平林園枝さんが作るシックス・クローヴズ(Six Cloves)の3ヴィンテージ目のワインが国内に入っています。最初のヴィンテージはシャルドネだけ(リトライなどで修行した日本人の造るワインデビュー作)、2年めはスティーブ・マサイアソンのシャルドネにピノ・ノワール(平林園枝さんの第2作を改めて試飲、やっぱりこれは美味しい)、3年目はどうなるのかと思っていたら、予想もしない方向で進化していました。

3ヴィンテージ目はシャルドネとプリミティーヴォに赤ブレンドの3種類(記事公開当初ピノ・ノワールも入れていましたが、2019はピノ・ノワールはなく今回試飲したのは前ヴィンテージの2018でした)。いずれもヴィンテージは2019です。なお、シックス・クローヴズはブドウ畑は持っておらず、ブドウはすべて購入、醸造はソノマのメドロック・エイムズで行っています。

シャルドネは2018年と同じくスティーブ・マサイアソンのリンダ・ヴィスタ(ナパ)の畑。柑橘系の風味に酸がきれいに伸びてくる印象のワイン。白い花の香り。たおやかでしなやかなワインです。前ヴィンテージ同様、とてもおいしい。

ピノ・ノワール(2018年)はソノマ・コーストのブドウを使ったもの。畑はペタルマ・ギャップ。これも酸が印象的なワイン。

ここまでは前ヴィンテージからの踏襲で、驚きはなかったのですが、残り2種類の赤ワインはびっくりしました。

一つはソノマ・ヴァレーのプリミティーヴォ(ジンファンデル)。ソノマのケンウッドにあるBenguerel(ベンゲレル)という畑で、オーガニックかつ灌漑なしでブドウを育てています。そのブドウを除梗なしで醸造しています。平林さんのブログ(Whole Cluster Fermented Primitivo?Really?)に詳しく書かれていますが、除梗なしで醸造するというのは彼女の夢の一つで、その難しさはゲイリー・ファレルで働いたときにワインメーカーのテレサからよく聞かされたそうです。

しかも今回は天然酵母にこだわったため、醸造はかなり大変でした。除梗しないということはブドウの実に傷や穴がない状態なので果汁が出てくることもなくさらに酵母も与えていないため、そもそも発酵が始まるのかどうかも定かではありません。そこで昔ながらの足でブドウを踏み潰すストンピングによって果汁を出して発酵をうながしたそうです。

そのワインの味わいはふくよかで赤系のピュアな果実味があり、酸がしっかりしているのと同時に、味に深みもありバランスもいい。一般的なジンファンデルの味わいとは大きく異なりますが、非常にレベルの高いワイン。個人的にはこのヴィンテージのイチオシです。

そして最後がカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを半分ずつ使った赤ブレンド。これも驚きでなんと畑はソノマとナパの南端に当たるロス・カーネロス(ソノマ側)にあります。海に近く冷涼なため、ブドウの糖度はあまり上がりません。糖度が22度とカリフォルニアにしては低い状態で収穫しています。一般的な赤ブレンドというと、やや濃い目で甘めの作りになったものが多いですが、これは冷涼感あふれる味わいで全く意表を突かれました。

ピノ・ノワールを含めた4種に共通しているのはやはり冷涼感があり、いずれも酸がきれいに感じられること。そのピュアさが引き立つシャルドネと、果実味とのバランスが素晴らしかったプリミティーヴォが今回は特に良かったです。