江戸時代末期、薩摩藩から留学生として英国に渡り、その後米国東海岸を経てソノマのサンタ・ローザで「ファウンテングローブ」という一大農園を築いたのが長沢鼎です。今年は長沢らが英国に渡ってからちょうど150年。テレビ番組「知恵泉」でも取り上げられました。

その「知恵泉」にも出演されていた『長沢鼎 ブドウ王になったラスト・サムライ』の著者である多胡吉郎さんのセミナーに参加しました。主催は長沢の名前が付いたワインを販売する布袋ワインです。

「ブドウ王」と呼ばれた長沢ですが、「~~王」と呼ばれるには、その分野でただ優れているだけでなく、リーズナブルな価格で優れた製品を出す必要があると多胡さんは説明します。

実際、長沢のワインはさまざまなコンテストで賞を取ったばかりでなく、日本や欧州にまで輸出されていきました。欧州に輸出したカリフォルニアワインとしては最初のものだったと言います。

長沢の生涯については、書籍を読んでいただきたいのでここでは割愛しますが、セミナーではこの書籍の執筆秘話も紹介され、非常に興味深いものがありました。

この本は「ファクション」と言われるような、事実をベースにしながら一部脚色を加えて小説仕立てで書かれています。完全にファクトだけで書かれたノンフィクションよりも、読みやすいのが特徴です。

半面、どこまでが本当でどこからが脚色だかわかりにくいところもあるのですが、本書では少なくともファクトに反するような脚色は入れていないとのことです。

生涯結婚しなかった長沢ですが、本書では一部恋愛感情的な描かれ方をしている部分もあります。もちろん証拠があるわけではないのですが、当時の長沢の状況や書き残したものなどから判断して、そういった描写を加えたそうです。

また、セミナー中に布袋ワインが輸入する「パラダイス・リッジ カナエ・ザ・グレープ・キング シャルドネ」の試飲もありました。

ラベルには長沢の写真が、裏ラベルには簡単に長沢の生涯が書かれています。
Kanaye The Grape King Chardonnay

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ほどよい酸味と適度な樽香があり、とても飲みやすいワインでした。

ファウンテングローブの建物で唯一現存している「ラウンド・バーン」です。

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"Fountaingrove Round Barn" by Frank Schulenburg - Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons.



長沢は1933年に禁酒法が開けた後、わずか数ヶ月でこの世を去りました。その後は、第二次世界大戦に伴う日本人排斥もあり、ファウンテングローブは解体してしまいました。残念なことです。

多胡吉郎さん