リーデルの新しいマシンメイド・グラス「Veloce(ヴェローチェ)」シリーズのセミナーに参加しました。講師はなんとリーデルの当主であるマキシミリアン・リーデルその人です。ステムのない「O(オー)」シリーズを開発した人としても知られており、伝統を守りながらも新しいチャレンジに果敢に取り組む人というイメージがあります。



Veloceシリーズは最先端のマシンメイド技術で作られたグラス。「マシンメイドだけどハンドメイドと区別できないレベル」だと胸を張るマキシミリアン氏。グラスの技術者は厳しい労働で極めて人手不足だとのこと。マシンメイドで作れるというのは想像する以上に大事なことのようです。

写真でもわかると思いますが、かなり大ぶりなグラスでステムも長く、とても細い。一方で台座はかなり大きく、持ったときや置くときの安定感があります。素人からするとステムの細さばかりが気になりますが、実はマシンメイドで大きな台座を作るというのも大変な技術だそう。今回の直径10cmの台座というのを実現したのはかなりすごいことのようです。重さもかなり軽いです。

最近はユニバーサルタイプのいろいろなワインに使えるグラスの人気が上がっていますが、リーデルは品種に特化したグラスにこだわり続けています。もうひとつ今回の特徴として、グラスの種類が台座に記されています。


今回はソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン用のグラスで試飲しました。


ワインは3種類、シャルドネとピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨンがプラスチックコップで供されます。

最初はシャルドネ。これをシャルドネのグラスとソーヴィニヨン・ブランのグラス、ピノ・ノワールのグラスで試します。プラスチックコップで供されるのは自分でグラスに入れることで、同じワインを入れていることを確認するためです。



マキシミリアン氏はまず、グラスを横向きにして1周回し、グラスにワインをまとわりつくようにします(これは今回試飲用でグラスに入れるワインの量が少ないためで、毎回これをやれというわけではありません)。

そして、横向きにしたところで上から見て、液体の形がどうなっているかを見るように指示しました。

ちょっとわかりにくいかもしれませんが、これがシャルドネ用のグラスの場合です。

これがソーヴィニヨン・ブラン用のグラスの場合。

これがピノ・ノワール用のグラスの場合です。

写真で見えにくいかとは思いますが、シャルドネのグラスの場合、グラスの縁に近い方の液体の形がやや丸みを帯びていて柔らかい曲線になっています。グラスの縁の部分が一番大きくなっているためですが、ワインが口に入ってくるときにも柔らかく入ってきてクリーミーな口当たりです。果実味を強く感じますが後からミネラル感もやってきます。

これが小ぶりなソーヴィニヨン・ブラン用のグラスの場合はミネラル感が強くなり、果実味はあまり感じられなくなります。アルコール感は強くなります。果実味を重視しない場合ならこれもありかもしれませんが、シャルドネらしい芳醇さが弱いのは否めません。

ではピノ・ノワール用のグラスだとどうでしょうか。大きさはシャルドネ用と似ていますが、口のところがよりすぼまっていて、グラスを横向きにしたときに液体が作るひし形も、より口の方に向かって細くなります。飲んでみると石灰や貝殻の風味を強く感じますが、果実味は弱く、全体にぼやけた味わいになってしまいました。この3種のグラスの中では明らかにこれが一番美味しくありません。

マキシミリアン氏に言わせると、ブルゴーニュの白と赤で同じグラスを使うのは大きな間違いだとのこと。シャルドネとピノ・ノワールの間にはテロワール以外に共通する要素がないといいます。

2番めのピノ・ノワールはピノ・ノワール用のグラスの他、シャルドネのグラスとカベルネ・ソーヴィニヨン用のグラスで試飲しました。

ピノ・ノワール用のグラスはバランスよく、果実味を豊かに感じます。

一方、シャルドネ用のグラスでは、味わいがぼけてしまい、香りや味わいを取るのがちょっと難しくなりました。さらに意外とタンニンを強く感じ、苦味も強くなります。

また、カベルネ・ソーヴィニヨンのグラスでは、よりストラクチャーを感じますが、ワインのアロマは感じにくくなります。シャルドネ用のグラスよりはこちらがいいと思いましたが、ピノ・ノワールらしさはあまりなくなります。これも明らかにピノ・ノワール用のグラスが一番でした。

最後はカベルネ・ソーヴィニヨンの試飲です。これはカベルネ・ソーヴィニヨン用のグラスのほか、ソーヴィニヨン・ブランのグラス、ピノ・ノワールのグラスで試飲しました。

カベルネ・ソーヴィニヨン用のグラスでは黒果実や青果実、チョコレートや皮革などの味わい。カベルネ・ソーヴィニヨンらしさが出ていて美味しいです。

ちなみに今回試飲したワインはどれもケンダル・ジャクソンのグランド・リザーブ・シリーズのものだったようです。果実味豊かなカリフォルニアワインの場合はよりグラスの違いが際立って感じられるといった面もあったかもしれません。

こぶりなソーヴィニヨン・ブラン用のグラスだとタンニンや苦味が助長され、セカンダリーのアロマがあまり感じられなくなります。また、ピノ・ノワール用のグラスでは甘やかさが強くなり「アマローネのよう」(マキシミリアン氏)になります。また、これも不思議とスパイスや苦味を強く感じるようになります。

セミナーではこのほかマキシミリアン氏によるデカンティングの実演などもあり、終始なごやかで楽しいものでした。
試飲に使ったグラスも持ち帰れたのですが、最大の問題はこの大ぶりのグラス4つをどこに収納するかです…

ともかく、非常に高級感がありいいグラスであることは間違いありません。リーデルのマシンメイドのグラスではVinumをずっと使っていますが、ステムはやや太く、重さもあって、実用にはいいのですがちょっとやぼったさがあるのは否めないと思っていました。それに比べると今回のグラスは細くて軽く、よりワインが美味しく感じられるものになっています。

ソーヴィニヨン・ブラン用のグラスはスパークリングにも十分使えそうです(ブラン・ド・ノワールの場合はピノ・ノワール用のグラスをお薦めするとのこと)。ちょっといいワインを飲むときに使っていきたいと思います。