/冲方丁
本屋大賞を取った本。さすがによく出来ています。というか昨年の本屋大賞の…と比べたら…。ただ,前半と比べると終盤は駆け足で進んでしまいやや消化不良ぎみ。もっともっと面白い作品になる可能性があったと思います。



8. 小さいおうち/中島京子
直木賞をとった作品。以下はmixiレビューより
昭和初期から戦中にかけて女中奉公していたときの話を,タキという老女が振り返って回想録を書くという構成。カズオイシグロの「日の名残り」と重なって見える。日の名残りはイギリスの執事でチャーチルが出てきたりと,大きく政治にまで絡んでいるのに対し,こちらはおもちゃ会社の常務の家ということで話の大きさは大分違うが,もてなしの気持ちや,細部へのこだわりで人を喜ばせるところ,生真面目さの中に宿るちょっとしたおかしみなど,最初は「日の名残り」のパロディとして書いたのかと思ったほど。実際,著者が影響を受けた本の一つとして挙げていたので,かなり意識して書いたことは確かなようだ。

本書では終章としてタキが亡くなった後,甥っ子がその足跡を追うところが描かれている。個人的にはそれはなくて静かに終わってもよかったような気がする。



7. 乙女の密告/赤染晶子
芥川賞を取った作品。言葉にリズムがあるのが魅力的。
乙女という言葉はほとんど死語に近いが,日本で乙女という言葉が似合う土地を挙げるとしたらやはり京都になるだろう。本書の舞台は京都の外国語大学。ドイツ語を学ぶ“乙女”たちはバッハマン教授が「アンネの日記」で一番重要な日だという1944年4月9日の日記を暗唱するという課題を大会用にあてられる。

乙女という言葉に代表されるように,ひたすら暗唱に取り組む彼女らの姿,黒ばら組とすみれ組に分かれて対決する姿,アンゲリカ人形を肌身離さないバッハマン教授などどこか現実感がないが,それが逆に生き生きと描かれる京都の姿と不思議にマッチして独特の雰囲気を醸し出している。文章のリズムもよく,おもしろい。



6. マルドゥック・スクランブル/冲方丁
同じ作者の天地明察とは全く違ってこちらはSF作品。魅力はこっちの方が上。
主人公のルーン・バロットは少女の娼婦。自分を助けてくれたはずのシェルに焼き殺されそうになる。それを救ったのがドクターと自在に形を変えて武器などになることができるネズミ「ウフコック」のコンビ。命を救うため「マルドゥック・スクランブル-09法」によってバロットは電子機器を触れずに制御する力が与えられる。バロットはウフコックの力を借りてシェルに立ち向かおうとするが,そこに立ちふさがったのはシェルの用心棒役であり,ウフコックの元の相棒ボイルドだった。

前半はウフコックとバロットが追っ手と対決するアクション・シーンが目玉。
中盤からはカギを握るシェルの「記憶」を得るためにカジノでバロットとウフコックが奮闘する。ルーレットでは一流のスピナー「ベル・ウイング」と心通じ合い,ポーカーでは撹乱によってグルになっている相手を粉砕する。

そして山場になるのがブラックジャック。SFとしてはバロットの遠隔操作能力と,ウフコックの武器としての能力が圧倒的なのであるが,ここではそれを半ば封印して,ブラックジャックのカードを推測するための「カウンティング」だけに徹し,人と人との勝負を繰り広げる。単なるアクションに終わらせなかったところがすばらしい。

そして最後はボイルドとの再対決では前回以上の熾烈なアクションが繰り広げられる。



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Date: 2010/1221 Category: 読書感想
Posted by: Andy
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コグレマサトさんといしたにまさきさんの「マキコミの技術」を読みました。マキコミといっても,なんだろう?と思う人が大半だと思いますがサブタイトルにあるように「最前線から見たソーシャルメディア・マーケティング」について語った本です。

ソーシャルメディア・マーケティングというと,Twitterを使いましょう,Facebookのファンページを作りましょう,といったテクニック論に陥りがちですが,本書ではそこを「マキコミ」という柔らかい言葉を使って単なるテクニックではなく「人と人とのつながりをつくっていくことなんだよ」と言っているように思いました。

個人的には,コグレさんには以前仕事で本を書いたときに,お会いしたことがあり,今回載っている事例の中でも冒頭のリヤカーブックス,豚組のところで出てくる「3cmとんかつ」には私自身も巻き込まれています(ブログには明記していませんでしたが,3cmとんかつはコグレさんと同席していました)。そういった経緯もあり,馴染みのある話が多く,あっさりすんなり読めてしまったのですが,この本の場合,読み終わったところが新たな出発点なのだと思います。

具体的に言うと,本書にはWork1~4として「自分のリヤカーブックスを開くとしたら?」「『継続』できなかったブログの改善案を考える」「『つながり』を作るオフ会を企画する」「あなたは誰と『マキコミ』したい?」というお題が与えられています。これらのお題,あるいはそれ以外の,自身の考えた課題で,どうやって「マキコミ」をしていくのか,その実践が問われるのです。

実は,私もちょうど「オフ会」を開こうと考えていたところでした。これについては別の記事で改めて詳しく書きますが,いつもワインを買っている「August West」で今年もワインを買ったところ,6本届くはずのワインが12本来てしまいました。あわててクレジットカードのチャージを見ても6本分しか引かれていません。ワインメーカーのEd Kurtzmanさんに「残りの6本分チャージしてください」とお願いしたところ「私のミスなので,それは差し上げます。August Westを知らない人に飲ませるなどしてください」という返事が来ました。そこで,このワインを使ったオフ会を来年早々にもしようかな,と思っていたのです。

というわけで,本書を読んで自分の「マキコミ」を考え始めているところです(このワイン会について巻き込まれてみたい人は@andymaにメンションあるいはDMを送ってくださいませ)。そう思いながら読むとまた,いろいろなところにちょっとずつヒントが見つかり,なかなか味わいの深い本でもあります。