レイヴェンズウッドの創設者でジンファンデルのゴッドファーザーと呼ばれるジョエル・ピーターソンと、その息子でベッドロックのワインメーカーであり、マスター・オブ・ワインでもあるモーガン・トゥワイン・ピーターソン、そしてモーガンの相棒であるクリス・コトレルが来日、セミナーを開催しました。モーガンとジョエルが親子で来日してセミナーを開催するのは初めてです。

ジョエル・ピーターソン

まずはクリス・コトレルが、モーガンとともに作るスパークリングワインのプロジェクト「アンダー・ザ・ワイヤー」を説明しました。カリフォルニアには大量生産型の優秀なスパークリングワインのプロデューサーはたくさんありますが、シャンパーニュにおけるグロワー・シャンパーニュに相当するものを作ろうとして始めたのがアンダー・ザ・ワイヤーです。スパークリングワインは一般にノン・ヴィンテージで作られるのに対し、アンダー・ザ・ワイヤーではシングル・ヴィンテージ、シングル・ヴィンヤード、シングル・ヴァラエタルでテロワールを表現しようとしています。

試飲のワインはスパークリング・シャルドネ・ブロッソー・ヴィンヤード2014。ブロッソー・ヴィンヤードはシャローンの畑。標高540mくらいのところにある畑で1980年に植樹。石灰岩と花崗岩の地層に接ぎ木なしで植えられており、灌漑もしないというユニークなところです。スパークリング・ワインのブドウは収穫時期が少しでも遅れるとアルコール度数が高くなり、うまくスパークリング・ワインになりません。ナパなどでは7月に収穫を始めたこともあるほどです。しかし、アンダー・ザ・ワイヤーではブドウのフレーバーを引き出すために収穫をぎりぎりまで遅くしています。アンダー・ザ・ワイヤーという名前はギリギリを狙うという意味で付けています。

醸造はステンレスタンクで天然酵母を使い、その後中古の樽で半年熟成、ボトル詰めします。ティラージュやデゴルジュマンといったスパークリング・ワイン特有の工程はすべて手作業で作っています。

石灰岩が酸やフレッシュさを与え、花崗岩が旨味を与えるとのこと。鮮烈な酸に軽いイースト香、スパイス感もあっておいしいスパークリング・ワイン。

なお、ウルトラマリンで大人気のマイケル・クルーズとは同じ場所で醸造しているとのこと。スパークリング・ワインとしての方向性は異なるものの仲良くやっているそうです。

クリス・コトレル

その次はベッドロック。モーガンはカリフォルニアのワインメーカーとしては初めてマスター・オブ・ワインを得た人。樹齢50年を超える畑のブドウにこだわり、畑の保全にも積極的に携わっています。

モーガン・ピーターソン

まず最初はリースリング。1963年に植えられたカリフォルニアでは非常に珍しいリースリングの古木です。ウィルツ・ヴィンヤードという畑はカレラのあるマウント・ハーランのすぐ南で、前述のシャローンとも山の反対側という位置関係。ここも石灰岩のある土地です。ドライなリースリングで白い花の香り。スパイシーさもあります。カリフォルニアでは貴重な味わいのワイン。

積田さんより

次はオールド・ヴァイン・ジンファンデル2017。ベッドロックの「名刺代わり」のワインで、モーガン自ら「いちばん大事なワイン」と呼ぶワインです。さまざまな畑のブドウをブレンドしています。ベッドロックの単一畑のワインは、生産量が少なく、入手困難なものも少なくありませんが、これだけは価格が安い上に生産量も多く、買おうと思えば買えるワインになっています。かといって品質が低いわけではなく、むしろ価格から見たら信じられないほどのレベルです。

カリフォルニアの古木の畑は実はかなり危機的な状況にあり、毎年数が減っていっています。手間がかかる上に生産量がすくなく売るのも難しいため、植え替えの対象になりやすいのです。ベッドロックのオールド・ヴァイン・ジンファンデルが売れることで、そういった畑のブドウをより多く購入して、畑の保全にもつながるとのこと。また、多くの地域のブドウをブレンドすることで、ヴィンテージの違いも吸収できるそうです。平均樹齢は約80年。

個人的にもことあるごとにおすすめしているこのワイン。特にこれまでジンファンデルを敬遠している人に飲んでほしいと思います。この価格でこれだけの複雑さを持つワインはそうそうありません。

醸造はオープンタンクで、アルコール度数を適度にするためにポンプオーバーで混ぜているとのこと。大樽で10カ月熟成。新樽率は10%。

今回は2017年を試飲。先日中川ワインの試飲会でも味わっていますが、香りは甘く、キャンディのようなアロマがありますが、味わいは甘さよりも複雑さが目立ち、ストラクチャーもしっかりとしていて、酸もきれいです。ミディアム・ボディでバランスもよくおいしいワイン。

ベッドロックの3つ目はベッドロック・ヴィンヤード・ヘリテージ・レッド・ワイン2017。ソノマにある自社畑のベッドロック・ヴィンヤードの単一畑もので、ジンファンデルは55%と比較的低く、カリニャンが15%、マタロが10%。その他24品種が20%を占めています。2016年のものはワイン・スペクテーターで95点という高評価。年間10位に選ばれています。この発表の後は、電話がなりやまずあっという間に売り切れてしまったとのこと。

カシスの風味。フルボディで酸とパワーとのバランスが素晴らしいワイン。ブラックペッパーなどのスパイスもここちよく、フィニッシュも長い。さすがのレベルです。

最後はジョエル・ピーターソンが68歳から始めた新しいプロジェクト「ワンス・アンド・フューチャー」です。

レイヴェンズウッドでは最高年間100万ケースものワインを作っていたというジョエル・ピーターソン。カリフォルニアで作られるジンファンデルの1/4くらいを作っていたこともあったようです。ただ、ワインメーカーといっても自身の手が果汁で紫に染まることもなくなり、「幸せ」について考えたときにまた、一からワインを作りたいと思って始めたのがワンス・アンド・フューチャーです。今は孫(モーガンの姉の子供)がワインづくりを手伝っているとのこと。

ここの作りは新樽率は30%程度。

最初は、ワンス&フューチャーのジンファンデル・ベッドロック。ヴィンヤード2016。モーガンが所有する畑のブドウを使ったもの。非常にパワフル。ブルーベリーやブラックベリーなどの果実味が豊かで味の広がりが素晴らしい。一つ前のワインと同じ畑でありながら方向性が違うワインです。

最後はワンス&フューチャーのプティ・シラー・パリセーズ。ヴィンヤード。
非常にパワフルでタニック。酸がしっかりとしており、全体としてのバランスが見事。とても魅力的なワイン。

父ジョエルの作るワインの方が全体的に陽性の味わい。一方、モーガンの作るワインは複雑で、じっくりと味わいたい感じです。

また、今回3人がとても仲が良いのがうかがえて、とても楽しいセミナーでもありました。例えば、父ジョエルは10歳からワインを味わっていたといいますが、モーガンがワインを作り始めたのはなんと5歳のとき。その5歳の差が、モーガンがマスター・オブ・ワインを取れて、自分は取れなかった理由ではないか、などと言っていました。ジョエルは自らを「FMW=father of master of wine」などと名乗っているそうです。

大学では歴史を勉強していたモーガンがワインメーカーになるのは、心配もあったようですが、その姿がジョエルにまた新しい挑戦を始めさせたきっかけにもなったわけです。自ら手を汚しながらワインを作ることが本当に楽しそうなジョエルに、一つの理想的な親子関係を感じました。