Archives

You are currently viewing archive for 2011
Date: 2011/1221 Category: 読書感想
Posted by: Andy
Comments
えーと、これは【書評】ラッキーゲームスとジブリの奇妙な共通点。この本をおすすめしない理由。のパロディです。

自他ともに認める全然ゲーマーでない私が、ゲームプログラマーのRucKyGAMESについて語ってしまうというのはおかしな話ではあるのですが、数えてみたら彼の作ったアプリで自分のiPhoneに入れているのは6本。インストールしたゲームのおよそ半分という占有率の高さにちょっとびっくりしました。

で、そのラッキーさんが書いた「大手メーカーが作らない「B級」iPhoneゲームが売れる50の理由」という本があるのですが、意外にもスティーブ・ジョブズに共通するところが少なからずあるのではないかと感じたわけです。

» 続きを読む

Date: 2011/1111 Category: 読書感想
Posted by: Andy
Comments
スティーブ・ジョブズ最初で最後の公認の伝記を読みました。結論から言うと、パソコンやIT系のノンフィクションの中でもベストの一冊と言っていいでしょう。特にスティーブ・ジョブズに関しては様々な本が出ているが、これまでのベストだった「スティーブ・ジョブズー偶像復活」(過去記事「ビル・ゲイツ引退に思うこととスティーブ・ジョブズ」参照)と比べてもこちらの方がはるかに面白いです。

どこが面白いか。

まず、ジョブズ礼賛でなく、彼のいいところも悪いところもしっかり書いているところ。特に性格的に一般人には解釈しがたいところが彼にはあるのですが、そこも包み隠さず書いています。特に、実の親との関係が、彼の正確に大きく影響していることなど、初めて知ったことが数多くありました。

次に、複雑怪奇な彼の性格を、ジョブズからの聞き語りだけでなく、周囲への丹念な取材を通じて分析・考察している点。例えば上巻の11章全部を割いて、有名な「現実歪曲フィールド」について分析しています。近年は、この言葉はジョブズのすばらしいプレゼンを形容するものであるかのように書かれていることが多々ありますが、元々は否定的な意味合いがかなり強かったもの。本書では、否定的な部分を説明しながらも、ジョブズの魅力というものがその根底に流れていることを多くの事例から引き出しています。本書がただの伝記ではなく、スティーブ・ジョブズという稀代のイノベーターの仕事を分析するビジネス書としても、優れているのは、こういった深い考察があるからです。

下巻はアップルに戻ってからの数々の成功の話が中心になります。他書で語られてきた部分もありますが、完璧を求める姿などは他所の追随を許さないところです。

下巻のエピソードでは特にThink Differentの広告を作るあたりが、個人的にはかなりツボにはまりました。

そして、後半になると病との戦いが始まります。ここでもジョブズの弱い部分も赤裸々に語られています。私たち読者は、この戦いの結末を既に知っています。しかし、著者がこれを書いていたときはジョブズは存命でした。第40章でCEOをやめ、誰の目にも残り時間が少ないことは明らかでしたが。この完璧なタイミングで伝記を書かせたというのは、ある意味ジョブズの最後の作品でもあるのかなと思いました。


Date: 2011/0824 Category: 読書感想
Posted by: Andy
Comments
以前紹介した「これからスマートフォンが起こすこと。」の著者である本田雅一さんから最新刊の献本をいただきました。

タイトルにあるiCloudとはアップルが今後提供するクラウドのサービス。簡単に言えば,iTunesがそのままインターネット上で提供されるようなものである。そのアップルがもちろん本書の主役の一人である。

もう一人の主役はソニー。ソニーのクラウド戦略はキュリオシティという。正直言って,ソニーについては全くチェックしていなかったし,キュリオシティについてもほとんど初耳に近い状態だった。アップルとソニーがクラウドでライバルになるとも思っていなかったが,このあたりは読んでなるほどと思うところが多かった。セキュリティ問題の逆風はあるが,日本人としてソニーの今後には期待をしたい。

このほか,ネットフリックスを中心した米国の事情についても解説がある。

前書の感想で,著者について「(コンテンツビジネス分野が)一番得意のように思われる」と書いたが,まさにそれを裏付ける一冊である。

Date: 2011/0805 Category: 読書感想
Posted by: Andy
Comments
Gary Vaynerchukについては,かなりウォッチしているつもりだったのですが,彼の2冊目の著書「Crush It」の日本語版が出ているのについ最近まで気が付いていなかった不束者です。

このブログでは何度となく紹介しているGaryですが,ご存じない方もいらっしゃると思うので,簡単に説明しますと,2006年にWine Library TVというビデオブログを立ち上げて大人気になった人です。元々はベラルーシからの移民で,父親がリカーショップの店員から店長になり,さらに店を持つようになったのを引き継いで,ワインショップWine Libraryを立ち上げ,年間6000万ドルのビジネスに引き上げています。最近ではWall Street Journal「Twitter's Small-Business Big Shots」の2位に選ばれています。

TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアも積極的に活用しており,Twitterでは約90万人のフォロワーが,Facebookでは約7万人が「いいね!」しています。

さて,本書はソーシャルメディアを使ってどう稼ぐのかという話ですが,ソーシャルメディアといいながら,実際にはブログが中心であることや,とにかく自分が好きで夢中になれることをやりなさい,といったあたりは昨年から今年にかけて読んだネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である
とかスティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション―人生・仕事・世界を変える7つの法則といった本と共通するところがかなりあるように感じました。

とにかく,これだけ成功している人の話ですから,一読の価値はあります。


Date: 2011/0726 Category: 読書感想
Posted by: Andy
Comments
世界という言葉は「日本」の補集合として捉えてしまいがちである。そんなことない,という人ももちろんいるだろうが,自分はそうだ。だから「世界文学全集」というと「海外文学全集」だと最初から決め込んでしまう。それだけに「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」の第3集第4巻(長編小説としては最後の巻)に石牟礼道子さんの「苦海浄土」が入ったというのを知ったとき,ちょっとびっくりしたのと同時に,自分のあまりにも狭い思い込みに情けない思いもあったのである。

そもそも,この文学全集,まだ読んだのは数冊であるが,自分としてはいつかは全巻制覇したいものと思っている。池澤夏樹さんという作家は小説家としてデビューしているが,正直言って小説よりも紀行文などのノンフィクションの方が面白いし,それ以上に書評家として優れている。その人が,30冊の全集の中の唯一の日本語で書かれた長編として選んだのだから間違いないだろうと,読みたい本リストの中で一気に上位に入っていたのだった。

さて,この「苦海浄土」は3部作からなる水俣病を扱った小説である。1970年には第1回大宅壮一ノンフィクション賞に選ばれたものの辞退している。水俣病の補償を巡るさまざまな資料をそのまま掲載しているなど,ノンフィクション風の体裁を取ってはいるが,本書の最大の魅力は著者が「聞き書のふりでやっているんです」という,患者やその家族の語りの部分だ。方言で語られる病気の話は,その深刻さと裏腹に,優しくときには滑稽で,しみじみとした慈愛に満ちている。特にそれが全面にフィーチャーされた第1部は,一種のお伽話のようですらある。

一節を披露しよう。
 うちは、ほら、いつも踊りおどりよるように、こまか痙攣をしっぱなしでっしょ。
 それで、こうして袖をはたはた振って、大学病院の廊下ば千鳥足で歩いてゆく。
 こ、ん、に、ちわあ。
 うち、踊りおどるけん、見とるものはみんな煙草出しなはる!
 ほんなこて,踊りおどっとるような悲しか気持ちばい。そういう風にしてそこれへんをくるうっとまわるのよ。からだかたむけて。


第2部,第3部と進むと,物語は別の様相を示し始める。

第2部の白眉は,チッソの株主総会に巡礼姿で乗り込むシーン。そこまではややドタバタの感もあった患者たちが,急に神話の世界の人のような崇高さを見せ始める。

第3部では川本輝夫氏を中心とするチッソとの交渉が中心。舞台の大部分は東京であり,座り込みや交渉の現場が,その場で観察していた筆者によって語られる。そこには思うようにならない現実の辛さ,チッソの理不尽さが満ちている。それでも方言で語られるところは何か優しく,おかしみをなくさないところがすばらしい。

久しぶりに出会えてよかった,読んでよかったという本だった。また,できるだけ多くの人に読んでほしいと思える本でもあった。



Date: 2011/0524 Category: 読書感想
Posted by: Andy
Comments
今までだれも指摘しなかったのだろうか? それとも指摘されても対処しなかったのだろうか?

本をネットで買うとき,もちろんAmazonも使いますが,楽天の期間限定ポイントを使いたいときなど,結構楽天ブックスも使っています。最近はAmazonよりこちらの方が多いくらいかもしれません。

ところが楽天ブックス,本が見つからないときがしばしばあります。最初は単に検索機能がしょぼいのかと思っていましたが,そういうレベルではないことに最近気が付きました。きっかけは先日紹介した「小さなチーム、大きな仕事」のときでした。



» 続きを読む

Date: 2011/0507 Category: 読書感想
Posted by: Andy
Comments
37シグナルズといってもほとんどの人にとっては聞いたことがない社名だろう。ではデイビッド・ハイネマイヤー・ハンソンだったら? やっぱり知らないか。ではではDHHだったら?

DHHとはWebアプリケーション開発のフレームワークとして知られるRuby on Railsの開発者として有名であり,37signalsもRailsを使って開発した様々なWebサービスを提供している会社である。

この会社,十数名の社員は八つの都市に分散している。そのやり方は一般的に「成功した」企業と思われるための,ベンチャー・キャピタルからの資金調達や,会社の売却,上場,といったものとは対極的である。すなわち,小規模で,現在の製品を自分たちの手元でコントロールできることを何よりも重視している。少なくとも彼らはこのやり方で成功している。

本書は一般的な会社,特に日本の伝統的な上場企業とは全くことなる同社のやり方について,その信じるところをまとめたものだ。会社という枠組みに一回入ってしまうと同社のやり方を真似るのはなかなか難しいものがあるが,その主張には少なからずうなずけるものがあった。

特にこれから会社をつくろうとしている人や,マーケッターの人には一読を勧めたい。



Date: 2011/0123 Category: 読書感想
Posted by: Andy
Comments
芥川賞2作,直木賞2作のうち1作ずつを読んだ。とはいっても「月と蟹」の方は昨年末,まだ直木賞候補が発表される前のことだ。面白いことにこの2作,舞台がすぐ近くである。「きことわ」は葉山,「月と蟹」は鎌倉だが,話の内容は鎌倉というより葉山・逗子あたりの方が近く感じる。鎌倉・湘南というのは明治より小説の舞台によく取り上げられているが,一種その伝統を引き継いだ作品とも言えるのかもしれない。

「きことわ」は著者3作目の作品らしいが,一言でいうと「上手すぎるくらい上手」。文章もうまいし,様々なエピソードがタペストリーのように絡みあう構成もこ憎たらしいほどだ。

ちなみに「きことわ」とは貴子(きこ)と永遠子(とわこ)の話。冒頭は
永遠子は夢をみる。
貴子は夢をみない。

で始まり,夢をみる永遠子とみない貴子というコントラストが随所に現れる。もともと永遠子は貴子の母春子の葉山の別荘の管理人だった淑子の娘であり,貴子より7歳年上。貴子が夏休みに別荘にくるときには永遠子はしばしば遊びに行っていたという仲である。
舞台は一緒にすごした最後の夏から25年後。別荘を引き払うことになって永遠子が手伝いに行く。その話と夢をみるように思い出す昔の話が絡まりあって進行する。その夢とも現ともつきかねるところが実に巧みなのである。もうちょっとひねり過ぎると幻想小説になりそうなところを一歩踏みとどまって進むような感じ。といっても通じないとは思うが…面白そうと思った人は読んでください。



月と蟹は続きで

» 続きを読む