SFクロニクルのワインメーカー・オブ・ザ・イヤーが先日発表されました。今年の受賞はマイケル・クルーズ。スパークリング・ワイン「ウルトラマリン(Ultramarine)」で一世を風靡しつつあるワインメーカーですが、受賞理由はむしろそれ以外にあるのが面白いところです(Winemaker of the Year: Michael Cruse - San Francisco Chronicle)。

例えば、かつて「ナパ・ガメイ」と呼ばれていた「ヴァルディギエ(Valdiguié)」という品種のワインを作っています。ヴァルディギエの畑はナパでは1973年には950エーカーあったものが、2015年には21エーカーにまで減ってしまっているとのこと。

このようなフルーティで変わっていて、ノスタルジックなものを作るというのが彼のワイナリー「クルーズ・ワイン」の特徴となっています。ヴァルディギエのワインは29ドル。プレミアムなワインを作りたいのではなく、むしろジャグワインの時代に近いようなものを目指しています。

ウルトラマリンが、今この瞬間に輝くワインだとしたら、クルーズ・ワインはカリフォルニアワインの未来を見据えたものであり、それがワインメーカー・オブ・ザ・イヤーの理由だとのことです。

マイケル・クルーズの経歴もユニーク。ソノマのペタルマで育ち、UCバークレーで生化学を学びました。卒業後もUCSFの研究所で働いていましたが、料理やワインに興味を持ち、UCデービスを再受験。

入学までの間に、ナパのサター・ホーム(高級ワインのワイナリーではなく、ホワイト・ジンファンデルで有名なサター・ホームだったというのが興味深いところ)でアルバイトをしていたのですが、そちらの泥臭い仕事にはまってしまい、結局デービスには通うことなくサター・ホームで働くことを選びました。

その後、メリヴェイルがカーネロスに持っているスターモントに移り、アシスタント・ワインメーカーになります。彼はそこで化学の知識を生かして頭角を現し、自分のワイナリーを持つことを考えるようになります。

当時は、ピノ・ノワールの人気が急上昇したころ。新しいワイナリーがいくつもできていましたが、人と同じことをしたくないと考えたマイケル・クルーズはスパークリング・ワインを志します。折しもフランスではグロワーズ・シャンパーニュの動きが始まっており、それに大きく影響されています。

そして、ここが彼の面白いところですが、スパークリング・ワイン作りをフランス語で19世紀に書かれた本を使って勉強し、作り始めたのです。そのため失敗も多く、最初の2008年のヴィンテージは、「クラウン・キャップ」をボトルに入れてしまったため、気温が上がったら全部爆発してしまったとのこと。

こうして試行錯誤を積み重ねてウルトラマリンができました。ウルトラマリンはWine Spectatorの評価が84点(2011年)など、旧来の評論家には高く評価されていないのですが、インスタグラムなどSNSから人気が広がっていったというのも、まさに今風です。

マイケル・クルーズは2013年にスターモントをやめ、ペタルマに今のクルーズ・ワインをオープンしてスティル・ワインも作りはじめました。

前述のように、欧州的なウルトラマリンに対して、クルーズ・ワインはカリフォルニア的であり、価格も25ドルから38ドルと手に入れやすいところを狙っています。

カリフォルニアの今らしさを伝えるワインメーカー・オブ・ザ・イヤーでした。

Valdiguié Nouveau. You should think about tasting it at Ordinaire tonight.

Michael Cruseさん(@crusewine)が投稿した写真 -