ソノマ在住のワインジャーナリスト、カフマン恵美子さんに教えてもらったNYタイムズの記事を読みました(The Wrath of Grapes - NYTimes.com)。

かなり長い記事で、IPOBのラジャ・パーの話に始まり、IPOBに批判的なロバート・パーカーの話、ニューヨークのソムリエの話、またナパでIPOBのメンバーになっているマサイアサン(Matthiasson)や、反対にパーカーから高い評価を得ているシェーファー(Shafer)の話などが書かれています。

これを読むとIPOBのワインについて、米国でどのように受け取られているか、なんとなく雰囲気が分かるような気がしました。

興味深く感じたのは、ニューヨークで以前はほとんどいなかったソムリエが、今は1つのレストランに複数のソムリエがいるほど増えているということ。彼らの中にIPOBのワインを支持する人が多いことが、それまでの「パーカー・ポイント」一択的なワインの選び方から変わってきた一因になっているようです。

カリフォルニアワインは自由な半面、何かがブームになると、皆一緒くたにそちらに流れる傾向があると思っています。例えば1990年代のメルローのブームだったり、2000年前後のカルトワインのブーム(凝縮度をエルために、収穫を極端に遅らせることが問題になった時期もありました)だったり、映画『サイドウェイ』以降のピノ・ノワールのブームだったり、…。

IPOBはまだそこまで極端な動きになっていないのが逆に健全な気がします。

作り手としては、IPOBのような酸が強くアルコール度が低いスタイルを目指すのか、従来のカリフォルニアワインのような酸が少なく果実味の強いスタイルを目指すのか、どこかに自らのスタイルを決めることは必要でしょう。

しかし、我々コンシューマーは別に「~~派」になる必要はないのです。IPOBのワインを楽しむ一方で、パーカーが高得点を付けたナパのカベルネを楽しんでも、何の問題もありません。ワインの飲み方も、食事に合わせるだけでなく、ワインを単独で飲んだっていいわけです。

そういったことを含めて、自由なカリフォルニアワインをこれからも楽しみたいと思ったのでした。

以下は余談ですが、この記事を読んで米国がうらやましくなった点もあります。

まずはNYタイムズのような一流紙に、これほどしっかりとした、読み応えのあるワインの記事が載っていること。日本の新聞だったら、長くてもこの4分の1くらいの記事でしょうし、内容ももっと誰でもわかるようにと、マニアにとってはつまらないレベルに抑えられてしまうと思います。

もう1つは、この記事に200を超えるコメントが付いていること。ざっと見たのですが、日本のコメント可能なメディア(例えばハフィントンポストなど)に付くコメントがやたら感情的だったり、揶揄するようなものだったりするのが多いのに対し、ほとんどがまっとうな意見でした。

日本のワインシーンでは、こういった記事もなかなかなければ、それについて議論する土壌もないというのが寂しく感じます。