何箇所かで著作権上大丈夫だろうかという疑問を見たので,許諾を得ないでマンガの絵を引用することについて書いておきます。

著作権法の第三十二条第1項には次のように書かれています。
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

また,文化庁による「著作権テキスト~初めて学ぶ人のために~(PDF)」の69ページには,引用の条件として次の七つが挙げられています。
ア既に公表されている著作物であること
イ「公正な慣行」に合致すること
ウ報道,批評,研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること
エ引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
オカギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
カ引用を行う「必然性」があること
キ「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

今回の場合,市販されている雑誌ですから「ア」は問題ありません。「イ」の「公正な慣行」については後述します。「ウ」については,今回の内容のうち,疑問点や問題点がある部分だけを使っているので「正当な範囲内」であると考えられます。

「エ」については批評の内容をきちんと書いており,この記事の「主」は私の書いた部分であると思います。「オ」については絵とそれ以外の部分は明確に分けていますし,テキスト中の引用でもかぎ括弧を付けて区別しています。

「カ」については「神の雫」の批評なのでその該当する漫画の該当する部分の引用であり「必然性」があります。「キ」については正確には,モーニング2009年No.31 神の雫 No.214「長閑な葡萄畑に忍び寄る、黒き影は」(2009年6月発行)と書いた方がいいのでしょうけれど,記事を書いた日やマンガ名により,特定されますから問題ないと思います。

イの「公正な慣行」が何を示すのかは明示したものが見つかりませんでしたが,例えば「同一性保持」という問題があります。原作をねじ曲げて使った場合,その問題が生じます。この点については原作の意図が伝わるように必要な場合はテキストに補記しています(例えばオークヴィルの説明のところ)。

以上のように基本的には今回の引用について問題はないと判断して使っています。ただ,出所の明記については,もう少しきちんと書いた方がいいかもしれません。また「主」「従」について,画面上で占める面積だけを見ると引用部分の方が少し大きくなってしまっているかもしれません。絵とテキストでは面積当たりの情報量が違うので,内容的には絵が従になっていると思いますが,絵の大きさをもっと小さくするなど,考慮する必要があるかもしれません。

なお,この記事を書くにあたっては「マンガの中の聴覚障害者」の「著作権について」のページや,「ふき出しのレトリック」の「著作権について」のページ,「研究と教育と追憶と展望」の「著作物の「引用」とは -著作権のノート」などを参考にしています。