これまた久しぶりに読書話です。

このところ,若手女性作家の小説を多く読んでいます。きっかけは小説をあまり読んだことがなかった子供に読ませるものを探すため。「中学受験用」というと重松清が一番人気のようですが,どうも読んでいてあまり面白くない(商売上手だなあとは思う)。

文章がきれいだったり,シチュエーションが女の子向きだったりするといったことを考えると自然に女性作家のものが多くなってしまいました。

さて,表題に挙げた二人の作家ですが,どちらも2006年に「風」がタイトルに入る小説を書いています。三浦しをんが「風が強く吹いている」,佐藤多佳子が「一瞬の風になれ」。前者が箱根駅伝,後者が短距離走と立場は違えどどちらも走ることがテーマになっています。


この二人,かなり対照的なのですが,不思議に似たようなテーマのものを書いています。古典芸能を題材にした「仏果を得ず」と「しゃべれどもしゃべれども」,高校生を題材にした「秘密の花園」「黄色い目の魚」。

というわけで,二人を比べてみようというのが,この企画です。


端的に言ってしまうと,文章は三浦しをんの方が上手だと思います。「文才」があるタイプの文章。一方で佐藤多佳子は,練って練って考え抜いて書いている感じ。それが一番顕著に分かるのは二人のブログ。三浦しをんの「ビロウな話で恐縮です日記」はいちいち面白い。無駄にエネルギーを使っている感じもしますが。一方で,佐藤多佳子の「日記のようなもの」はタイトルからして,素人が付けたような感じ。中身もまさにときどき書く日記のようなもので,この作家に関心がある人でなければ見る気にならないでしょう。

「風が強く吹いている」と「一瞬の風になれ」を比べてみても,小説としての“出来”は前者が上。後者は平たく言えば主人公の日記を読んでいるようなお話です。主人公以外の登場人物は,あくまで主人公の引き立て役に過ぎません。ただ,スポーツの持つ感動をストレートに伝えている点で後者の魅力は引き立っています。スポーツものに弱い僕などは何度も目頭が熱くなってしまいました。青春の甘酸っぱい感情をストレートに書いている点も好感が持てます。中学高校でスポーツをやっている子供などが読んだら「一瞬の風になれ」の方がずっと面白く感じられるだろうと思いました。

「しゃべれどもしゃべれども」は佐藤多佳子の小説で僕が読んだ中ではベスト。ただ「仏果を得ず」も相当面白く,個人的にはこちらが勝ち。三浦しをんの場合は自ら対象にのめりこむことが面白さにつながっている感じがあります。この二つでも「仏果を得ず」の方は,読んだ後「文楽」を見に行きたくなったのに対し,「しゃべれどもしゃべれども」における落語はあくまでも話全体を引き立てるための題材です。

余談ですが,文楽つながりということで有吉佐和子の「一の糸」も読んだのですが,これはまた壮絶な小説。有吉佐和子,自分が読むよりちょっと世代が上な感じがして読んだことなかったのですが,これからは積極的に読みたいと思います。

高校生を題材にした「秘密の花園」と「黄色い目の魚」も対照的。前者は女子高が舞台で友人関係や先生との危ない関係など,どろどろした女子の世界が描かれているのに対し,後者は不器用な男子と女子の,気持ちがぶつかったりすれ違ったりする様を描いています。前者は子供には勧めにくいですが,巧み。後者は万人向け。甲乙は付けられません。

タイプは違うものの,二人ともつまらないものは書いていないので,お勧めです。

今回は取り上げていませんが三浦しをんはエッセーも上手。これはブログに通じてます。ただ,エッセーにエネルギーを注ぐより長編を書いて欲しいなあと思うのですが。






もう一つ余談で,三浦しをんには直木賞を取った「まほろ駅前多田便利軒」や「月魚」といった男-男ものもあります。筆者のBL趣味が反映されているのかと思うのですが,男同士の“友情”にしてはなんだかぬるい感じで今ひとつ。個人的にはあまりお勧めしません。