中国の作家莫言(モオイエン)さんがノーベル文学賞を受賞しました。すごく好きな作家ですが、読んだことがある人は少ないと思うので、読んだ作品のレビューを一気に載せておきます。

莫言の作品の一番の特徴は土俗性と滑稽さでしょうか。大衆演劇を見ているような感じがします。洗練を極めた村上春樹とは対極的なところにいるのかもしれません。

それでは作品を見ていきましょう。基本的に発表年順に載せていきます。もちろん読んだ作品だけです。


莫言の初期の作品だが,おそらく小説それ自体よりも映画のほうが有名だろう。
最近の作品に見る滑稽さはあまりないが,土俗性や暴力性などは通じるものがある。ガルシア・マルケスからの影響が濃いということだが,個人的には中上健次の「枯木灘」あたりに近いものがあるように感じた。


この本、確かに読んだのだけど、どこにも感想を書いていなかった様子。きっとちょっと書きにくかったのだろうと思う。内容はタイトルの通り、胸もおしりも大きな女性に固執する男性の成長記。まあ、あれです。面白い。


比較的初期の短篇集。コーリャンが重要な小道具として登場する点など、赤いコーリャンに通じるところがある。短編ということで実験的な作品であったり、感情に訴えてくる作品であったりなど、長編とはまた違った味わいがある。


謀反を起こして捕えられた孫丙(そんへい),美人だが大足の娘の孫眉娘(そんびじょう),眉娘の夫である無能な趙小甲(ちょうしょうこう),その父で死刑執行人を長年続けている趙甲(ちょうこう),県知事で眉娘の愛人である銭丁(せんてい)をめぐる壮大な物語。趙甲による死刑執行シーンのすさまじさ,章によって語り部が変わることでの文体の妙など,大盤振る舞い。

下巻は,いよいよ孫丙の死刑に向かって,全員が動き出す。このうねりの中で大きな役割を果たすのが孫丙自身が開祖となった猫腔(マオチアン)という地方芝居。山東省高密県には実際に「茂腔」という地方芝居があり,茂と猫が同じ発音であることから作者が考案したのが,この猫腔らしい。
ニャオニャオという合いの手に乗せられることで,深刻な話にどことなくユーモラスさがただよう。
ただの娯楽大作と言ってしまってもいいほど爆笑シーンの多い作品であるが,猫腔や語り口の多様さ,各人それぞれの生き様が最後には感動に導いてくれる。すばらしい。

あまりの面白さにこれを読んでいた数日間はモオイエン,モオイエンとつぶやいてました。


食肉加工を専業とする「落とし」の村で生まれ育った羅小通(ルオシャオトン)を主人公とする物語。一炮から四十一炮まで41パートに分かれているが,各パートの中でも主人公が10年後に「和尚さま」を相手に語る部分と,10年前の幼少時代の話が並列しており,特に前者は幻想的でどこまで本当でどこから嘘なのかも曖昧な形になっている。

幼少時代のストーリーは莫言らしい土俗的なものだが,上巻では特に「野生ラバ」おばさんと父親が駆け落ちした後,母親と貧乏暮らしする話が中心。突然父親が「妹」を連れて帰ってくるあたりから話が急展開を始めるが,上巻はそこに辿りつくまでがちょっとまだるっこしい。

下巻は主人公が「肉」と会話できるようになり,幼少期のストーリーは俄然面白くなってくる。一方で10年後の方はエロチックな妄想も増えどんどん訳がわからないことに。

まあとにかく語りの面白さでは右にでるものがない小説。百聞は一見にしかず。読むしかない。


本書では西門鬧という地主が殺害されたあと,閻魔大王に無実の罪を訴え,現世に次々と転生していく。上巻では山羊,牛,豚となってかつての近親者の家畜となる。

下巻は上巻よりも話がスピードアップする。豚の章は特にのりのり。ついに人に飼われるだけでなく,飛び出してイノシシの群れを率いるようにもなる。犬の章では,もうひとりの語り手である藍解放の浮気シーンが秀逸。

奇想天外な物語に饒舌でリズムのいい語り,根底に流れる民衆の権威への反抗といったテーマは白檀の刑に通じる。ただ,話全体のまとまりで行くと,「白檀の刑」の方が良かった。それでも十分おもしろい。


中国の「一人っ子政策」をめぐる悲喜劇を描いた小説。二人目を妊娠したときに中絶させるという役割を担った「伯母さん」を中心とする。

莫言作品としては、シリアスな部分が多く、それだけ作者の思い入れが深い作品であることが感じ取られる。終盤になって、現代が舞台になるのもこの著者としては珍しい。


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廃刊になっている「酒国」も抜群に面白いようなので、いつか読んでみたいと思ってます。中国の小説というとなかなかとっつきにくく感じるかもしれませんが、これを機会に少しでも読む人が増えてくれたらなあと思います。