カリフォルニアワインあらかるとのメルマガにリーファーコンテナ(定温輸送コンテナ)を使ったワインの輸送(主にフランスから)がどうなっているか,詳しい話が出ていました。業界の人なら常識なのかもしれませんが,個人的には勉強になったので,許可を得て転載します。

なお,メルマガですから当然主眼はワインの宣伝であり,シャルドネの最高峰と言われるモンラッシェがコンディションに左右されがちで個体差が大きいのに対し,カリフォルニアの方が比較的その要素は低い,ということで最後はTORのシャルドネを紹介しています。

##以下転載(改行調整などは行っています)##
内陸深くに位置するボーヌよりディジョンに在る輸送会社の倉庫を経由し、積み地のル・アーヴルまで陸路450km以上を車上に揺られ、海上輸送に転じては、ドーバー海峡を尻目に、北大西洋からやがて赤道を跨ぎ南半球へ。

更に南下を続け、アフリカ大陸最南端の喜望峰を望み、インド洋へと抜ければ、今度は北半球を目指して北上。

マレー半島沖から東シナ海を経由し太平洋へと抜ける前には、二度目の赤道通過を経ることとなります。

そして、“何事”も無ければ、ル・アーヴル出港から、ほぼ31~32日を経た後に東京港へと辿り着く訳ですが、もしも、仏側における一方の主たる積み地、マルセイユ(ホース)が選ばれた荷であるならば、途中に“更なる難関”が待ち受けます。



ところで、世界中のワイン輸出入業者に選ばれる、定評あるワイン専門の海上輸送会社に、管理に厳格な定温便(リーファー)を扱う「JFヒレブラント社」があります。ここの特徴は、請け負い対象を、他多くの船会社のように、専ら 「コンテナ毎」とはせず、混載(LCL)により、小口の「パレット毎」も可能とするが故、少量生産のファインワインへの適性に秀でたビジネススタイルとなっています。

欧州を始め、北米や南米、オセアニアといった有名産地のほぼ全域を網羅する均一品質のサービスを展開する中、東京を仕向け地とする本船の数は、やはりフランス発が圧倒的多数。サービス対象エリアにある産地のワインを取り扱う日本のインポーター各社も、概ねは「ヒレブラントを利用している。」と公言します。

但し、フランス発は月当たりに四便以上が出港するのに対し、東京港向けカリフォルニア(オークランド港)発は、月当たり一便に過ぎません。カリフォルニアワイン取扱い各社による新規オファーがひと時に重なるのは、こんな事が要因の一つとして挙げられます。



話を戻しましょう。

▼ マルセイユ発に待ち受ける“更なる難関”とは?
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昨今、台頭する新興国におけるフランス産銘醸の絶対的消費量が増し、ちょうど工業用鉄鋼原料などに見られる現象と同様本船の予約が占められ、それら確保には大きな困難が伴います。

然るに、未だ需要に供給が追いつかぬ状態が続くル・アーヴル発。

ところがそれに相反するかのように、フランス最大の商業港であるマルセイユ発は、比較的に便の確保が容易です。


◇ 各社は、ル・アーヴル発の空きを待つでしょうか? ◇
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ブルゴーニュとマルセイユを結ぶ途中に、ローヌやプロヴァンスを始めとする南仏があります。

特に巨大資本のネゴスでない限り、混載(LCL)を余儀なくされるワインがブルゴーニュ。それと共に、取扱い品目に南仏ワインを加えるインポーターの幾つかは、陸上輸送における経済的合理性を優先し、出港地としてマルセイユを選びます。

大量かつスピーディーな供給が義務付けられ、「空きを待とう。」など悠長な姿勢ではいられぬ有名大手程例外ではありません。彼等の多くに、必要な本船を確保し易いマルセイユが選ばれるという「事実」があります。

3~4日も余計に要するのに…

◇「ル・アーヴル発は31~32日。片やマルセイユ発は34~35日。」
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しばしば、港湾関係者のストライキにより、足止めを食らわされるマルセイユですが、それが無かった場合の話です。

地中海に面するマルセイユが、より遠方のル・アーヴルに比べ2~3日程多くの日数を要するとは、一体どういう事でしょう?

今や、世界の一大消費地である中国。いつの間にか、日本の優先順位は、それに劣るものとなってしまったのでしょうか?

現在、ヒレブラントのサービスにおけるル・アーヴル発に東京港直行便が含まれるのに対し、マルセイユ発東京向けに限り、全ては上海を経由されます。そして上海では、航空機搭乗におけるトランジットの例に等しく、荷の積み替えが避けられません。

まるで、そこが事実上の終着港であるかのように。


貿易業務に明るい方ならご存知でしょうが、船から船、若しくは荷揚げ時にコンテナを移動する際は、即日に実施される訳ではなく、コンテナヤードでは「出番待ち」なる時間が要されます。費やされる時間が、四日間以上に及ぶ例も珍しくありません。

その間、リーファーの電源は保障されると思いますか?作業中に電源が抜けた場合、保険は適用されるでしょうか? 「コンテナ移動では、リーファーの電源は保障されず、又、起こり得る温度変化は摂氏三度程」と知れば、如何に感じるでしょう? 「摂氏三度」とは、概ねが経験則上の「最下限値」であり、理論上は、一層と大きな温度上昇が起こりうるとも聞きます。

売主(生産者)に買主(インポーター)も、目が届く筈の無い場所で、荷はどのように扱われているのか?鹿児島よりも緯度の小さな灼熱の上海港では、如何なる環境の下、港湾荷役はどの様に進められているのか?

疑問は膨らむばかりです。



かつて、日本を代表する某有名インポーターが、社内からの告発と思われる「輸送中にリーファー電源が落ち、(世界的に極めて有名な)ヴォーヌ・ロマネの某高級銘柄を、熱により吹きこぼれさせた。」なる話を耳にしました。全滅に近い状態であったようです。又、あるインポーターは、やはりリーファーの電源が落ちた際に、保険料込み(CIF)の貿易条件であったにも関わらず、商品損傷の解釈に話が噛み合わず、保険適用に至ることなく、全てを廃棄処分とせざるを得なかったとも。相当の額が廃棄に費される上、更には通関時において、酒税、関税、消費税を納めぬわけにはいきません。だからといって、まさかこんなものを、「“ワンコイン”と称し、売られる筈など無い。」と、断言できるでしょうか?多くのインポーターは、海上輸送にリーファーを選びますが、業界内では「あそこは使っていない。」と噂される先もあります。

オプション契約として数万円多く掛かるものの、随時の温度データを記録に残し、それをリスク回避の為の対抗手段とするなど、輸送コストを惜しまぬ理性を効かせたインポーターもあります。やがて、それら経費は、商品の販売価格に乗じる事となりますが、消費者にとっての「美味しいワインの為の保険」とも思えば、一本当たりの換算額は、リスク回避に見合う十分な対価と言えるのではないでしょうか。



真夏の太井埠頭を車で走っていた際、偶々目にしたトラックの幌の下に、明らかにワインと思われる箱の山を見た事があります。陸上輸送においても、定温便へのコストを削る業者もいるようです。


赤道を一度も通過しないばかりか、幾度も暖流に乗る欧州発に比べ、北米発の本船は、まるで逆行するようなルートを辿り、オホーツク海方面より三陸沖まで南下する寒流の親潮に乗り東京港に至ります。また、その間の海上輸送に要する期間は約一週間。

なにも、カリフォルニアワインの優位性を解くのみに、書き綴ったわけではありません。

ご多分に漏れず、かつての私もボルドーやブルゴーニュからワインを学び、それら一本槍の時も過ごしました。未だ深く記憶に刻まれる肝銘的ワインを挙げるとすれば、その中の幾つかには、かつて触れたかの地の産出も含まれます。但し、決して少なくもない頻度でボトルバリエーション(固体格差)に当たり、幾度と無く辟易とさせられたとも事実です。


商品の性格上、ワインのインポーターには、規模を大きくせずに専らファインワインに特化する業態も珍しくはありません。中には、最小単位の一名で運営する先さえ、幾つもあります。彼等に接すると、何よりも熱いパッションが伝わってきます。そこに産地は問われません。

ワインと共に、彼等の情熱と意気込みを尊び、息の長い関係を大切にすることで、巡り巡って素晴らしいワインと再び出会えるはず。そんな気持ちから、確かな品質が保たれた商品案内を続けて参りたいと思っております。



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▼ 固体格差に激しいモンラッシェを羨望とするならば、
TORやピーター・マイケルのシャルドネを体験して下さい。
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東京港に荷揚げされたワインは、保税地域を経て定温倉庫に入り、やがて各店へと出荷されますが、その際の国内陸上輸送を担う物流会社として、サービス対象を法人対法人のみ、配送物をワイン専門とする「リーファー システム ジャパン」があります。

あくまでも法人間取引専門の会社であり、また、サービス対象地域を全国とするわけではないので、一般個人の方の目に触れる機会は多いとは言えないでしょう。

ひょっとして、都内に住む方なら見た事があるかもしれません。

シェイファー ヒルサイド・セレクトのボトルが大きく広告された、黄色い社名ロゴの記されるトラックが所々を走ります。


以下二品を取扱うインポーターの倉庫と、弊社所有の倉庫を結ぶ便は、全てが「リーファー システム ジャパン」に担われます。

##以上転載##

ここで紹介しているTorのシャルドネCuvee Torchiana 2008はWine Advocate誌で95点。同ワイナリのシャルドネでは過去最高点を得ています。値段はちょっと高めですが,伸び盛りのワイナリなので挑戦する価値はあるでしょう。