1990年代末にカルト・ワインと呼ばれるワインのブームが起こりました。カルト・ワインは生産量が数百ケースと少なく、ワイナリのメーリング・リストに入って直接購入するか、オークションで買うくらいしか入手方法がありません。例えば100ドルのワインが1000ドル以上になる、といったことが珍しくありませんでした。金に糸目を付けずに買う人が多く出たことから、まるでそのワインの熱狂的信者がいるようであるという意味でカルトと付けられたのでしょう。


2000年にWine Spectatorが出したカルトワイン特集で取り上げられたのは、Araujo(アラウホ)、Bryant Family(ブライアント・ファミリー)、Colgin(コルギン)、Dalla Valle(ダラ・ヴァッレ)、Grace Family(グレイス・ファミリー)、Harlan Estate(ハーラン・エステート)、Screaming Eagle(スクリーミング・イーグル)、Shafer(シェイファー)、そしてMarcassin(マーカッサン)。MarcassinがChardonnayとPinot Noirを作っていることを除くと、いずれもCabernet Sauvignonなど、ボルドー系の品種を主とするワイナリです。また、Marcassin以外はナパのワイナリです。


カルトワインのブームと共に、スター・ワインメーカーにも脚光が当たりました。Araujo、Dalla Valle、Shaferなどに携わったTony Soter(トニー・ソーター)、Marcassinのオーナーであり、Bryant FamilyやColginなどでもワインメーカーをしたHelen Turley(ヘレン・ターリー)、Dalla Valleの立ち上げを手伝い、その後Grace FamilyやScreaming EagleのワインメーカーになったHeidi Peterson Barrett (ハイジ・ピーターソン・バレット)などがその代表です。中でもHelen Turleyは「ワインの女神」と呼ばれるほど神格化されました。


AraujoやHarlanなどでコンサルタントをするフランス人のMichelle Rolland(ミシェル・ローラン)や、畑の管理者として名を馳せたDavid Abreu(デイビッド・エイブリュー)にも注目が集まりました。


カルトワインのブームは、2001年にインターネット・バブルが崩壊したことによって終わりました。その後、第二のカルトと言われるようなワインは様々登場したものの、一時のように、オークションで価格が急騰するようなことは、なくなりました。また、Bryant家とHelen Turleyが喧嘩別れして、その後訴訟になるなど、醜い面も表面化しました。


この間に、ナパではワインの価格が大きく上昇しました。1990年代には定価100ドルを超えるワインは稀でしたが、多くのワイナリがプレミアムのワインを100ドル超の価格で売り出しました。カルトブームの後遺症は今も残っています。