ナパのシェーファー(Shafer)が2022年2月に韓国の新世界百貨店のグループの会社に買収されて約1年半。これまでワイナリーを率いてきたシェーファー家のダグ・シェーファーもワイナリーを離れ、新体制が動き始めました。

とはいえ、ワインメーカーのイライアス・フェルナンデスは40年間シェーファー一筋でワインを作っており、今後も続ける予定です。ワイン造り自体が根本的に変わることはありません。

先週、ジェネラルマネージャーのマシュー・シャープ氏が初来日し、ランチで話を伺いました。店は銀座のWolfgang’s Steakhouse Teppan。熟成肉で知られるウルフギャング・ステーキハウスが手掛ける鉄板焼きスタイルのレストランです。


シェーファーのマシュー・シャープGM。シェーファーのワインについては「飲んだときにバランスを見てほしい。ニューワールドの味わいとオールドワールドのフィニッシュを両立させている」と語りました。


新オーナーに代わってもワイン造りは変わらないと書きましたが、実際には変わったところもあります。醸造設備を増強し、畑も購入しました。それだけ聞くと、生産量を増やしてお金儲けしたいだけ、と思うかもしれませんが目的はだいぶ異なります。

ナパでは2017年、2020年と大きな火事の影響を受けました。シェーファーは2017年の火事ではワイナリーのすぐ近くまで火が押し寄せ、ブドウ畑が防火帯になることでようやく難を逃れました(レンタルハウスが一つ燃えましたが)。2020年は火事からの煙の影響で赤ワインの生産をすべてやめました。それだけでなく温暖化の影響で、極端な熱波が押し寄せる危険なども増えており、収穫時期がそれらの影響で大きく変わることがあり得ます。熱波が来るからその前に収穫をしたい、となってもワイナリーの醸造設備は収穫時期にフル回転(発酵はステンレスタンクで行い、その後熟成で樽に移します)していますから、収穫したブドウを発酵させるタンクが足りないといったことになります。

醸造設備の増強はそういった状況に対応するためのことで、例えばすべてのブドウの収穫がわずか1週間の間に行われたとしても対応できるようにしたとのことです。また、ブドウの選果に使うオプティカルソーティングの機械(ベルトコンベアの上にブドウの実を流し、光を当てて未熟な実やゴミなどを発見しはじき飛ばす)もいいものに変え、選果のプロセスも早く済むようにしています。シェーファーでは温暖化の影響としては今のところ収穫時期が一番大きいとしており、今回の増強に踏み切りました。

また、畑については2022年8月にスタッグス・リープの自社畑「ホームランチ」に隣接する「Woldfoote」という9ヘクタールの畑を買収しており、今年2月にはアトラス・ピークで「Altimeter」という4ヘクタールの畑を購入しています。どちらもカベルネ・ソーヴィニョンの畑です。「Woldfoote」は「ホームランチ」自体の拡張ということで極めて貴重な畑を手に入れた形です。元の持ち主はスクリーミング・イーグルの創設者のジーン・フィリップスとのこと。イライアスは今年2月の畑の買収時に「ワインメーカーとしてトップの畑から一番いいブドウだけを選べるというのは夢みたいなことだ。今回の購入で、どんなヴィネテージでも最高の状態のカベルネ・ソーヴィニヨンを手に入れられる。この買収の意味は品質に尽きる」と語っています。

また、畑は樹齢は平均20年くらいとのことで、樹齢が高く収量がエーカーあたり0.5トンなど極端に減ってしまうものは植え替えていきます。植え替えると数年はワインに使えませんから一度に畑全体を植え替えるのではなくローテーションしていく形をとります。今回ホームランチが拡張されたことで、そのローテーションがよりやりやすくなったと言っていました。

シェーファーの畑は全体で250エーカーあり、うち70エーカーがホームランチということになります。

そろそろワインの話に移りましょう。

ランチの最初のワインはシャルドネのレッド・ショルダー・ランチ2021(希望小売価格1万1000円)です。レッド・ショルダー・ランチというのはカーネロスにある畑の名前で「レッド・ショルダー・ホーク」(日本名はカタアカノスリ)というタカの一種が住んでいることから名づけられたそうです。タカは1日にモグラ1匹とネズミ3匹を捕まえると言われており、これら根をかじる動物から畑を守る役割をしています。サスティナブルな栽培をする畑の多くが猛禽類を使っています。

このシャルドネ、マロラクティック発酵なしでずっと作られてきており、フルーツ感と生き生きした酸味を特徴としています。私もナパのシャルドネの中で大好きなもののひとつです。ただ、ワイン造りはここ5年くらいで変わったところもあります。以前は熟成を新樽のみで行っていたのですが、2015年からだんだん新樽率を下げていって、現在は新樽率40%程度になっています。

新樽率が下がったためか、より果実味がくっきりと感じられるようになった感じがあります。オレンジなどの熟度の高い柑橘の風味、酸は高く味わいが口中に広がります。長い余韻。樽の風味は前面に出てこず、背後を支えている印象です。なお、ブドウの収穫時期はBrix24くらいを見極めているとのことでした。それを超えていくとバランスが崩れ、ワインの熟成もあまりしなくなるとのことです。



次のワインはTD-9 2021(1万5000円)。実は今回一番変わったのがこのワイン。品種表示がカベルネ・ソーヴィニョンになったのです。

元々TD-9はメルローの代わりに作られたワインでした。シェーファーのメルローはナパのメルローの中でも人気が高かったのですが、シェーファーにとっては頭痛の種でした。自社畑はあるのですが、収量が安定せず、購入したブドウも合わせて作られており、品質を保つのに苦労していたのです。そこでメルローという縛りをなくして「とにかく美味しいブレンドを」として作ったのがTD-9。名前はシェーファー家がナパに来て最初に買ったトラクターから来ています。

2015年の登場時期はメルローが半分以上入っていましたが、よい品質のワインを突き詰めた結果、次第にカベルネ・ソーヴィニョンの比率が上がり、ついに今回品種名を書くことになりました。これでシェーファーのカベルネソーヴィニヨンは3種類になり、そのエントリーレベルの位置付けです。ワインは8週間前に瓶詰めされたばかりで日本が最初のお披露目です。

セパージュはカベルネ・ソーヴィニヨン76%、メルロー11%、プティ・ヴェルド10%、マルベック3%。

ブラックベリー、カシスの果実味、カベルネ・ソーヴィニョンが増えたせいか黒鉛ぽさが増しています。ちょっと柔らかさがあるのは、これまでのTD-9を彷彿とさせます。やや強めのタンニンがありますが、非常にこなれています。フルボディでシェーファーらしい味わい。なお熟成は12カ月。新樽100%でアリエルとトロンセという2種類の樽を使っています。




次はワンポイントファイブ2021。セカンドの位置付けのカベルネ・ソーヴィニョンです。ボーダーラインと呼んでいるスタッグス・リープ・ディストリクトの境界線のごくわずか南にある畑のブドウとホームランチのブドウを使っています。実はこの畑も少し拡張しています。ナパでは土砂の流出を防ぐため、斜面の畑の開発はほぼ許可が得られなくなっています。ただ、この畑の敷地の中でこれまでブドウ畑になっていなかったところが2017年の火事で焼けてしまい、植栽がなくなってしまったので、その部分を新たな畑としてブドウを植えられるようになったそうです。なお、今後はアトラス・ピークの畑もワンポイントファイブに加わっていく予定です。

20カ月新樽熟成。セパージュは94%カベルネ・ソーヴィニョン、3%プティ・ヴェルド、 2%メルロー、1%マルベック。7月に瓶詰めしたばかりです。

果実の風味はTD-9に似ていますが、より黒鉛のニュアンスが増えているのと、酸味が強いこと、タンニンがよりきめこまかいのが特徴です。非常に良質のカベルネ・ソーヴィニョン。



最後はフラッグシップのヒルサイドセレクト2018(7万2000円)。値段がまた上がってしまいましたが「オーパス・ワンより25%安いくらいを目指している」とのこと。

ヒルサイドセレクトはホームランチのブドウを100%使っており、セパージュもカベルネ・ソーヴィニョン100%を毎年続けています。このワインを飲むたびに思うのは、「カベルネ・ソーヴィニョンというブドウの美味しさを最高の形で分からせてくれるワイン」だということです。ボルドーのワインはもちろんのこと、ナパの最高級のカベルネ・ソーヴィニョンも多くは複数品種をブレンドしています。それは味わいの安定性(ヴィンテージごとの差異を減らす)ことや、複雑味を出すことなど、目的があってしていることですが、カベルネ・ソーヴィニョンはそれ単体でも素晴らしい味わいなのです。ヒルサイドセレクトはその最高傑作の一つです。

ワンポイントファイブも十分美味しいのですが、ヒルサイドセレクトは香りのレベルが違います。酸もよりしっかりし、完璧なストラクチャーとテクスチャーを持っています。酸が強いのはスタッグスリープの火山性の土壌が寄与しているとのことでした。いつもながら素晴らしいワインです。

なお32カ月新樽熟成し、その後瓶熟1年を経ています。

お肉も堪能しました。




カベルネ・ソーヴィニョン100%の質実剛健な味わいには脂たっぷりの料理よりも、これくらい研ぎ澄まされたシンプルなステーキの方が合うのかもしれないと感じました。

布袋ワインズさん、ありがとうございました。