米Amazon.comの誕生する前から2013年前半までをたどったノンフィクションである。ジェフ・ベゾスだけにフォーカスしているわけではなく、登場人物はかなり多い。正直だれがだれだかわからなくなるくらいに多い。

その中で、最終的に際立つのはやはりジェフ・ベゾス本人の個性とカリスマ性である。スティーブ・ジョブズの本を読んだ時にも思ったが、この人と仕事をしたいかどうかと聞かれたら、一緒に仕事をするのは我慢できないと思う。

ただ、ジョブズとは大きくタイプが異なる。ジョブズは理不尽で気まぐれであり独善的でもあるが、ベゾスは合理的で酷薄である。社員に対して優しい面を見せるときはあっても、基本は酷薄に感じる。さらに競争相手はもちろん、味方であるべき提携先に対しても酷薄である。ベゾスの考える未来を実現するためには手段を問わないのがAmazon.comなのだ。

それが端的に現れたのがKindle用の電子書籍を増やすための出版社との交渉だ。チーターが弱った動物を捕らえる方法になぞらえ「ガゼル・プロジェクト」と名付けたところから既に普通では考えられない(このプロジェクト名は法務室によって変更された)。何をやるかというと、電子書籍に協力的でない出版社の書籍はAmazon.comの上で推奨アルゴリズムから外してしまう。これをAmazon.comへの依存度が高い中小の出版社から脅しをかけるようにやっていったのだ。言わば兵糧攻めである。

僕は自分でも電子書籍を作って販売しているし、自分が買う本も、既に大半は電子書籍に移行している。電子書籍推進派ではあるのだが、正直このくだりを始め、Amazon.comが強大なパワーを持つようになってからの終盤のエピソードには辟易する部分が多かった。

それにしても500ページ近い分量で、それでもまだ駆け足に感じてしまうほど、この20年弱ですべてが大きく変わった。巨大ネット企業の誕生と成長に関心があるならば、絶対に読んでおくべき本である。





「イノベーションのジレンマ」「日の名残り」は本書の巻末に載っているベゾスお薦めの本から抜粋。「イノベーションのジレンマ」はビジネス書を読むのが好きでない自分も面白かった本。「日の名残り」は英国の失われつつある執事を主人公とする小説だが、ベゾスは「ノンフィクションより小説から得るものが多い」と言っているそうだ。ベゾスはこの本から何を得たのだろうか。