クリフ・レイディで先進ワイナリーの努力と実力に触れる(ナパ4日め、その1)
ナパの旅も、いよいよ終盤にかかります。4日めはまず有名なナパ・ヴァレー看板に行って写真を撮り、それからクリフ・レイディ(Cliff Lede)に行きました。
クリフ・レイディは2002年に設立された新しいワイナリー。かつてS. Andersonというワイナリーだったところを購入しており、S. Anderson時代に訪れたことがある身としては、懐かしいような新鮮な感じです。
ワイナリーの実力としてはS. Anderson時代とは比べ物にならず、ナパでも新進の実力派ワイナリーといっていいでしょう。2016年1月にはロバート・パーカーが、ここのポエトリー(Poetry)というカベルネ・ソーヴィニヨンに100点を付けています。
スタッグス・リープ・ディストリクトのヴァレー・フロア側に位置するクリフ・レイディ。2日めに行ったパイン・リッジからは3kmくらい北側になります。スタッグス・リープ・ディストリクトの中でも一番北にあり、パイン・リッジのあたりほど急峻な地形ではなく、ワイナリーの周りは比較的緩やかな丘に沿ってブドウ畑になっています。ツイン・ピークスという畑の名前で、南の方に丘が2つあります。土壌も火山性のものではなく、沖積系が中心になっているようです。
もう一つ、シルバラード・トレイルより東のスタッグス・リープ・パリセイドに向かう急峻な斜面に畑があり、こちらがポエトリー。前述の100点ワインを生み出した畑です。完全に西向きの斜面なので、午後は日当たりがとてもよく、また丘が風の通り道になっているそうです。非常に寒暖の差が大きい畑だとのことでした。
2日めの最初に行たOvidと同様、ここもデイビッド・エイブリューが畑の管理を行っています。ただ、以前からの畑もあるので、区画によって、エイブリュー流の密植して、ブドウの実を低い位置に付けるスタイルのところと、樹の幅が広く、ブドウを1mくらいのところに付けるスタイルのところとがあります。
説明は2015年のソーヴィニヨン・ブランをいただきながら聞いています。ソーヴィニヨン・ブランとセミヨンとのブレンドで、酸と果実味のバランスがとても良くおいしいワインでした。
さて、ナパには環境保全のプログラムとして、「Napa Green」というものがあります。「Land」と「Winery」の2種類のプログラムがあり、Landは173、Wineryは48のワイナリーが認定を受けています。クリフ・レイディは29あるLandとWineryの両方の認定を受けているワイナリーの一つ。ちなみに、今回訪問したワイナリーは、そのような意識の高いワイナリーがかなりを占めています。例えばパイン・リッジや、この後行くホニッグなどもその例です。ナパ・ヴァレー・ヴィントナーズでは2020年までにすべてのワイナリーがプログラムに参加することを目標にしています。
実はポエトリーのような斜面の畑は現在では開発がかなり難しくなっています。というのは土壌の流出といった問題が起こるからです。クリフ・レイディでも藁を敷いたり、カバー・クロップを植えたりといった方法で土壌が流れないよう工夫をしているそうです。
ナパでは斜面の斜度が5%を超えると、このような侵食の問題への対応が必須とされており、30%を超えると新しい開発ができないのだそうです。現在ナパでは面積の9%にあたる4万5000エーカーのブドウ畑がありますが、この制限を考えると、今以上にブドウ畑を増やすのはかなり難しいようです。
このような侵食への対応もNapa Greenの一部ですし、農薬や殺虫剤などを極力使わないようにするといったこともその一つです。ナパ・リバーの鮭を守るといったこともプログラムに含まれています。
例えば、写真のようにブドウの周りの葉を取ることによって、風通しがよくなりブドウが病気にかかりにくくなります。こういったことも農薬や殺虫剤を減らすのに役立ちます。
ワイナリーに行くと、写真のように上部がガラスになっていて太陽光を取り入れるようになっています。これでワイナリー内の照明に使う電力を削減しています。また、すべてのライトはLEDになっています。ワイナリーはHoward Backenという有名な建築家に設計を依頼したそうです。
太陽光発電も行っています。今ではかなり多くのワイナリーが太陽光発電を取り入れていますが、畑にできるところを発電に振り向けるのですから、ワイナリーにとっては簡単にできることではありません。
電気だけでなく、水の使用も減らしています。例えば樽の洗浄には水蒸気とオゾンを使っているそうです。一般にワインを作るときには、その10倍の水が必要と言われていますが、ここではそれを半分の5倍に抑えているとのことでした。
ワイナリーの屋根にはほかにも工夫があり、夜になると屋根を開けるのだそうです。冷たい空気が入ることで気温が3℃くらい下がるとのことでした。
このほか、ブドウをタンクに入れる際にポンプを使うと実が傷みやすいため、クレーンで持ち上げてタンクに入れるシステムを採用しているといった話もありました。ナパのワイナリーでも2箇所しか導入していないそうです。
ワイナリーでは2010年のカベルネ・ソーヴィニヨンをいただきました。ナパらしい芳醇で柔らかさのある、いいカベルネ・ソーヴィニヨンです。
ワイナリーから今度はケーブに入っていきます。
最近はやりのコンクリート・エッグと呼ばれる醸造用のタンクもあります。
ソーヴィニヨン・ブランの場合、10%がコンクリート・エッグ、50%が樽、40%がステンレススチールタンクで発酵させているそうです。コンクリート・エッグは芳醇さとミネラルの味わいを出すのにいいとのことでした。
また、ソーヴィニヨン・ブランの樽では写真のように細長い「葉巻型」のものもあります。先日セミナーで来日したフィリップ・メルカもこのタイプの樽を使っているという話をしていました。澱と接触する面積が広くなるのがメリットだったと思います。
なお、このワイナリーでは通常はラッキングはしないと言っていました。2011年のようなあまりよくない年に限って行うそうです。
2日めに行ったOvidもそうですが、ここも細かいところまでお金と労力を使って実践しているのが印象的でした。やっぱりナパの一流ワイナリーはさすがです。
ここは畑のブロックにロックの名曲の名前を付けていることでも知られています。