9月15日に東京・大手町のパレスホテル東京グランドキッチンで開催された「ABC of Napa Valley」イベントに参加してきました。

「ABC」とはAnything But ChardonnayあるいはAnything But Cabernet Sauvignonの略。1980年代から90年代にかけて、濃厚で画一的なスタイルのシャルドネやカベルネ・ソーヴィニョンばかりが増えたことへのアンチテーゼとして使われるようになった言葉です。

今回は、ナパヴァレーワイン・ベスト・ソムリエ・アンバサダー2023の山田琢馬ソムリエが選んだシャルドネとカベルネ・ソーヴィニョン以外のナパワイン5種をペアリング・ディナーで楽しむという趣向です。琢馬君はソムリエとしての技量はもちろん、ペアリングにも秀でており、2月の試験ではペアリングの賞を獲得しています。普段のグランドキッチンのメニューを合わせるのではなく、今回のワインのためにシェフと特別メニューを考案してくれました。


挨拶をするナパヴァレー・ヴィントナーズの若下さんと琢馬君

写真を撮るのを忘れましたが、乾杯のワインはスティーブ・マサイアソンのロゼ。グルナッシュやバルベーラ、クノワーズなどをブレンドしています。僭越ながら乾杯の挨拶は私がさせていただきました。


ペアリング・ディナーの1本目はフロッグス・リープのソーヴィニヨン・ブラン。フロッグス・リープといえばナパの有機栽培のワイナリーの先駆けとして知られています。ラザフォードの畑などのソーヴィニヨン・ブランを使っており、樽は不使用。ステンレスタンクで発酵していますが、2%だけはコンクリートエッグを使っています。樽を使っていないスタイルですが、果実味も豊かでナパらしい良さを持った、ニュージーランドともロワールともスタイルの異なるソーヴィニヨン・ブランです。

合わせた料理はこちら。「スモールアペタイザー」とあります。フィンガーフードですが緑色に見えているのはワカモレ。アボカド・ベースのメキシカンなディップですが、メキシカンで食べるものほどスパイシーではありません。ちょっとひねりが効いているのが上にちょっと粗塩かかっていること。ライムの酸味と粗塩のミネラル感がソーヴィニヨン・ブランの酸味やミネラル感に合います。アボカド好きとしてはとてもよかったのですが、唯一の難点は一口でなくなってしまうこと。もうちょっとボリュームがあると言うことないのですが。


2本目はロゼ。ハイジ・バレットが作るアミューズ・ブーシュの「Prêt à Boire Rosé」2022

このロゼ、むちゃくちゃ美味しいです。今まで飲んだロゼの中でベストかもしれません。フレッシュ感を保ちながら味わいの深みも感じます。品種はグルナッシュとシラー。南仏的なダイレクトプレスだということですが、それにしては色も濃いです。ワインの名前の意味は「Ready to drink」だとのこと。

料理は「マグロのカルパッチョ ビーツのマリネ 赤紫蘇のヴィネグレット」
ペアリングのポイントは以下の4点とのこと。
・ワインの持つ真っ直ぐでフレッシュな酸× 酸の効いた赤紫蘇のヴィネグレット
・黒ブドウからくる厚みと余韻のほろ苦さ× マグロの厚みと脂質・粗く削った塩の塩味
・わずかに感じるタンニン× マグロの鉄分
・ワインの清涼感× マグロのハーバルなトーン
同じ品種のロゼでも乾杯のマサイアソンはもっと爽やかさが目立つスタイル。それだとこの料理には合わなかったかもしれません。素晴らしい。


3本目のワインはマサイアソンの「リボッラ・ジャッラ」。白ワインですがスキンコンタクトによって色を引き出した「オレンジ・ワイン」になっています。オレンジ・ワインらしいちょっとグリップの効いた味わいはそのまま飲むよりも料理を求めています。


料理はこちらです。「的鯛のカダイフ 牛蒡のブルーテ」

ポイントは
・ワインの滋味深いニュアンス× 牛蒡の土っぽさ
・ワイン全体を支える綺麗な酸× ソースの持つ酸味
・長いスキンコンタクトからくるタンニン× カダイフの塩気や的鯛の質感
だそうです。ちなみに「カダイフ」とは魚を包んでいる細い麺状の衣。ブルーテは「ホワイトルー(小麦粉とバターを焦げ色がつかないように炒めたもの)をフォンで溶きのばし、煮詰めて作ったソース」だそうです。

個人的にはこのペアリングが一番気に入りました。特に牛蒡のソースが、オレンジワインのスキンコンタクトからくる苦味をきれいにくるんでくれます。カダイフの食感もちょっとグリップ感のある味わいにマッチしています。

最後の赤ワイン2本はブラインドで来場者にセパージュを当ててもらうという趣向。選択式だったのでかなり正解率は高かったもようです。


4本目はマルベック、ワイナリーは「ザ・ヴァイス」です。クームズヴィルの畑。ナパでマルベック単体のワイン自体、それほど見かけませんが、特にクームズヴィルのマルベックを飲んだのはたぶん初めてだと思います。どちらかというともっと温暖な地域でチョコレートのような濃厚な果実味を持つものが多いイメージですが、これは冷涼感もあって面白い。マルベックも多様化が進んでいるのでしょうか。


5本目はカベルネ・フラン。ワイナリーは「アッシュ&ダイヤモンド」。ナパでも先進的なワインを作るワイナリーの一つで、最近では「SO2不使用」のワインを作ったなどの話題があります。実はこのワインもワインメーカーはスティーブ・マサイアソン。このワイナリーはワインメーカーが二人いてワインによって変えるというユニークなことをしています。ナパのカベルネ・フランとしてはエレガントなスタイルで、ちょっとピラジン香も感じます。


料理は「日南鶏のグリル 栗とキノコ モーレ ネグロソース」
・Malbec の厚みと引き締まったタンニン× 日南鶏の脂質
・Cabernet Franc の品種由来スパイシーさと熟成感× 栗とキノコの旨味
・2つのワインの樽由来の香ばしさ× モーレソースのスパイシーさ
ということで両方のワインを生かしたペアリングになっています。

というか、この鶏自体がとても旨味があって美味しいです。ソースも本当によく合って美味しかったです。

この後デザートも堪能してこの日のディナーは終わりました。ワインも多様でしたがお客さんも多彩な方々でとても面白かったです。
琢馬君のペアリングの才にも改めて感心しました。

ということで、今度は9月30日に琢馬君とナパヴァレー・ヴィントナーズの小枝絵麻さんによるフードペアリングの料理教室が開かれます。小枝さんは様々なレストランのメニュー開発などをしてきた料理のスペシャリスト。特にペアリングには天才的な感覚を持っています。夜の部はもう満席ですが昼はまだ席があるようです。
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Food Pairing Workshop with Ema & Taku | Peatix