Kistler Vineyards(キスラー)は1978年、Steve KistlerとMark Bixlerによって設立されました。単一畑のシャルドネとピノ・ノワールを中心に作っており、カリフォルニアにおける高級シャルドネ、高級ピノ・ノワールの代名詞的存在になっています。
ワインメーカーであり畑のオペレーションも担当するSteve Kistlerはスタンフォード大学の卒業生。同大学の卒業生としてはRidgeのPaul Draperが有名ですが、Steve Kistlerは大学卒業後、Kistler Vineyardsの設立まで2年間Ridgeで働いていました(なお、スタンフォードの後、UC Davis、フレスノ大にも2年間通っていました)。だから、というわけではありませんが、ワインメーカーというより学究肌に見える点など、両者には共通する雰囲気があるような気がします。
Mark Bixlerはフレスノ大で化学を教えているときにSteve Kistlerと出会い、一緒にワイナリを作ることになりました。Kistlerでは実験室の仕事とビジネス・マネージャーを努め、Steve Kistlerとは仕事を分担する形になっています。このほか2008年にはHudson Vineyardを管理していたJason Kesnerがアシスタントで加わっています。
Kistlerは当初Sonoma Mountainに畑を作り、カベルネ・ソヴィニョンとシャルドネを作りました。また、Dutton Ranchなどいくつかの畑と契約して単一畑のシャルドネを作りました。1993年には品質に満足できないという理由でカベルネ・ソヴィニョンはやめ、以降シャルドネとピノ・ノワールに専念するようになりました。
Kistlerのシャルドネとピノ・ノワールは、ロバート・パーカーなどの評論家に高く評価され、注目を集めるようになりました。例えばWine Advocate誌ではシャルドネで最高98点(98点以上は6ワイナリだけ)、ピノ・ノワールで最高99点(MarcassinとKistlerだけ)を得ています。
現在のラインナップはシャルドネがDutton Ranch、Vine Hill、Trenton Roadhouse、McCrea、Kistler、Kistler Cuvee Cathleen、Hyte、Hudson、Durrell、Stone Flat。このほか若木から作られるLes Noisetiersがあります。
ピノ・ノワールはKistler、Silver Belt(Cuvee Natalie)、Occidental Station(Cuvee Catherine)、Bodega Headlands(Cuvee Elisabeth)の4種。ピノ・ノワールの方が生産量が少ない分、価格が高く入手も困難です。ただ、トータルの生産量は2万5000ケースと、プレミアムのワイナリとしては決して少なくない数です。ライバル的に考えられているMarcassinは2000ケース未満と言われていますから10倍以上。高い評価に加えて、手に入れようと思えば手に入るということが、人気につながっているのかもしれません。
キスラーのワインのスタイルは果実味や樽の風味を前面に出したもので、若いうちから楽しめるものが中心です。しかし、過去数年スタイルがかなり変わってきているとのこと。Steve Kistlerが過去のワインの熟成状態に満足しなかったのが理由で、シャルドネでは収穫時の糖度を下げ、樽の使用比率を減らし樽の使用期間を短くしているそうです。ピノ・ノワールでも新樽率が50%まで下がっており、さらに下げる予定と言われています。
近年増えてきたバランス重視のワインにキスラーも向かっているようです。これが吉と出るか凶と出るかは不明ですが、興味深いところだと思います。
なお、2011年のヴィンテージからピノ・ノワールのCuvee CatherineとCuvee Elisabethには、KistlerではなくOccidentalというワイナリ名が付くようになっています。Steve Kistlerが、この2つのワインをスピンアウトする形で別のワイナリに分ける意向だといいます。当初はKistlerのメーリング・リストで販売しますが、2016年ころには、完全に別のワイナリになる見込みです。Steve Kistlerは依然としてCEOとして残っていますが、Kistlerを離れる可能性もありそうです。
なお、ワイナリは非公開。メーリング・リストのメンバーであっても訪問はできません。ワイン作りにすべての力を注ぎたいというキスラーらしいところです。