先日のカベルネ編のピノ版です。少々長いですがお付き合いくださいませ。

前回と同様,まずはパーカー高得点ワインから見ていくことにしましょう。カリフォルニアのピノ・ノワールではまだ100点を取ったワインはなく,99点がKistler(キスラー)のCuvee Elizabeth(キュベ・エリザベス)が2回とMarcassin(マーカッサン)のMarcassin Vineyardが3回。Kistlerの場合Sonoma CoastやRussian River Valleyという地域名(AVA)のワインは本数も多く,入手もさほど難しくありませんが,単一畑ものは高価かつ入手困難,地域名ものを作っていないMarcassinはすべて高価かつ入手困難になっています。MarcassinのオーナーであるHelen TurleyはカベルネでもBryant Familyの100点ワインなどを手がけており,カリフォルニアのワインメーカーの中でもやや別格的存在。クライアントによる要求も極めて厳しいという話であり,ちょっと近寄り難い感じがします。一方,KistlerのオーナーであるSteve Kistlerはシリコンバレーの有名校スタンフォードの出身であり,知的なイメージがあります。一方で,両方に共通するのはソノマのRussian River Valley(RRV)を拠点としていること。カリフォルニアの最高のピノはRRVで作られると言っても過言ではありません。



さて,パーカーの得点にもどると98点ではAubert(オーベール),Brewer-Clifton(ブリュワークリフトン),Calera(カレラ),Pisoni(ピゾーニ)が加わります。Marcassinは98点以上が10ワインと他の追随を許さない状況。Caleraは日本への輸入が多く,価格も最近はかなり安くなっています。ただ,Caleraはヴィンテージによる当たり外れのブレが割と大きいので見境なく手を出すのは危ないかもしれません。現行の2007年はCaleraのこれまでのベストと言われています。また,Caleraは熟成でよくなることが多いのも特徴。10年以上経ったワインを選ぶならKistlerよりCaleraの方が無難な感じがします。



なお,Caleraに関しては「ブドウの苗木をロマネ・コンティの畑から持ってきた」「畑の場所を人工衛星で探した」という都市伝説がありますが,前者に関してはいろいろな問題から現在は口をつぐんでいる状況。ただ,ロマネ・コンティかどうかは分かりませんが,ブルゴーニュの畑から枝木を持ってきたものではあるようです。後者に関しては,役所から普通に入手できる衛星写真を見たことはあっても,特別に何かをしたということはありません。

Brewer-CliftonとPisoniは日本に輸入されていますが,本数は少ないので常に品薄状態です。Brewer-Cliftonはサンタ・バーバラのSanta Rita Hills(サンタリタヒルズ)のさまざまな畑からブドウを購入しており,除梗をしない(最近は結構しているそうですが),野生酵母を使うなど,一定のポリシーに基づいたやや実験的なワイン作りをしているワイナリ。ここもやや当たり外れがあります。Pisoniは世界的に有名な水族館があるモントレーの近く,Santa Lucia Highlands(サンタルシアハイランズ)を一躍すばらしいピノの産地にした畑の名前ですが,そのオーナーがやっているワイナリ名もPisoniであり,ここではワイナリ名のことです。Pisoniのブドウを使ったピノは10近くのワイナリが作っていますが,PisoniのPisoniがベストと言われています。Pisoniにも「La Tacheの枝を取ってきて植えたもの」という話があります。事実らしいのですが,これも真相は明らかでありません。



Calera,Brewer-Clifton,Pisoniはいずれもセントラルコーストのワイナリです。セントラルコーストではBrewer-CliftonのSanta Rita Hills,PisoniのSanta Lucia Highlandsが高級ピノの2大産地です。Caleraは山ひとつ内陸側にあり,異彩を放っています。


97点を取ったのはAubertとCalera,Marcassinが2本と少なく,96点まで広げると急にワイナリが増えます。Chasseur(シャスール),Foxen(フォクセン),Hartford Family(ハートフォードファミリー),Rochioli(ロキオリ),Lucia(ルシア),Melville(メルヴィル),Morlet(モーレ),Roar(ロアー),Sea Smoke(シースモーク),Shea(シェア),Sine Qua Non(シネクアノン),Tally(タリー)がそれら。

この中でLuciaはPisoniの弟格のワイナリ。RoarもPisoniと関係が深く,PisoniのオーナーであるGary Pisoniの親友であるGary Franscioniのワイナリです。96点をとっているのはRoarがPisoniの畑のブドウで作ったものと,二人のGaryが共同で持っているGarys'の畑のもの。


また,MelvilleのワインメーカーはBrewer-CliftonのGreg Brewerです。Greg Brewerの名前は覚えておきましょう。Melvilleは比較的安価なワインも作っており,どれも高品質です。


さて,ここまではロバート・パーカーのWine Advocate誌における評価を中心に紹介してきましたが,ピノに関してはパーカーの意見は参考にしないという人も数多くいます。そこで,以下ではもっと幅広くカリフォルニアのピノを見ていきます。

まず,老舗的なワイナリですが,ピノはカベルネと比べると歴史が浅く,高品質なものが作られるようになったのも比較的最近です。したがって重要なワイナリは割と限られています。例えば,既に名前が上がっているRochioliに,Dehlinger(デリンジャー),Williams-Selyem(ウイリアムズセリエム)といったところは90年代から評価が高かったワイナリ。どこも大部分のワインがメーリング・リストの顧客向けに売られるため,いまだに入手困難かつ高価です。また,3ワイナリともソノマのRussian River Valleyです。


セントラルコーストのサンタ・バーバラ地域ではAu Bon Climat(オーボンクリマ,ABC)が有名。フラグシップのIsabelleやKnoxも近年はかなり安価に入手できるようになり,名と価格を両方求めるならCaleraと並んで現在は狙い目になっています。


比較的新しいワイナリでは,自社畑を持つところよりも様々な畑からブドウを購入してワインを作るところがピノでは多くなっています。その先駆けの一つがこのブログでもしばしば取り上げているPatz & Hall。Pisoniのブドウをいち早く使ったワイナリの一つでもあります。


PisoniやGarys'のブドウでワインを作っているというのは,良いピノを作っていることの一つのバロメーターになります。現在,Pisoniを使っているのはArcadian, Capiaux, Miura, Patz & Hall, Peter Michael, Roar, Siduri, Tantara, Testarossa。 Garys'ではKosta Browne, Loring, Miner Familyなどが加わります。

この中でPeter Michaelはイギリス人のオーナーPeter MichaelがSirの称号を持つセレブなワイナリ。ワインはいずれも高価ですが高い評価を得ています。Kosta Browneは2000年以降人気が急上昇したワイナリ。Wine Spectator誌で高評価を付けられ,一時はKistler並みのワイン価格になっていました。今でも入手難ではありますが,以前に比べれば格段に手に入りやすくなっています。


SiduriとLoringはピノ専業のワイナリ。LoringはBrewer-CliftonやMelvilleと同じSanta Rita Hillsにあるワイナリで,倉庫街に小さなワイナリが集まった「ワイン・ゲットー」の中心的な存在です。Siduriはソノマにあり,比較的安価で高品質なピノを作っています。オーナーのAdam Siduriは以前Roarのワインメーカーも務めていました。


最後に,覚えておきたい名前をもう二つ挙げておきます。

一つは日本人の私市さんんがオーナーであるMaboroshi。ソノマのRussian River Valleyの自社畑でピノを作っていらっしゃいます。品評会でも高く評価されています。


もう一人はこのブログでもしばしば取り上げているAugust WestとそのワインメーカーであるEd Kurtzman氏。Edさんは,前述のRoarのワインメーカーをSiduriのAdam Leeから引き継いでおり,日本人のAkikoさんが共同経営者になっているFreemanのワインメーカーでもあります。また,自身のワイナリとしてSandlerもやっています。カリフォルニアのピノ・ノワールで注目されているワインメーカーの一人です。