今やカリフォルニアのピノ・ノワールの中でもレア・アイテムになっているのがドメーヌ・ド・ラ・コート(Domaine de la Cote)。そのワイナリーを持っているのがラジャ・パーとサシ・ムーアマンです。

ラジャ・パーの名前を有名にしたのが2011年に始めたIPOB(In Pursuit of Balance)。カリフォルニアワインに低アルコール化の流れを作る機運を作りました。それまでもサンフランシスコの著名レストラン「ルビコン」のソムリエに始まり、マイケル・ミーナという著名レストラン・グループでのワイン・ディレクターなどを勤め、ソムリエの世界では知られていましたが、IPOBでカリフォルニアワインの先導役の一人としての地位も確立しました。

ドメーヌ・ド・ラ・コート、サンディ(Sandhi)とサンタ・リタ・ヒルズに2つのワイナリーを持ち(ドメーヌ・ド・ラ・コートは自社畑、サンディは購入ブドウ中心)、オレゴンでも有名ソムリエのラリー・ストーンと、ブルゴーニュのコント・ラフォンが始めたイヴニング・ランドを買収し、オレゴン・トップクラスのワイナリーに仕立てました。

このラジャ・パーの4番目のワイナリーがフェラン・ファーム(Phelan Farm)です(ラジャ・パー4つ目のワイナリーはマイナー品種に特化の自然派)。

フェラン・ファームは2022年にAVAになったSLOコーストにあり、太平洋からわずか5㎞と大変冷涼な地域にあります。1851年にフェラン家が作った農場で1100エーカーの農場の中でわずか11.5エーカーだけがブドウ畑になっています。グレッグ・フェランが2007年に自根で植えたシャルドネとピノ・ノワールがありました。

このブドウ畑をリースしたラジャ・パーの当初の計画は、土地の耕起をしない再生型農業でなるべく自然のままでブドウを育てようというものでした。ラジャ・パーを含めたわずか3人のチームで畑仕事を全部賄い、収穫時も3人だけピッカーを雇うという最小の人員でのオペレーションを志しています。ちなみに、フェラン・ファームにおけるラジャ・パーの肩書は「ファーマー」となっています。ワインメーカーはおらずアンナ・パレーズという人が「セラー・マスター」をしています。

ブドウ畑の健康を強化するためにイラクサ、ヤナギの樹皮、ルーピンなど、自生する植物から作った発酵スプレーを散布しています。さらに、「ターメリックやニームオイルのプレップ(調合剤)は、海の水を使って作っています」とアーユルヴェーダ的なタッチを加えます。

2017年から2018年にかけては、接ぎ木によってフランスのジュラとかサヴォワ地区原産の15種類のブドウを植えました。植えた品種はモンデュース(Mondeuse)、サヴァニャン・ヴェール(Savagnin Vert)、サヴァニャン・ジョーヌ(Savganin Jaune)、プルサール(Poulsard)、アルテス(Altesse)、トゥルソー(Trousseau)、ガメイ・ノワール(Gamay Noir)など。また、サイダー用にハーフエーカーだけりんごも植えました。

ワインはすべて除梗なしで天然酵母を使って発酵、ニュートラルな樽で熟成します。SO2は添加しません。複数品種を使う場合は発酵時から混ぜて発酵する混醸をします。

要はいわゆる自然派、それもかなり徹底したものになっています。このフェラン・ファームのワインを10種類飲むワイン会に参加してきました。

裏側



裏側



裏側


ワインの資料は裏ラベルと、サイトに載っている資料があるのですが、実は一致していないところが結構あります。私はサイトに載っている方が正しい説(ラベルは1回印刷してしまうと修正するのが大変だから)を唱えているのですが、実際のところはどうなのでしょうね。

ということで、基本的にはサイトの資料をベースに説明および感想を書いていきます。

2020 サヴァニャン&シャルドネ。
サヴァニャンはフランスのジュラ地方の品種で「ヴァン・ジョーヌ」に使われていることで知られています。自然派らしいちょっと癖のある味わい。SO2なしですが、酸化のニュアンスは特に感じませんでした。ユニークな味わいですが、美味しいかといわれると難しいところ。実はこの時点でこの日はテイスティングノートを書くのをやめてしまいました。

2020 Misturado
2021 Misturado
Misturadoはスペインのガリシア地方にインスパイアされたメンシア(75%)とトゥルソー(25%)のブレンド。ワインの写真を撮っていませんが、実は2020年はかなり淡い色合いで、2021年はかなり濃くなっています。アルコール度数も2020は11.0%と低く、2021は12.5%となっています。品種比率は2021年のものを記していますが、2020年はトゥルソー比率がだいぶ高いのかもしれません。悪くはないですが、余韻や深みはあまりないというのが正直なところ。

また、裏ラベルによると2020年はサンタ・リタ・ヒルズのサンディで醸造されているようですが、2021年はSLOコーストのカンブリアにある「パー・ワインズ」で醸造されています。

2021 モンデュース
モンデュースはフランス、サヴォワ地方の品種。あまり記憶にありません。

2021 Leon
ジュラにインスパイアされたブレンドとのことで、トゥルソー、プルサード、ピンク・シャルドネ、サヴァニャン、シャルドネ、ピノ・ノワールが入っています。赤ちゃんの顔が印象的なラベル

2021 Autrement
サヴォワにインスパイアされたピノ・ノワールとガメイとモンデュースのブレンド。

最後は4種類の単一品種もの。いずれもヴィンテージは2021年。
2021 トゥルソー
2021 メンシア
2021 ガメイ・ノワール
2021 モンデュース

個人的にはこの中で一番可能性を感じたのはトゥルソーでした。チャーミングな味わいで酸がきれいに出ています。メンシアやモンデュース、ガメイ・ノワールはどういう味わいを表現したいのか、まだ中途半端な印象。これからヴィンテージを重ねていくと変わっていくのでしょうか。例えばサンディやドメーヌ・ド・ラ・コートのピノ・ノワールの味わい深さに達するのかというと、個人的にはちょっと疑問符がついてしまいます。とはいえジェイミー・グッドはかなりの高評価を与えているので、私の修業が足りないだけなのかもしれません(Rajat Parr Wines: Phelan Farm and Scythian Wine Company – wineanorak.com)。

ところで、この日のレストランは西馬込のイル・ド・コリンヌでした。これまで何度もうかがっていますが、この日のメニューはいつもとだいぶ違っていました。ワインに合わせて変えてくれたようです。