サンタ・クルーズ・マウンテンズ(SCM)にあるワイナリー「Rhys(リース)」のワインメーカー、ジェフ・ブリンクマンとマーケティング担当副社長のジョン・カプラノポーラスが来日し、セミナーが開かれました。コロナ前の2019年以来のRhysのセミナーでした。

以前のものは
カリピノを極めた? リース(Rhys)高品質の秘訣を探る
リースのシャルドネ、ピノ・ノワール その魅力は?

Rhysの本拠地はSCM。アンダーソン・ヴァレーにもベアワロー(Bearwallow)という畑があり、ワイナリー(醸造設備)も持っていますが、メインはSCMになります。

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今回のプレゼンの最初のコンテンツがこの画像。SCMのマップですが色分けは土壌の違いを表しています。ある意味これがRhysを象徴するものと言えるでしょう。

北西から南東方向にかけて中央付近に斜めの線が見えます。これがサンアンドレアス断層です。北米大陸の「北アメリカプレート」に西から来た「太平洋プレート」がぶつかることによってできた断層です。

図からわかるように断層付近は土壌が入り組んだ形になっています。プレートのぶつかり合いで、沈み込んだりめくり上がったりするところがあり、下の方にあるはずの古い土壌が表面に出てきたり、逆に新しい土壌が表面を覆ったりといったおとが起こっているからです。

これによってSCMの中では様々な土壌が見られます。そのテロワールを大事に表現しようというのがRhysのワインの根幹にあります。

Rhysの畑はいずれも1から自社で開梱したところ。その場所を選ぶために表土の種類やその厚さ、その下の母岩について詳しく調査するそうです。重要なのは表土が浅いことで、そのために標高が高く斜度が大きいところを選んでいます。多くのブドウ畑が作られる沖積扇状地などの堆積土壌は表土が深くなり、Rhysが求めるブドウはできないといいます。

カリフォルニアは地中海性気候でブドウの生育期間に雨はほとんど降りません。太陽光は有り余るくらいたくさんあります。Rhysではワインにエレガントさや精妙さを出したいと考えているので、そのためには痩せた土地が必要なわけです。SCMは標高、土壌、斜度、水はけのよさが備わっています。土壌ではカルシウムを含んだシェールや、一部には石灰石もあります。そして表土には粘土があることも大事だといいます。Rhysではなるべく灌漑なしの栽培を行おうとしており、保水力がある粘土の層がそれを助けてくれます。

こういった条件を満たす畑で、Rhysはクローンや台木など同じものを使い、密植など栽培もほぼ共通の仕様で作っています。テロワールだけの違いがワインの違いになるようにするためです。なお、木は1ヘクタールあたり1万~1万7000本とかなりの密植で、機械が入れられないため、すべて手作業が必要になるといいます。

醸造もどの畑も基本的には同じ方法で、人の介入も最小限です。
例えばシャルドネの場合、夜に収穫し、梗が付いたままプレス、1日空気に触れたあと樽に入れます。樽は15%新樽でライトトーストのTonnellerie Dany樽。天然酵母で発酵し、1年樽熟成。その間バトナージュはしません。カリフォルニアのワインは十分リッチなのでバトナージュの必要がないと考えています。それからステンレススティールのタンクに移して6~8カ月熟成してボトリングします。なお、マロラクティック発酵は100%行います。酸が高いので全部マロラクティック発酵してもPHは3.5程度までしか上がらないそうです。

Rhysは発酵期間が長いのも特徴です。とはいえ、天然酵母で樽発酵ですから温度管理を特にしているわけではなく、室温自体が12~13℃とかなり低く、発酵が非常にゆっくり進み、ときには断続的に行われるからだそうです。発酵期間が長くなることがワインにどのような影響を与えているかについてははっきりしたことはわかっていませんが、ジェフによると。これまでいいと思ったヴィンテージはどれも発酵期間が長かったときのものだそうです。

ピノ・ノワールの醸造についでです。
ブロックごとにわけて発酵します。梗を残すかどうか、どれくらい残すかはソーティング時に決めます。発酵は1トンの小さなタンクで行います。SCMはすぐワインが濃くなってしまうのでそれが起こらないよう注意するため。パンチダウンはせずに足で踏んで落とします。粒をつぶさずに落とせる。そうです。シャルドネとは異なり、新樽の比率は畑によって違っています。新樽は樽香を移すというよりもタンニンをソフトにするために使っています。斜面の上の方のブドウなど、タンニンが強くなるところで新樽比率が高くなります。1年後に1回タンクに移し、ブレンドを決めてからもう一度樽に入れて5カ月くらい熟成する。


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これがピノ・ノワール用の発酵タンクで100個以上あります。

シャルドネもピノ・ノワールも単一畑のほかにSCMのAVAものを作っています。これは比較的早飲みに向いたブレンドで、少し酸を抑えめにしています。ただ、AVAものは単一畑のワインをセレクトした後に残りのワインから作るので、完成するのは一番最後になるそうです。
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畑の位置を表したマップです。

畑の話をまとめておきます。
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これはアンダーソン・ヴァレーにあるベアワローの畑のマップです。アンダーソン・ヴァレーの中でも海に近い冷涼な地域にあります。ピノ・ノワールはクランベリーの味わいがあって、タンニンはやや低くなります。

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SCMのマウント・パハーロ(Mt. Pajaro)。海から4.2kmと近く標高300m。ちょっと窪地。モントレー湾からの風で霧が溜まらないところです。「ストレートにびしっとしたワイン」ができるとのこと。

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Rhysのワインの中でもフラッグシップと見られているのがアルパインとホースシューの畑でしょう。この2つの畑、距離的には400mくらいしか離れておらず、斜面の向きもほぼ同じ。両者の一番大きな違いは土壌。アルパインは400万年前と比較的新しい土壌です。若いシェールの岩で、、とてももろく、鉄分も入っています。
一方、ホースシューは1500万年の土壌で、古いシェールのところです。非常に硬い土壌です。
アルパインは灌漑なしで栽培できますが、ホースシューは保水力が少ないためか、灌漑が必要になります。これが関係しているのか、ホースシューの場合はピノ・ノワールで梗を入れずに作るという判断につながります。一方、アルパインは25%ほど全房発酵を使っています。

さて、後はワインのテイスティングコメントと行きたいのですが、実はこの日のテイスティングノートが全部消えてしまいました。久しぶりにこれを思い出しました。orz

というわけで、ここまでで今回のレポートは終わりです。ワインは大変おいしかったです。ただ。今回は畑ごとの違いがどう出ているかという微妙なところが問題になるので、テイスティングノートがないとちょっと厳しいです。いろいろ便宜を図っていただいた中川ワイン様、に感謝と陳謝です。