平易な訳文で評判になった光文社古典新訳文庫の「カラマーゾフの兄弟」をようやく読み終わりました。もともと重厚長大な小説は大好きであり,ドストエフスキーの大作小説群も,大体は読んでいたのですが,なぜかカラマーゾフは今回読むのが初めて。堪能しました。

ロシア文学に詳しい方にとっては今回の新訳には異論もいろいろあるのだろうと思いますが,いつも名前だけでも読むのに苦労する(一人の呼び名が様々に変化するのでだれがだれだかわからなくなる)ことを考えると,これだけすらすら読めるようにした訳者の努力は称えられるものだと思います。もの足りなく感じる人は他の訳でも読めるのだし。

さて,肝心の小説ですが,いかにもドストエフスキー的なあくの強いエキセントリックな登場人物がこれでもかというほどに登場します。若干狂言回し的な役割を与えられているのは末っ子のアリョーシャですが,彼は逆に積極的には何もしないことによって物語を動かしていきます。発散気味のところもいくつかありますが,それは本来ドストエフスキーが,この続編となる「第2の小説」を書く予定であり,そこで埋められるべきものだったのでしょう。

頭をかき乱されるような様々なことが起こる前半の後,話は殺人事件へと収束していきます。第3巻では長兄ドミートリイの話を中心に,不安から混乱,そして事件へと向かっていき,第4巻ではその裁判が話の中心になります。

まあ,この小説について何を書いたら伝わるのか僕にはよく分かりませんが,前半つまらないと思っても我慢して3巻まで来たら,後は勢いが付くと思います。そして,エピローグと同巻に収められた訳者の解説を読むと,もう一回最初から読みたくなるでしょう。

次に読み返すのがいつになるかは分かりませんが,とにかく繰り返し読みたくなる偉大な小説のひとつだと思います。特に,もしこれまでドストエフスキーを敬遠してきた人にはぜひ読んでほしいと思います。