ジンファンデルの雄「ターリー・ワイン・セラーズ(Turley Wine Cellars)」から創設者ラリー・ターリーの娘のクリスティーナ・ターリーが来日、日本で初めてというセミナーを開きました。

1993年に設立されたターリーは今年創設30周年。古木の畑のジンファンデルにこだわりを持ち、30を超える単一畑のジンファンデルを作っています。
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セミナーの前半はジンファンデルについての解説が中心。ジンファンデルはクロアチアのCrljenak Kaštelanski(クルリェナク・カステランスキ)が起源となっており、イタリアでは1799年からプリミティーボとして栽培され、米国には19世紀に渡ってきました。1820年代のニューヨークのカタログで初めて「Zinfandel」という記載があったようです。

19世紀なかばには「クラレット」に似たワインを作る品種として農務省が栽培を推奨し、広く広がります。その後、禁酒法の時代にワイナリーは激減しますが、ジンファンデルは自家製ワイン用のブドウとして人気があり、生きながらえて、新たな畑が作られることにもなりました。

1970年代にはサター・ホームが「ホワイト・ジンファンデル」を作って大ヒットしました。「アメリカ文化への貢献」としてスミソニアン博物館に所蔵されている数少ないワインの1つだということです。ホワイト・ジンファンデル用にジンファンデルのニーズが高まったことで、古い畑が引き抜かれずに維持できたという面もあります。

2011年にヒストリック・ヴィンヤード・ソサイアティが設立され、樹齢50年以上の畑が登録されるようになりました。ターリーの現在のワインメーカーであるティーガン・パサラクアはその発起人の一人として貢献しています。

ターリーの創設者のラリー・ターリーはERの医師として20年以上働いた後、1981年にジョン・ウィリアムズとともにフロッグス・リープを立ち上げました。ERの経験から「どんな患者(古い樹)でも命をとりとめる」と冗談でよく言うそうです。「古いブドウ畑のすべてを愛する」と公言しており、1993年にターリー・ワイン・セラーズを立ち上げてからは古木の畑からの単一畑ワインを積極的に作っています。

現在のワインメーカーのティーガン・パサラクアは2003年に収穫のインターンとして働き、ニュージーランドやローヌなどでも経験を積んでいます。2015年には「ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれています。また2009年からは自身の「サンドランズ」というワイナリーをやっており、ローダイにキルシェンマンという畑を持っています。


試飲のワインに入っていきましょう。

最初は2021年のホワイト・ジンファンデル・ロゼです。ナパのエステート・ヴィンヤードとアマドールのバック・コブ(Buck Cobb)ヴィンヤード、パソ・ロブレスのアマデオズ(Amadeo's)・ヴィンヤードのブレンド。19Brixというかなり低めの糖度で収穫し、6時間果皮に漬け込んだ後、ステンレスタンクで天然酵母発酵します。その後フレンチオークの樽で半年ほど熟成して瓶詰めします。サター・ホームのとは違いドライなスタイルのロゼです。酸は豊かですが柑橘系というより、白桃などストーンフルーツの風味やローズペタルを感じます。コクが有りちょっとグリップ感もあります。美味しい。

次は2020年のリナルディ(Rinaldi)ヴィンヤード・ジンファンデル。シエラ・フット・ヒルズのフィドルタウンAVAにある畑です。1910年植樹の畑ですが、一部には1860年に植えられた樹もあるそうです。ジンファンデルのほかミッションやカリニャン、グルナッシュ、サンソーもフィールドブレンドで植えられています。土壌は鉄分の多い花崗岩の砕けたもの。接ぎ木なしで植えられており、灌漑もありません。

醸造は天然酵母で、熟成はフレンチオーク80%、アメリカンオーク20%。新樽率は20%。樽で15カ月熟成してフィルターや清澄なしで瓶詰めしています。このあたりの醸造のスペックはすべての赤ワイン共通であり、テロワールの違いだけが味に出てきます。

レッド・チェリーやザクロといった赤系果実に加えてブルーベリーのニュアンスもあります。甘草の甘やかさも。酸は中程度、ボディも中程度ですが、タンニンはジンファンデルにしてはかなりしっかりあり、ストラクチャーも感じます。このあたりは冬に雪も降る寒いところであり、タンニンの強さはその寒さから来ているのではないかという話でした。

3本目は2021年のペセンティ(Pesenti)ヴィンヤード・ジンファンデル。パソ・ロブレスのウィロー・クリークAVAの畑です。石灰質の土壌で畑には白い石がごろごろしています。1000万~1500万年前のクジラの化石が出たこともあるそうです。植樹は1922~24年ですからちょうど100年くらいの樹齢。無灌漑で有機認定の畑です。品種はジンファンデルのほかカリニャンとグルナッシュ。

前のワインより色濃くスパイシー。ミントのような清涼感もあります。赤黒系果実の風味。酸豊かでフルボディ。うまいねえ。

4本目は2021年のキルシェンマン(Kirschenmann)ヴィンヤード・ジンファンデル。ローダイのモクレム・リバーAVAの畑です。前述のようにワインメーカーのティーガンが自身で持っている畑。温暖なローダイですが川が近くにあることで冷涼感がもたらされているとのこと。1915年に植樹され、自根の畑です。ここも無灌漑。土壌は4ftほどは砂ですがその下は石灰岩だそうです。品種はジンファンデルのほかモンドゥーズ・ノワール、サンソー、カリニャン。

ブルーベリーや甘草、オリエンタルスパイス。シルキーなテクスチャを感じます。クリスティーナによると「いいワインはテクスチャに現れる」とのこと。ここだけは誤魔化しが効かないそうです。濃厚ですがタンニンはそれほど強くないので、飲みやすい。

5本目はナパのハウエル・マウンテンにある自社畑のドラゴン(Dragon)ヴィンヤード。2021年のジンファンデルです。畑の標高2250ftというのはハウエル・マウンテンの中でもかなり高い方(ハウエルマウンテンは1400~2500ftくらいの標高)。ちなみに隣にはターリーのラトルスネイク・ヴィンヤードがあり、すぐ近くにBlack Sears(トーマス・リヴァース・ブラウンが醸造を手掛けるワイナリー)があります。ドラゴンは東向き、ラトルスネイクは西向きの斜面なので、ラトルスネイクの方がより温暖だそうです。栽培はオーガニックですが無灌漑ではありません。

ハウエルマウンテンは火山性土壌で表土が薄く、基本的に霧がかからないので太陽が当たる時間も長く、パワフルでタニックなワインになります。そういう意味ではブラインドで飲んでも一番認識しやすいとのこと。

確かに青黒系果実の風味が濃厚でスパイス感も強くあります。タンニンも強くフルボディで余韻も長い。すみれの花の香り。チューイーなテクスチャがあります。ラリー・ターリーはこのワインが一番好きだとのこと。

最後はライブラリーワインで2012年のエステート・ヴィンヤード プティ・シラー。プティ・シラーは濃厚なワインを作るブドウで長期熟成にも向いています。1996年の2011年に植樹された畑。

プティ・シラーらしくタンニン強く、フルボディで余韻も長いですが、果実味は意外と赤果実系も感じます。マッシュルームや森の下草など熟成の風味もあります。

エステート
ところで、上はナパのセントヘレナにあるターリーのエステート・ヴィンヤードのブロック図。品種の後ろに「HT」と描いてあるのはヘッド・トレインド(Head Trained)、ゴブレットやヘッド・プルーンなどとも言われる仕立て方です。それ以外のところはいわゆる垣根仕立て。

ターリーの畑の中でドラゴンとエステートは灌漑を行っているのですが、その理由を聞いたところ、垣根仕立ての畑では灌漑が必要だとのこと。エステートでもヘッド・トレインドのブロックは灌漑していません。そこで、ターリーではエステートの畑は今後全部ヘッド・トレインドに変えて無灌漑にするとのこと。カベルネ・ソーヴィニヨンもジンファンデルの畑に変えていく予定です。フィールドブレンドでカリニャンやトゥルソー・ノワールも植えられるとのことで、これからどうなっていくのか楽しみです。

ただ、ドラゴンの畑は、畑を入手したときにすべて垣根仕立てになっていたので、しばらくはそのままでいくことになりそうでう。

ヘッド・トレインドにすることで、剪定や収穫の手間は増えますし、生産量は減ります。それでもワインの複雑味は増し、品質が高くなるので、やっていく意味は大きいと考えているそうです。

最後にターリーのボトルにまつわる話を2つ。ターリーのボトルはユニークな形状をしていますが、なぜその形になったのかという質問がありました。実はこのボトルはラリー・ターリーが自身でデザインしたもの。ボルドー系やブルゴーニュ系のワインにはそれぞれボトルのデザインがあるのにジンファンデルにはない。それでオリジナルの形を作ろうとしたそうです。また、ラリーのおばさんがブルゴーニュのワインの輸入をしていたので、どちらかというとブルゴーニュに近いようなデザインにしたのではないかとのことでした。

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もう一つはボトルのキャップに描かれている4つの★。これはターリーの4姉妹を表しているそうです。実はボトルの底にも★のデザインがあります。こちらは幼くして亡くなった弟を表しているものだそうです。こんなところに家族の絆が入っていたことも初めて知りました。