ヴィナスのアントニオ・ガッローニが「見つけたら迷わず手に入れてほしい」と語るほどの高品質のピノ・ノワールやシャルドネを作っているのがリース(Rhys)。サンタ・クルーズ・マウンテンズというややマイナーなAVAにあることや、知名度の高いワインメーカーやコンサルタントを雇っていないこと、市場に出回る数の少なさから、日本ではそれほど名前は知られていませんが、ブルゴーニュ・スタイルのピノ・ノワールやシャルドネが好きな人やリトライなどの自然派のワイナリーに興味がある人ならば、チェックするべきワイナリーです。リーンなスタイルのピノ・ノワールとしては、リトライと並んでカリフォルニアの最高峰の一つといっていいのではないかと個人的には思っています。

今回はそのリースからセールス・ディレクターのエリック・サザーン氏が初来日、セミナーを開きました。サザーン氏はリースではまだ3年くらいの経験ですが、それまでロバート・シンスキーやボニー・ドゥーンなどさまざまなワイナリーで働いてきた人です。


リースのオーナーであるケヴィン・ハーヴェイは元々IT業界の人。アップルのClarisWorksの元となったソフトの開発者であり、ベンチャー・キャピタルのベンチマークの創設者でもあります。要は大変なお金持ちです。リースは彼のミドルネームです。

ケヴィンはブルゴーニュのワインのファンでもあり、有数のコレクターでもあります。デュジャックのジャック・セイスなどブルゴーニュのトップ生産者とも親しく、ブルゴーニュのトップクラスの畑でさまざまなデータを取らせてもらい、土壌や気候など、何が重要なのかをデータから分析していったといいます。

そして、その基準に合ったところをカリフォルニアで探しました。候補となる土地でも1年間データを取って、実際に目標となる数値になるかどうか調べてから契約しているそうです。最初は主にサンタ・クルーズ・マウンテンズで探し、その後は他の地域にも増やしていっています。

ユニークなのはリースで畑の管理を担当するハビエール・タビアがワイナリーのCFO(最高財務責任者)でもあること。投資に見合うかどうかを見極めて開発をしています。

その結果として、比較的標高の高いところで、密植栽培をし、灌漑なしのドライ・ファーミングを行うといったスタイルで畑を開発していっています。現在はサンタ・クルーズ・マウンテンズに6つの自社畑があるほか、アンダーソン・ヴァレーにも一つの自社畑があります。このほか、メンドシーノのアルダー・スプリングスの近くにも2016年から開発している畑があります。畑はすべて一から開発しており、化学肥料などを使わず、認証は得ていないものの有機栽培やビオディナミのメソッドで育てています。それまで耕作されていない土地なので、「一度も化学肥料が入っていない」畑ばかりだそうです。

ワイン造りも基本的にはナチュラルなスタイル。天然酵母で発酵し、補酸や補水など行わず、フィルターも清澄もなし、SO2の添加は最小限にとどめています。


サンタ・クルーズ・マウンテンズには「サン・アンドレアス断層」というプレートの境界があります。海側は太平洋プレートで、非常に浅い表土で岩が多い土壌で、リースの畑の多くはその境界付近の太平洋側にあります。サンタ・クルーズ・マウンテンズには250ヘクタールほどピノ・ノワールが植わっていますが、その10分の1くらいがリースの畑だそうです。

苗木については、特定のクローンの苗木を買ってくるのではなく、「マサル・セレクション」と呼ばれる畑の中で品質のいい木を選んで接ぎ木する方法を使っています。シャルドネではオールド・ウェンテなど古くからカリフォルニアで使われているクローンの中でもいいものを選んで接ぎ木しています。なお、オールド・ウェンテは、よく使われている「ウェンテ」あるいはニュー・ウェンテ(別名UCD4)とは大きく違うそうです。ニュー・ウェンテはとてもブドウの房が大きくなりますが、オールド・ウェンテはこぶし大で、しかも実がまばらで空気がよく通るそうです。

ピノ・ノワールもマサル・セレクションで一つはオーナーがブルゴーニュから持ってきたと言われていますが、どこかは明らかにしていません。もう一つはカリフォルニアで古くから使われているものとのこと。

畑の紹介をしていきます。

アルパインはサン・アンドレアス断層の海側で非常に急斜面にある畑です。周りに何もないところで、作業する人のための宿泊所があるくらいです。土壌はシェールで握ると崩れてしまうくらい柔らかく、水はけがよくなっています。岩がゴロゴロしており、ほとんど表土がないところもあります。このような痩せた土地で密植するため根が深く伸びるといいます。ロマネ・コンティと同等の1ヘクタールあたり8000~9000本の密植をしています。リースを代表する畑の一つです。

スカイライン・ヴィンヤードは60cm×90cmくらいの密植で1ヘクタールあたり9000本程度と、アルパイン以上の密植だそうです。表土も非常に薄く、10~15cm程度。アルパインよりも断層に近いところです。このため、ぶどうの樹が太く育たないという特徴があります。植えてから相応の年数を経ていますが、それでもぶどうの樹はかなり細いままです。リースのセラーのあるところからすぐ近くの畑です。

ホーム・ヴィンヤードとファミリー・ファーム・ヴィンヤードは若干標高が低く、従来サンタ・クルーズ・マウンテンズのAVAからわずかにはずれていましたが、2017年からAVAに加わったとのこと。表土は1mくらいとやや厚く、水の保持力が大きい粘土質のところもあります。

ベアワロー・ヴィンヤードはアンダーソン・ヴァレーにある畑です。ほとんどがピノ・ノワールでシャルドネがわずかだけうわっています。サンタ・クルーズ・マウンテンズの畑は1.5トン/エーカーくらいと非常に収量が低いのですが、ベアワローは少し多く、3トン/エーカーくらいになっています。

アンダーソン・ヴァレーは内陸に入るとどんどん気温が上がるのですが、ベアワローは一番太平洋に近いところにあります。14ヘクタールくらいあって、比較的大きな畑です。収量も3トン/エーカーくらいあります。ベアワローというのはここの土壌の名前で、かなり複雑な構成です。シェールを中心に砂や岩が混じっています。

後編では試飲結果を紹介します。