ナパのオークノールにあるワイナリー「マテッラ | キューナット・ファミリー・ヴィンヤーズ」のオーナー夫人とワインメーカーなどが来日し、そのセミナーに参加してきました。実はオーナー夫人は仙台出身の日本人で「美紀」さんといいます。ワイン造りをするとは夢にも思っていなかったそうですが、イリノイ州出身のご主人がいつか農業をしたいという気持ちを持っていて、ナパ旅行をきっかけに2007年に畑を買い、ワイナリーを始めることになりました。美紀さんは「そういう運命だった」と、米国の慣用句「It was meant to be」を使っておっしゃっていました。

とはいえ、群雄割拠のナパのワイナリーの中で、個性を出すのには苦労していた面もあったようです。それが近年大きく二つのテコ入れで魅力的なワイナリーになってきました。

一つが2019年から参画しているワインメーカーのチェルシー・バレット(写真左)。父親がシャトー・モンテレーナのボー・バレット、母親が「ワインのファーストレディ」と言われたハイジ・バレットという超エリート夫妻の娘です。ちなみにハイジ・バレットの父親のリチャード・ピーターソンも著名なワインメーカーです。シャトー・モンテレーナを庭として育ったチェルシーにとってワインメーカーはまさに天職であり、ジョエル・ゴットでワイン造りを始め、その後南フランスやワシントン州、オレゴン州、サンタ・バーバラなど様々なところでワインを造り、現在は母のハイジともアミューズ・ブッシュで一緒にワイン造りをしながら、マテッラのワインメーカーになりました。ワイン造りは科学だけど芸術的な面があることに惹かれるという彼女は、メルローを自社畑で育てているマテッラに魅力を感じたそうです。


左がチェルシー、右はディレクター・オブ・オペレーションズのキャリン・ハリソン。UCデーヴィスで医学を学びながらワインの授業を受けて興味を持ち、コースを変えたとのこと。タンニンや色の抽出などをラボで研究しているそうです。

チェルシーの紹介が長くなりましたが、もう一つのテコ入れが「ジャパン・シリーズ」と呼ぶ和食との相性も考えて作るワインです。和食に合うようなデリケートな味わいのワインを造る上でもチェルシーの実力やワインの好みが生かされています。

このシリーズを始めたのは、美紀さんが、ルーツである奈良の吉野に2016年に招待されたのがきっかけでした。それまで先祖には興味がなかったそうですが、実はひいおじいさんが「日本林業の父」とも呼ばれる土倉庄三郎という人であり、奈良の山の静けさを表すようなワインを造りたいと思ったのでした。現在はシャルドネとロゼ、カベルネ・ソーヴィニヨンの3種類のワインをジャパン・シリーズとして作っています。

マテッラのワイナリーとエステートの畑があるオークノールは、ナパ市のすぐ北、ヨントヴィルの南にあり、霧の影響実大きいナパの中では比較的冷涼なところです。ナパ川の流れも広くなり、粘土やロームといった川由来の土壌があります。メルローやシャルドネに向いた土地です。
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地図で☆マークで示したところがマテッラの自社畑があるところです。

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エステートの畑のブロック図です。メルローとシャルドネが多いのが分かります。ブロックが傾いているのは日当たりを考慮しているためだそう。

サスティナブルなワイン造りや栽培を目指しており、ナパ・グリーン・ワイナリー、フィッシュ・フレンドリー・ファーミングの認証を取っています。有機栽培やナパ・グリーン・ヴィンヤードの取得も目指しています。

試飲のワインに移ります。1本目は2023年が初ヴィンテージとなるアルバリーニョの「やまぶき」。ワインの色合いや香りがヤマブキに似た印象があることから名付けました。FOD(Field of Dreams)と呼ぶ畑に2020年に植えた樹で、まだ1エーカーあたり2トンしか収穫がありません。そもそもナパではアルバリーニョはレアな品種であり、模範となるようなワインもないので何もかもが試行錯誤のようです。
さわやかで海の香りやかんきつ系の香りがあります。テクスチャーはちょっと粘性が高くねっとりした感じ。すっきりとしながらも少しグリップ感があり、美味しいアルバリーニョです。発売は今秋になるとのこと。

2本目はジャパン・シリーズのシャルドネ「森閑」2022。吉野の杉の静けさを表すシャルドネでシュールリーでクリーミーさを出し、新樽4%、しかもライトなトーストの樽で少しストラクチャーを与えています。
酸高く、貝殻やチョーク、青リンゴ、ジャスミンを感じました。アフターに樽由来と思われるかすかな苦みがあります。カリフォルニアらしい果実味を強く出したシャルドネではなく、寄り添うような味わい。

3本目はレギュラーのシャルドネでヴィンテージは2021年。白桃やクリーミーなニュアンスがあるのでマロラクティック発酵による風味かと思ったのですが、マロラクティック発酵は行っていないとのことで(チェルシーはシャルドネはマロラクティック発酵しない派だそうです)、バトナージュによって生まれたテクスチャーを勘違いしたようです。ほのかなバニラの風味(新樽率は28%)でバランスのいいシャルドネです。ほどよいリッチさが良かったです。

4本目からは赤ワイン。ミッドナイト2021。これはマルベック29%、メルロー21%、プティ・ヴェルド20%、シラー17%、プティ・シラー7%、カベルネ・フラン6%というユニークな構成。ちょっともわっとくるけものっぽさがあり色濃くスパイシーなので最初はシラーかと思いました。濃厚パワフルで面白いワイン。

5本目はライト・バンク2021。ボルドー右岸を意識してメルロー91%というブレンドになっています。赤果実にマッシュルーム。しなやかなタンニン。ストラクチャーもあり、いいメルローです。

最後はカベルネ・ソーヴィニヨン ヒドゥン・ブロック2019。カベルネ・ソーヴィニヨンも美味しいです。バランスよくリッチ感もタンニンもしっかりあり、美味しいです。

試飲の後半は別件で離席してしまい、ワインメーカーのコメントは聞けなかったのですが、ナパのワイナリーの中でもちょっと個性的な位置付けで存在感を出していくことはできそうです。チェルシーもまだ4ヴィンテージしか作っていませんから、これからさらに良くなることも期待できそうです。