芥川賞2作,直木賞2作のうち1作ずつを読んだ。とはいっても「月と蟹」の方は昨年末,まだ直木賞候補が発表される前のことだ。面白いことにこの2作,舞台がすぐ近くである。「きことわ」は葉山,「月と蟹」は鎌倉だが,話の内容は鎌倉というより葉山・逗子あたりの方が近く感じる。鎌倉・湘南というのは明治より小説の舞台によく取り上げられているが,一種その伝統を引き継いだ作品とも言えるのかもしれない。

「きことわ」は著者3作目の作品らしいが,一言でいうと「上手すぎるくらい上手」。文章もうまいし,様々なエピソードがタペストリーのように絡みあう構成もこ憎たらしいほどだ。

ちなみに「きことわ」とは貴子(きこ)と永遠子(とわこ)の話。冒頭は
永遠子は夢をみる。
貴子は夢をみない。

で始まり,夢をみる永遠子とみない貴子というコントラストが随所に現れる。もともと永遠子は貴子の母春子の葉山の別荘の管理人だった淑子の娘であり,貴子より7歳年上。貴子が夏休みに別荘にくるときには永遠子はしばしば遊びに行っていたという仲である。
舞台は一緒にすごした最後の夏から25年後。別荘を引き払うことになって永遠子が手伝いに行く。その話と夢をみるように思い出す昔の話が絡まりあって進行する。その夢とも現ともつきかねるところが実に巧みなのである。もうちょっとひねり過ぎると幻想小説になりそうなところを一歩踏みとどまって進むような感じ。といっても通じないとは思うが…面白そうと思った人は読んでください。



月と蟹は続きで

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