2010年も200冊くらい本を読みましたがその中からフィクション10編,ノンフィクション3編,実用書3編をベストとして取り上げます。フィクションは,こんなのも今まで読んでなかったの的なものもあると思いますが,目こぼしてくださいませ。2009年版はこちら。
まずはフィクションから。
10. アラビアの夜の種族/古川日出男
昨年は「ベルカ」で一位でしたが,アラビアの夜の種族もベルカほどの衝撃はないものの,妖しさ満載の素晴らしい小説。読書好きな人ほどはまるでしょう。こういう作品は大好きです。
以下はmixiに書いたレビューから。
9. 天地明察/冲方丁
本屋大賞を取った本。さすがによく出来ています。というか昨年の本屋大賞の…と比べたら…。ただ,前半と比べると終盤は駆け足で進んでしまいやや消化不良ぎみ。もっともっと面白い作品になる可能性があったと思います。
8. 小さいおうち/中島京子
直木賞をとった作品。以下はmixiレビューより
7. 乙女の密告/赤染晶子
芥川賞を取った作品。言葉にリズムがあるのが魅力的。
6. マルドゥック・スクランブル/冲方丁
同じ作者の天地明察とは全く違ってこちらはSF作品。魅力はこっちの方が上。
まずはフィクションから。
10. アラビアの夜の種族/古川日出男
昨年は「ベルカ」で一位でしたが,アラビアの夜の種族もベルカほどの衝撃はないものの,妖しさ満載の素晴らしい小説。読書好きな人ほどはまるでしょう。こういう作品は大好きです。
以下はmixiに書いたレビューから。
ナポレオンがエジプトに攻め入ろうとしているとき,守る側のマムルークで,ナポレオンへの献上品として偽りの書物を作ろうと支配階級のイスマーイール・ベイに進言した奴隷のアイユーブ。ズームルッドという謎の女が夜毎に語るその偽りの書,その翻訳が本書であるというのが本書における作者の設定だ。どこまでが真実でどこからが偽りなのか,二重三重に張り巡らせられた罠に,読者も自然に嵌まり込んでしまい,その語りに引き込まれる。
自分も読者として危うくその迷宮に取り込まれてしまうところだった。ようやく生還できてほっとしている。あまりに危険すぎて人には勧められない本。勇気ある人は挑戦あれ。ただし戻れなくなってもしらないよ。
9. 天地明察/冲方丁
本屋大賞を取った本。さすがによく出来ています。というか昨年の本屋大賞の…と比べたら…。ただ,前半と比べると終盤は駆け足で進んでしまいやや消化不良ぎみ。もっともっと面白い作品になる可能性があったと思います。
8. 小さいおうち/中島京子
直木賞をとった作品。以下はmixiレビューより
昭和初期から戦中にかけて女中奉公していたときの話を,タキという老女が振り返って回想録を書くという構成。カズオイシグロの「日の名残り」と重なって見える。日の名残りはイギリスの執事でチャーチルが出てきたりと,大きく政治にまで絡んでいるのに対し,こちらはおもちゃ会社の常務の家ということで話の大きさは大分違うが,もてなしの気持ちや,細部へのこだわりで人を喜ばせるところ,生真面目さの中に宿るちょっとしたおかしみなど,最初は「日の名残り」のパロディとして書いたのかと思ったほど。実際,著者が影響を受けた本の一つとして挙げていたので,かなり意識して書いたことは確かなようだ。
本書では終章としてタキが亡くなった後,甥っ子がその足跡を追うところが描かれている。個人的にはそれはなくて静かに終わってもよかったような気がする。
7. 乙女の密告/赤染晶子
芥川賞を取った作品。言葉にリズムがあるのが魅力的。
乙女という言葉はほとんど死語に近いが,日本で乙女という言葉が似合う土地を挙げるとしたらやはり京都になるだろう。本書の舞台は京都の外国語大学。ドイツ語を学ぶ“乙女”たちはバッハマン教授が「アンネの日記」で一番重要な日だという1944年4月9日の日記を暗唱するという課題を大会用にあてられる。
乙女という言葉に代表されるように,ひたすら暗唱に取り組む彼女らの姿,黒ばら組とすみれ組に分かれて対決する姿,アンゲリカ人形を肌身離さないバッハマン教授などどこか現実感がないが,それが逆に生き生きと描かれる京都の姿と不思議にマッチして独特の雰囲気を醸し出している。文章のリズムもよく,おもしろい。
6. マルドゥック・スクランブル/冲方丁
同じ作者の天地明察とは全く違ってこちらはSF作品。魅力はこっちの方が上。
主人公のルーン・バロットは少女の娼婦。自分を助けてくれたはずのシェルに焼き殺されそうになる。それを救ったのがドクターと自在に形を変えて武器などになることができるネズミ「ウフコック」のコンビ。命を救うため「マルドゥック・スクランブル-09法」によってバロットは電子機器を触れずに制御する力が与えられる。バロットはウフコックの力を借りてシェルに立ち向かおうとするが,そこに立ちふさがったのはシェルの用心棒役であり,ウフコックの元の相棒ボイルドだった。
前半はウフコックとバロットが追っ手と対決するアクション・シーンが目玉。
中盤からはカギを握るシェルの「記憶」を得るためにカジノでバロットとウフコックが奮闘する。ルーレットでは一流のスピナー「ベル・ウイング」と心通じ合い,ポーカーでは撹乱によってグルになっている相手を粉砕する。
そして山場になるのがブラックジャック。SFとしてはバロットの遠隔操作能力と,ウフコックの武器としての能力が圧倒的なのであるが,ここではそれを半ば封印して,ブラックジャックのカードを推測するための「カウンティング」だけに徹し,人と人との勝負を繰り広げる。単なるアクションに終わらせなかったところがすばらしい。
そして最後はボイルドとの再対決では前回以上の熾烈なアクションが繰り広げられる。
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コグレマサトさんといしたにまさきさんの「マキコミの技術」を読みました。マキコミといっても,なんだろう?と思う人が大半だと思いますがサブタイトルにあるように「最前線から見たソーシャルメディア・マーケティング」について語った本です。
ソーシャルメディア・マーケティングというと,Twitterを使いましょう,Facebookのファンページを作りましょう,といったテクニック論に陥りがちですが,本書ではそこを「マキコミ」という柔らかい言葉を使って単なるテクニックではなく「人と人とのつながりをつくっていくことなんだよ」と言っているように思いました。
個人的には,コグレさんには以前仕事で本を書いたときに,お会いしたことがあり,今回載っている事例の中でも冒頭のリヤカーブックス,豚組のところで出てくる「3cmとんかつ」には私自身も巻き込まれています(ブログには明記していませんでしたが,3cmとんかつはコグレさんと同席していました)。そういった経緯もあり,馴染みのある話が多く,あっさりすんなり読めてしまったのですが,この本の場合,読み終わったところが新たな出発点なのだと思います。
具体的に言うと,本書にはWork1~4として「自分のリヤカーブックスを開くとしたら?」「『継続』できなかったブログの改善案を考える」「『つながり』を作るオフ会を企画する」「あなたは誰と『マキコミ』したい?」というお題が与えられています。これらのお題,あるいはそれ以外の,自身の考えた課題で,どうやって「マキコミ」をしていくのか,その実践が問われるのです。
実は,私もちょうど「オフ会」を開こうと考えていたところでした。これについては別の記事で改めて詳しく書きますが,いつもワインを買っている「August West」で今年もワインを買ったところ,6本届くはずのワインが12本来てしまいました。あわててクレジットカードのチャージを見ても6本分しか引かれていません。ワインメーカーのEd Kurtzmanさんに「残りの6本分チャージしてください」とお願いしたところ「私のミスなので,それは差し上げます。August Westを知らない人に飲ませるなどしてください」という返事が来ました。そこで,このワインを使ったオフ会を来年早々にもしようかな,と思っていたのです。
というわけで,本書を読んで自分の「マキコミ」を考え始めているところです(このワイン会について巻き込まれてみたい人は@andymaにメンションあるいはDMを送ってくださいませ)。そう思いながら読むとまた,いろいろなところにちょっとずつヒントが見つかり,なかなか味わいの深い本でもあります。
ソーシャルメディア・マーケティングというと,Twitterを使いましょう,Facebookのファンページを作りましょう,といったテクニック論に陥りがちですが,本書ではそこを「マキコミ」という柔らかい言葉を使って単なるテクニックではなく「人と人とのつながりをつくっていくことなんだよ」と言っているように思いました。
個人的には,コグレさんには以前仕事で本を書いたときに,お会いしたことがあり,今回載っている事例の中でも冒頭のリヤカーブックス,豚組のところで出てくる「3cmとんかつ」には私自身も巻き込まれています(ブログには明記していませんでしたが,3cmとんかつはコグレさんと同席していました)。そういった経緯もあり,馴染みのある話が多く,あっさりすんなり読めてしまったのですが,この本の場合,読み終わったところが新たな出発点なのだと思います。
具体的に言うと,本書にはWork1~4として「自分のリヤカーブックスを開くとしたら?」「『継続』できなかったブログの改善案を考える」「『つながり』を作るオフ会を企画する」「あなたは誰と『マキコミ』したい?」というお題が与えられています。これらのお題,あるいはそれ以外の,自身の考えた課題で,どうやって「マキコミ」をしていくのか,その実践が問われるのです。
実は,私もちょうど「オフ会」を開こうと考えていたところでした。これについては別の記事で改めて詳しく書きますが,いつもワインを買っている「August West」で今年もワインを買ったところ,6本届くはずのワインが12本来てしまいました。あわててクレジットカードのチャージを見ても6本分しか引かれていません。ワインメーカーのEd Kurtzmanさんに「残りの6本分チャージしてください」とお願いしたところ「私のミスなので,それは差し上げます。August Westを知らない人に飲ませるなどしてください」という返事が来ました。そこで,このワインを使ったオフ会を来年早々にもしようかな,と思っていたのです。
というわけで,本書を読んで自分の「マキコミ」を考え始めているところです(このワイン会について巻き込まれてみたい人は@andymaにメンションあるいはDMを送ってくださいませ)。そう思いながら読むとまた,いろいろなところにちょっとずつヒントが見つかり,なかなか味わいの深い本でもあります。
実は1カ月くらい前から中国語の勉強を始めています。これまで月に10~20冊くらい読書をしていますが,その時間(つまり通勤電車)を主に利用して勉強することになります。一応来年の春に中国語検定の準4級あるいは4級を受けるつもりです。
きっかけの一つは子供たちが英検やら漢検やらをこの秋に受け,妻も漢検を受けるから僕もどうかと打診されたこと。どうせ勉強するのなら,もっと実用的(漢検を受けるとしたら準1級で,普通には使わないような漢字をたくさん覚えないといけない)な中国語にしようと思ったこと。もう一つは,実際に仕事で中国語を扱わないといけないケースが増えていること。後者は読めさえすればいいので,辞書ソフトや自動翻訳,さらにはGoogleの画像検索などを使ってある程度は用が足ります。ただ,どうせだったらちゃんと勉強したいというのもあります。
きっかけの一つは子供たちが英検やら漢検やらをこの秋に受け,妻も漢検を受けるから僕もどうかと打診されたこと。どうせ勉強するのなら,もっと実用的(漢検を受けるとしたら準1級で,普通には使わないような漢字をたくさん覚えないといけない)な中国語にしようと思ったこと。もう一つは,実際に仕事で中国語を扱わないといけないケースが増えていること。後者は読めさえすればいいので,辞書ソフトや自動翻訳,さらにはGoogleの画像検索などを使ってある程度は用が足ります。ただ,どうせだったらちゃんと勉強したいというのもあります。
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しばらく折り紙も折っていなかったのですが,ちょっと折りたくなって久々に三つ折りました。
カンガルーはピーター・エンゲルというハーバード大卒の人の作品。これ,お腹に赤ちゃんのカンガルーがいて耳まで付いているのです。普通の折り紙1枚で追っているのです。かなりお気に入り。
キリンも同じ人の作品。カンガルーと比べると大分易しいです。どちらも表情の付け方によってまた違った印象の作品になりそうです。
マレーバクは「本格折り紙」などの本でも知られている前川淳さんの作品。よくできていますが,途中の折り方がアクロバティック。よくこんな折り方を思いついたものだと思いました。
なお,今回の作品は「トップおりがみ」という本に載っていたもの。この本,折り紙好きの間では有名な本で,1989年と20年以上も前に出版されています。今では廃版ですが,中古の価格はなんと2万円以上。ただし,英語版の「Origami for the Connoisseur」という本があって,こちらだと5000円くらい。というわけで家にあるのは英語版の方です。
カンガルーはピーター・エンゲルというハーバード大卒の人の作品。これ,お腹に赤ちゃんのカンガルーがいて耳まで付いているのです。普通の折り紙1枚で追っているのです。かなりお気に入り。
キリンも同じ人の作品。カンガルーと比べると大分易しいです。どちらも表情の付け方によってまた違った印象の作品になりそうです。
マレーバクは「本格折り紙」などの本でも知られている前川淳さんの作品。よくできていますが,途中の折り方がアクロバティック。よくこんな折り方を思いついたものだと思いました。
なお,今回の作品は「トップおりがみ」という本に載っていたもの。この本,折り紙好きの間では有名な本で,1989年と20年以上も前に出版されています。今では廃版ですが,中古の価格はなんと2万円以上。ただし,英語版の「Origami for the Connoisseur」という本があって,こちらだと5000円くらい。というわけで家にあるのは英語版の方です。
ワインを取り巻く女性たち(その3)から大分時間があいてしまいましたが,一応このコーナーを締めておきたいと思います。
登場したのは
Ramona Nicholson
Dr. Ann Noble
Paula Moschetti
Lee Miyamura
Michele Ostrove
Stephanie Putman
Leslie Sbrocco
Signe Zoller
の8人。Lee Miyamuraさんはハワイ出身の日系人で横須賀に住んでいたこともあるそうです。現在はMeridianのワインメーカー。
この中で面白かったのはPaula Moschettiさん。Frog's Leapのワインメーカーです。なんというかこの人はすごく普通なんです。Santa Rosaで生まれ育ったもののワインとは何のつながりもなく,子供の頃はKool-Aidを飲み,チキンヌードル・スープを食べるようなありふれた環境で育ちました。UC Davisに入ったもののワイン醸造は専門ではなくマイクロブリュワリを作るのが夢でした。それがBeaulieuで収穫時期の手伝いをしたことから急にワインに目覚め,ついにはFrog's Leapのワインメーカーになりました。
今ではお子さんもいらっしゃいますが,そこでも,多忙なワインメーカーとして子供の面倒をちゃんと見ていないのではといった罪悪感にとらわれながら仕事をするという,このあたりも多くの女性が共感するのではないでしょうか。ワインメーカーというと,特別な人間という気がしてしまいますが,彼女は等身大という言葉が似合う感じです。
女性のワインメーカーは今ではありふれていますが,そこにいたるまでは大いなる先人の努力があったことをWomen of the Vineは伝えています。ワイン好きな女性なら一度読んでみるといいと思います(もちろん男性も)。
登場したのは
Ramona Nicholson
Dr. Ann Noble
Paula Moschetti
Lee Miyamura
Michele Ostrove
Stephanie Putman
Leslie Sbrocco
Signe Zoller
の8人。Lee Miyamuraさんはハワイ出身の日系人で横須賀に住んでいたこともあるそうです。現在はMeridianのワインメーカー。
この中で面白かったのはPaula Moschettiさん。Frog's Leapのワインメーカーです。なんというかこの人はすごく普通なんです。Santa Rosaで生まれ育ったもののワインとは何のつながりもなく,子供の頃はKool-Aidを飲み,チキンヌードル・スープを食べるようなありふれた環境で育ちました。UC Davisに入ったもののワイン醸造は専門ではなくマイクロブリュワリを作るのが夢でした。それがBeaulieuで収穫時期の手伝いをしたことから急にワインに目覚め,ついにはFrog's Leapのワインメーカーになりました。
今ではお子さんもいらっしゃいますが,そこでも,多忙なワインメーカーとして子供の面倒をちゃんと見ていないのではといった罪悪感にとらわれながら仕事をするという,このあたりも多くの女性が共感するのではないでしょうか。ワインメーカーというと,特別な人間という気がしてしまいますが,彼女は等身大という言葉が似合う感じです。
女性のワインメーカーは今ではありふれていますが,そこにいたるまでは大いなる先人の努力があったことをWomen of the Vineは伝えています。ワイン好きな女性なら一度読んでみるといいと思います(もちろん男性も)。
その後読んだのはHeidi Peterson Barrett,Stephanie Browne,Merry Edwards,Kimberlee Nicholls,Stephanie Galloの5パート。この中で圧倒的に印象に残ったのがMerry Edwardsでした。
Merry(Meredith) Edwardsは大学(UC Berkeley)を出た後,ワシントン州に移り住みます。そこでいわゆるガレージワイン(フランス的なそれではなく,家で自家消費用のワインを作ること。米国では結構盛んです)を作り始めてワイン作りに興味をもつようになりました。それであらためてUC Davisのワイン醸造の学科に入りなおしました。
まだ1970年代のことで彼女は最初に卒業した3人の女性の一人でした。しかし,就職先を探すのに苦労します。最初は教授が求人案内を女性には見せないというところから始まり,彼女は大学の就職課に抗議してなんとかそれをやめさせます。それでも求人側が女性を希望しないというのがほとんどでした。
結局,Mount Eden,Matanzas Creekを経て夢であった自身のワイナリを作ったのは1997年のこと。苦労人だったのですね。
苦労は仕事だけではなく,二人の息子を持つMerryの二人目の子供は子宮内で発作を起こして生まれてきた重度の身体障害を持っているとのことです。そうでなくても長時間の労働が強いられるワインメーカーにとって,障害を持つ子供を育てることがどれだけ大変だっただろうと思うと,自然に頭が下がります。
Merryのワインがおいしいことはこれまでも知っていましたが,今回初めて彼女の「生き様」にも興味をもつようになりました。これからも応援したい女性の一人です。
Merry(Meredith) Edwardsは大学(UC Berkeley)を出た後,ワシントン州に移り住みます。そこでいわゆるガレージワイン(フランス的なそれではなく,家で自家消費用のワインを作ること。米国では結構盛んです)を作り始めてワイン作りに興味をもつようになりました。それであらためてUC Davisのワイン醸造の学科に入りなおしました。
まだ1970年代のことで彼女は最初に卒業した3人の女性の一人でした。しかし,就職先を探すのに苦労します。最初は教授が求人案内を女性には見せないというところから始まり,彼女は大学の就職課に抗議してなんとかそれをやめさせます。それでも求人側が女性を希望しないというのがほとんどでした。
結局,Mount Eden,Matanzas Creekを経て夢であった自身のワイナリを作ったのは1997年のこと。苦労人だったのですね。
苦労は仕事だけではなく,二人の息子を持つMerryの二人目の子供は子宮内で発作を起こして生まれてきた重度の身体障害を持っているとのことです。そうでなくても長時間の労働が強いられるワインメーカーにとって,障害を持つ子供を育てることがどれだけ大変だっただろうと思うと,自然に頭が下がります。
Merryのワインがおいしいことはこれまでも知っていましたが,今回初めて彼女の「生き様」にも興味をもつようになりました。これからも応援したい女性の一人です。
2番目の感想はChateau PotelleのMarketta Fourmeauxの話です。前回紹介したAmelia CejaがいうなればAmerican Dreamを実現した話だったのに対し,こちらもまた一時は破産寸前のところからワイナリを立ち上げました。
とはいえ,フランス出身でINAOの審査員でもあり,夫のJean=Noelと三つの会社を経営していたのですから,元々はかなり余裕のある暮らしだったのでしょう。彼女と夫はINAOの依頼で米国ワインの現状を探る密偵として6カ月カリフォルニアに滞在し,結局はミイラ取りがミイラになって自らカリフォルニアでワインを作ることになりました。
しかし,ネゴシアン的なビジネスを狙ったことが大外れし,一時は破産寸前に。そこからなんとか畑を手に入れChateau Potelleを作りました。エレガントなジンファンデルという,フランスはもちろんカリフォルニアにも稀だったジャンルで成功を収めたものの,夫とは離婚という苦い目も味わっています。
本に書かれたのはここまでですが,その後2007年には結局Chateau Potelleを人手に渡すことになり,Marketta Winery & Vineyardsというワイナリを単独オーナーとして立ち上げることになりました。今ではそこでボルドーブレンドの赤とSauvignon Blancを作っています。
とはいえ,フランス出身でINAOの審査員でもあり,夫のJean=Noelと三つの会社を経営していたのですから,元々はかなり余裕のある暮らしだったのでしょう。彼女と夫はINAOの依頼で米国ワインの現状を探る密偵として6カ月カリフォルニアに滞在し,結局はミイラ取りがミイラになって自らカリフォルニアでワインを作ることになりました。
しかし,ネゴシアン的なビジネスを狙ったことが大外れし,一時は破産寸前に。そこからなんとか畑を手に入れChateau Potelleを作りました。エレガントなジンファンデルという,フランスはもちろんカリフォルニアにも稀だったジャンルで成功を収めたものの,夫とは離婚という苦い目も味わっています。
本に書かれたのはここまでですが,その後2007年には結局Chateau Potelleを人手に渡すことになり,Marketta Winery & Vineyardsというワイナリを単独オーナーとして立ち上げることになりました。今ではそこでボルドーブレンドの赤とSauvignon Blancを作っています。
カルトワインブームの立役者だったHelen TurleyやHeidi Peterson Barrett,より最近ではMerry EdwardsやSea Smokeを有名にしたKris Curranなど,今では女性のワインメーカーは珍しくありませんが,20~30年前までは,女性がワイン造りに携わるのは稀でした。
そういう時代から道を切り開いてきた女性たちへのインタビューをまとめたのが「Women of the Vine」という本で,これをベースにしたサイトもあります。
まだ3分の1くらいを読んだところなのですが,一回で紹介するのはもったいないので,何回かに分けて書きたいと思います(単に英語だと読むのが遅いというのもあります)。
ここまで登場したのは
Milla Handley (Handley Cellars)
Kristin Belair (Honig)
Amelia Ceja (Ceja Vineyards)
Andrea Immer Robinson (Master Sommelier)
Gina Gallo (Gallo)
Marketta Fourmeaux (Chateau Potelle)
この中で有名さで言うとGalloの広告塔でもあるGina Galloがダントツでしょうけれども,ストーリーの面白さではAmelia Cejaが一番でした。メキシコ移民の彼女は同じメキシコ移民の夫と初のメキシコ人オーナーであるワイナリを作りました。
彼女は子供の頃から将来の夫となったPedroらとブドウの収穫の手伝いなどをしていたのですが,次のようなエピソードがあったそうです。
ちょっと引用長くなりましたが,これはすごく分かるなあという気がしました。この素晴らしい瞬間の記憶を持つことがおいしいワインを作ることにつながるような。この人の作るワインを飲んでみたいという気になりました。
そういう時代から道を切り開いてきた女性たちへのインタビューをまとめたのが「Women of the Vine」という本で,これをベースにしたサイトもあります。
まだ3分の1くらいを読んだところなのですが,一回で紹介するのはもったいないので,何回かに分けて書きたいと思います(単に英語だと読むのが遅いというのもあります)。
ここまで登場したのは
Milla Handley (Handley Cellars)
Kristin Belair (Honig)
Amelia Ceja (Ceja Vineyards)
Andrea Immer Robinson (Master Sommelier)
Gina Gallo (Gallo)
Marketta Fourmeaux (Chateau Potelle)
この中で有名さで言うとGalloの広告塔でもあるGina Galloがダントツでしょうけれども,ストーリーの面白さではAmelia Cejaが一番でした。メキシコ移民の彼女は同じメキシコ移民の夫と初のメキシコ人オーナーであるワイナリを作りました。
彼女は子供の頃から将来の夫となったPedroらとブドウの収穫の手伝いなどをしていたのですが,次のようなエピソードがあったそうです。
We were picking, and I remember tasting a cluster of merlot grapes. I was transformed. Table grapes are so boring because there's not those fabulous flavors that you find in the grapes that are used for wines. I remember a perfectly mature cluster of merlot grapes that I tasted. They were so succulent. I immediately recognized that they were different. If you bit into the seeds, there were bitterness and astringency, but if you just gently pressed it in your mouth, it was the most wonderful, flavorful juice, which I'd never tasted in any other grape. That instant was the epiphany. And the same thing happened to Pedro and Armando, who are now my partners.
ちょっと引用長くなりましたが,これはすごく分かるなあという気がしました。この素晴らしい瞬間の記憶を持つことがおいしいワインを作ることにつながるような。この人の作るワインを飲んでみたいという気になりました。
以前「西麻布の豚組で厚さ3cm,肉汁たっぷりのとんかつを食す #3cmbuta」という記事で紹介した西麻布の豚組や六本木の「豚組しゃぶ庵」などを経営する@hitoshiこと中村仁さんがTwitterを使ったマーケティングの本を書きました。加ト吉など大手企業のブランディングとしてのTwitter利用については,ほかにも雑誌やムックなどで結構取り上げられていますが,数軒の店舗に実際に足を運んでもらって利益を出さないといけない立場でTwitterをどう使うかというのは,全く異なり,日本でそれを一番考え,実践してきた@hitoshiさんの書くものにはさすがに説得力があります。
例えば,店の名前を使った公式アカウントと,担当者個人の名前を使ったアカウントを分けることで,担当者のパーソナリティをTwitter上でのコミュニケーションに生かす方法などは多くの店(店舗に限りませんが)にとって参考になるのではないかと思います。
ところで,本書の中で一番琴線に触れたフレーズが「勝手口が主役」というところ。豚組の例でいうと@butagumiという公式アカウントが玄関口であるのに対して,@hitoshiが勝手口。上記で言うと「担当者個人」のアカウントのことです。実はこのブログ,Googleで「お勝手口」で検索すると2位,「勝手口」でも10位以内に入るのです。Twitterの話とは異なりますが,ここもいつの間にか主役が「玄関口」から「勝手口」に変わっています。というわけで僕も「勝手口マーケティング」,勝手に応援します。
例えば,店の名前を使った公式アカウントと,担当者個人の名前を使ったアカウントを分けることで,担当者のパーソナリティをTwitter上でのコミュニケーションに生かす方法などは多くの店(店舗に限りませんが)にとって参考になるのではないかと思います。
ところで,本書の中で一番琴線に触れたフレーズが「勝手口が主役」というところ。豚組の例でいうと@butagumiという公式アカウントが玄関口であるのに対して,@hitoshiが勝手口。上記で言うと「担当者個人」のアカウントのことです。実はこのブログ,Googleで「お勝手口」で検索すると2位,「勝手口」でも10位以内に入るのです。Twitterの話とは異なりますが,ここもいつの間にか主役が「玄関口」から「勝手口」に変わっています。というわけで僕も「勝手口マーケティング」,勝手に応援します。
「RESTful Webサービス」の監訳者でもある著者が,HTTPやHTML,AtomなどWebサービスを含んだWebを支える基本技術を平易に解説した本。
これからWebサイト,特にWebサービスを作りたいという人にとってRESTの考え方は採用するにしろしないにしろ,知っておかないといけないことだと思う。これまでこの分野では上記の「RESTful Webサービス」くらいしか参考になるものがなかったが,本格的にRESTに取り組むのならともかく,まずはRESTをちゃんと知りたいという人にとってはややオーバースペックな内容であり,価格だった。
本書はさまざまな項目をバランスよく解説しており,教科書的に使うには最適ではないかと思う。特に最後のWebサービス設計のところは,おそらく本書で著者が一番伝えたかったところだろうと思うのだが,サービス設計の参考になる。
なお,個人的にもうちょっと解説が欲しかったのはOAuthやOpenIDのところ。それとクッキーについて全く触れていないのは,これはWebを支える技術であるべきではない,という姿勢なのかな,と思った。
これからWebサイト,特にWebサービスを作りたいという人にとってRESTの考え方は採用するにしろしないにしろ,知っておかないといけないことだと思う。これまでこの分野では上記の「RESTful Webサービス」くらいしか参考になるものがなかったが,本格的にRESTに取り組むのならともかく,まずはRESTをちゃんと知りたいという人にとってはややオーバースペックな内容であり,価格だった。
本書はさまざまな項目をバランスよく解説しており,教科書的に使うには最適ではないかと思う。特に最後のWebサービス設計のところは,おそらく本書で著者が一番伝えたかったところだろうと思うのだが,サービス設計の参考になる。
なお,個人的にもうちょっと解説が欲しかったのはOAuthやOpenIDのところ。それとクッキーについて全く触れていないのは,これはWebを支える技術であるべきではない,という姿勢なのかな,と思った。
佐々木俊尚さんが書いた「電子書籍の衝撃」が4月14日正午まで110円(通常価格1000円)だというので,ディスカヴァー デジタルブックストアでダウンロードして読んでみました。当初110円が1万人限定ということでアクセスが殺到したせいか,初日の4月7日にはアカウント作成でエラーが続出したり,支払った後も書籍にアクセスできなかったり,最後にはログインもできなくなったりと散々でしたが,4月8日にはちゃんと使えるようになったようです。
以下では書籍の内容,および「続きを読む」以下ではこの電子書籍自体について感想を記します。
本書は
第1章 iPadとキンドルは、何を変えるのか
第2章 電子ブック・プラットフォーム戦争
第3章 セルフパブリッシングの時代へ
第4章 日本の出版文化はなぜダメになったのか
終章 本の未来
という構成になっています。第1章,第2章は日頃からそれなりに電子ブックについて興味を持って情報を追っていれば大体知っている内容でした。
第3章のセルフパブリッシングのあたりが本書の白眉。AmazonでKindle向けに電子書籍を作る方法や米国でセルフパブリッシングをしている人の話,日本で音楽をセルフディストリビューションしている人の話,MySpaceで楽曲を公開したのをきっかけに若手を育成するミュージックレーベル,さらにはメジャーレーベルへと進出した話が書かれています。特に最後の部分が,今後の書籍における構造変化を示唆しているようで興味深いところでした。
第4章はケータイ小説と取次の話。ケータイ小説は知らない世界なので面白かったですが,本書の中では刺身のツマ的な部分。取次に関しては,委託制が導入された経緯など知らないところもありましたが現在の問題点などは既にいろいろ語られているところ。特に新鮮味はありませんでした。日販の総量規制の話などはどうして書かなかったのか逆にちょっと不思議な感じがしました。
一般向けの新書なので全体にあっさりした記述で物足りなさはありますが,1時間で電子書籍のあらましが分かると思えばお得なのだろうと思います。
こちらも気になる。
以下では書籍の内容,および「続きを読む」以下ではこの電子書籍自体について感想を記します。
本書は
第1章 iPadとキンドルは、何を変えるのか
第2章 電子ブック・プラットフォーム戦争
第3章 セルフパブリッシングの時代へ
第4章 日本の出版文化はなぜダメになったのか
終章 本の未来
という構成になっています。第1章,第2章は日頃からそれなりに電子ブックについて興味を持って情報を追っていれば大体知っている内容でした。
第3章のセルフパブリッシングのあたりが本書の白眉。AmazonでKindle向けに電子書籍を作る方法や米国でセルフパブリッシングをしている人の話,日本で音楽をセルフディストリビューションしている人の話,MySpaceで楽曲を公開したのをきっかけに若手を育成するミュージックレーベル,さらにはメジャーレーベルへと進出した話が書かれています。特に最後の部分が,今後の書籍における構造変化を示唆しているようで興味深いところでした。
第4章はケータイ小説と取次の話。ケータイ小説は知らない世界なので面白かったですが,本書の中では刺身のツマ的な部分。取次に関しては,委託制が導入された経緯など知らないところもありましたが現在の問題点などは既にいろいろ語られているところ。特に新鮮味はありませんでした。日販の総量規制の話などはどうして書かなかったのか逆にちょっと不思議な感じがしました。
一般向けの新書なので全体にあっさりした記述で物足りなさはありますが,1時間で電子書籍のあらましが分かると思えばお得なのだろうと思います。
こちらも気になる。
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Evernote,最初に入れたときの印象があまりよくなかったので,ほとんど入れたきりになっていたのですが,絶賛する人が多いので,もう一回取り組んでみようと小暮さん,いしたにさんの本を買ってみました。
Google Analyticsでレポートをメール送信する機能を使って,EvernoteにAnalyticsレポートを保存していく方法など,なるほどと思い,いろいろ試そうという気になってきました。
iPhoneでAwesome Noteというメモアプリを使っているのですが,これまでサーバー連携をGoogle Docsとやっていてちょっと使いにくく感じていたのですが,これを機にEvernote連携に変えたらだいぶいい感じになりました。というわけで,Evernoteよくわかんないよという人は一度読んでみるといいかもしれません。
ところで,最近本をAmazonよりも楽天で買うことが増えました。ワインやら電化製品やらで楽天使うのでポイントを共通化したいというのもありますが,こっちの方が包装が簡易なのも理由の一つ。全品送料無料のときも多いので,特に1500円未満のものを買うときにはチェックした方がよいかも。以前は発送が遅いという問題があったのですが,最近はかなり早くなりました(一昨日注文した本は昨日ついてました)。
なので今回は楽天で紹介。今は送料無料です。
Google Analyticsでレポートをメール送信する機能を使って,EvernoteにAnalyticsレポートを保存していく方法など,なるほどと思い,いろいろ試そうという気になってきました。
iPhoneでAwesome Noteというメモアプリを使っているのですが,これまでサーバー連携をGoogle Docsとやっていてちょっと使いにくく感じていたのですが,これを機にEvernote連携に変えたらだいぶいい感じになりました。というわけで,Evernoteよくわかんないよという人は一度読んでみるといいかもしれません。
ところで,最近本をAmazonよりも楽天で買うことが増えました。ワインやら電化製品やらで楽天使うのでポイントを共通化したいというのもありますが,こっちの方が包装が簡易なのも理由の一つ。全品送料無料のときも多いので,特に1500円未満のものを買うときにはチェックした方がよいかも。以前は発送が遅いという問題があったのですが,最近はかなり早くなりました(一昨日注文した本は昨日ついてました)。
なので今回は楽天で紹介。今は送料無料です。
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
年をまたいでしまいましたがトップ10企画の第3弾として2009年に読んだ本からトップ10を挙げていきます。このブログで紹介している本はわずかですが,なんだかんだで年間200冊くらいは読んでいる計算になります。大部分は小説なので,小説が多くなりますが,特に分野は分けずに紹介します。また,2009年に読んだというだけであって,発行はもっと古いものがほとんどです。
で,いきなりなのですが10個に絞れませんでした…トップ15に急遽変更。
15位●あたりまえのこと/倉橋 由美子
敬愛する作家倉橋由美子の最初で最後の文学論。文学論ではないが著者の好む作品を詳しく取り上げた「偏愛文学館」と合わせて読むと,その主張がよりよく分かると思う。
本書は1977年から1979年にかけて雑誌に連載した「小説論ノート」と,1996年から1998年にかけて発表した「小説を楽しむための小説読本」からなりますが,特に面白いのは前半の「小説論ノート」。作者特有の毒を吐きまくっている。抱腹絶倒。
後半は,年を取ってまるくなったのか,あるいは病気で先行きが長くないことを見越してのものか(後書きには「残された飛行時間は予測不能、恐らくはいくばくもないと思われる以上、小説以外の文章を書くことも発表することも、これをもって最後にいたします」と書いている),つまらないものへの言及はやや少なくなる(それでも村上春樹を切って捨てるところなど痛快だが)。
タイトルの「あたりまえのこと」というのは,おそらく「こんな簡単なことも分からないで小説を書いているのですか,あなたたちは」というような他の小説家への痛烈な皮肉なのであろう。
14位●イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき/クレイトン・クリステンセン
エスタブリッシュされた大企業がなぜ滅びるのか。顧客の声を聞くことが新しい技術への移行をかえって妨げてしまうという恐るべき事実を分析している。13位の本と合わせて読むことで,インターネット社会でこれまでの企業が全くもって安泰とは程遠いところにいることがわかるだろう。8年前の本だが今でも読む価値がある。
13位●フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略/クリス・アンダーソン
現在の社会では様々なものの値段が無料か,限りなく無料に近い状態で供されるようになってきている。その代表がインターネットにおける様々な情報や楽曲のデータといったものだ。これらによって,これまでのビジネスモデルが成り立たなくなり,新しいモデルが必要になるさまを分析している。これらの動きは必然であり,多くの企業がその荒波にさらされる。そこから逃げようとしてもその分野で無料で提供する企業が登場した時点で,パラダイムは一変するので,自らそこに挑戦する以外に方法はない。
筆者は無料時代におけるさまざまな儲けの方法を書いているが,昨今の経済状況ではそれも難しくなっている面が大きい。あらゆる意味で今後を考えさせられる。
12位●テンペスト/池上 永一
舞台は幕末のころの琉球王国。孫家の長男として生まれるはずだった子は女の子だった。ショックの父親は名前さえ付けず,その子は3歳のときに自分で真鶴という名を付ける。養子の兄は勉学に不出来で失踪したあと真鶴は自らを宦官だといつわり男として生きることを決意する。それが本書の主人公「孫寧温(そんねいおん)」。
島津と清という強国の狭間で危ういバランスを取りながら生きる道を探す琉球王国。その史実をなぞりながらも破天荒な池上ワールドが展開する大娯楽作。池上永一作品はハチャメチャの度合いが過ぎてしまうところが難点だが,本書は歴史小説的な部分があるためか比較的おとなしめ。一方,本物の男性としても女性としても生きられない主人公の切なさを描くところは涙を誘う。 とにかく退屈することはないので一読あれ。
11位●博士の折り紙夢BOOK/川崎 敏和
2009年は折り紙をずいぶん折った。折り紙というと子供の遊びと思ってしまいがちだが,その奥深さに目覚めた本がこれ。このあと,前川さんの「本格折り紙」などもいろいろ折ったが,川崎さんの本は「どうやって折るか」をものすごく丁寧に解説しているので(中にはある折り紙を折るための練習作品を折る必要があるものも),本格折り紙入門としては最適では。「川崎ローズ」にこだわりたい人には新作の「究極の夢折り紙」もおすすめ。
年をまたいでしまいましたがトップ10企画の第3弾として2009年に読んだ本からトップ10を挙げていきます。このブログで紹介している本はわずかですが,なんだかんだで年間200冊くらいは読んでいる計算になります。大部分は小説なので,小説が多くなりますが,特に分野は分けずに紹介します。また,2009年に読んだというだけであって,発行はもっと古いものがほとんどです。
で,いきなりなのですが10個に絞れませんでした…トップ15に急遽変更。
15位●あたりまえのこと/倉橋 由美子
敬愛する作家倉橋由美子の最初で最後の文学論。文学論ではないが著者の好む作品を詳しく取り上げた「偏愛文学館」と合わせて読むと,その主張がよりよく分かると思う。
本書は1977年から1979年にかけて雑誌に連載した「小説論ノート」と,1996年から1998年にかけて発表した「小説を楽しむための小説読本」からなりますが,特に面白いのは前半の「小説論ノート」。作者特有の毒を吐きまくっている。抱腹絶倒。
後半は,年を取ってまるくなったのか,あるいは病気で先行きが長くないことを見越してのものか(後書きには「残された飛行時間は予測不能、恐らくはいくばくもないと思われる以上、小説以外の文章を書くことも発表することも、これをもって最後にいたします」と書いている),つまらないものへの言及はやや少なくなる(それでも村上春樹を切って捨てるところなど痛快だが)。
タイトルの「あたりまえのこと」というのは,おそらく「こんな簡単なことも分からないで小説を書いているのですか,あなたたちは」というような他の小説家への痛烈な皮肉なのであろう。
14位●イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき/クレイトン・クリステンセン
エスタブリッシュされた大企業がなぜ滅びるのか。顧客の声を聞くことが新しい技術への移行をかえって妨げてしまうという恐るべき事実を分析している。13位の本と合わせて読むことで,インターネット社会でこれまでの企業が全くもって安泰とは程遠いところにいることがわかるだろう。8年前の本だが今でも読む価値がある。
13位●フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略/クリス・アンダーソン
現在の社会では様々なものの値段が無料か,限りなく無料に近い状態で供されるようになってきている。その代表がインターネットにおける様々な情報や楽曲のデータといったものだ。これらによって,これまでのビジネスモデルが成り立たなくなり,新しいモデルが必要になるさまを分析している。これらの動きは必然であり,多くの企業がその荒波にさらされる。そこから逃げようとしてもその分野で無料で提供する企業が登場した時点で,パラダイムは一変するので,自らそこに挑戦する以外に方法はない。
筆者は無料時代におけるさまざまな儲けの方法を書いているが,昨今の経済状況ではそれも難しくなっている面が大きい。あらゆる意味で今後を考えさせられる。
12位●テンペスト/池上 永一
舞台は幕末のころの琉球王国。孫家の長男として生まれるはずだった子は女の子だった。ショックの父親は名前さえ付けず,その子は3歳のときに自分で真鶴という名を付ける。養子の兄は勉学に不出来で失踪したあと真鶴は自らを宦官だといつわり男として生きることを決意する。それが本書の主人公「孫寧温(そんねいおん)」。
島津と清という強国の狭間で危ういバランスを取りながら生きる道を探す琉球王国。その史実をなぞりながらも破天荒な池上ワールドが展開する大娯楽作。池上永一作品はハチャメチャの度合いが過ぎてしまうところが難点だが,本書は歴史小説的な部分があるためか比較的おとなしめ。一方,本物の男性としても女性としても生きられない主人公の切なさを描くところは涙を誘う。 とにかく退屈することはないので一読あれ。
11位●博士の折り紙夢BOOK/川崎 敏和
2009年は折り紙をずいぶん折った。折り紙というと子供の遊びと思ってしまいがちだが,その奥深さに目覚めた本がこれ。このあと,前川さんの「本格折り紙」などもいろいろ折ったが,川崎さんの本は「どうやって折るか」をものすごく丁寧に解説しているので(中にはある折り紙を折るための練習作品を折る必要があるものも),本格折り紙入門としては最適では。「川崎ローズ」にこだわりたい人には新作の「究極の夢折り紙」もおすすめ。
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