ホームレスから一流生産者に、ザ・ヴァイスのマレックさんに会ってきた
ナパのワイナリー「ザ・ヴァイス(The Vice)」の創設者でありワインメーカーであるマレック・アムラーニさんが来日し、ランチをご一緒させていただきました(余談ですが、彼のラストネームがアムラーニなのかアルマーニなのかアマローニなのかいつも忘れてしまいます。今回「アムラー」+「ニ」と覚えました)。ヴァイスの設立は2016年。まだ10年も経っていませんが、ナパでも大手の生産者の仲間入りをし、ナパヴァレー・ヴィントナーズのボードメンバーにも入っています。
マレックさんはモロッコの生まれ。父親がパイロットで幼少期から様々な国を旅行してきました(今まで行った国の数は65だそうです、ちなみにヴァイスのワインを輸出しているのは11カ国)。
彼の半生は驚くべきことばかりで「Vice Wine Company Founder Goes From Moroccan Street Dealer To Luxury Winemaker」に詳しくまとめられていますが、ここで簡単に記しておきます。
11歳で母親を亡くしてからは大麻の売買などに手を染めたこともありましたが、頭は良く16歳で高校を卒業して医学部に入学しました。しかし医学部は性に合わず、米国に行くことを考え、17歳でビザを取得してニューヨークに。そこから半年はホームレス生活をしていました。年齢を偽ってバーテンダーやウェイターをし、高級レストランのソムリエを経て酒販会社のセールス担当に上り詰めました。30歳になるまでに100万ドル以上の税金を払ったとのことです。
そこからワイン造りを始めることを考え、毎週末にニューヨークからナパに行く生活を続け、ナパで多くの生産者の知己を得ます。2013年からはニューヨークで少しずつワインを造りはじめます。そして2016年に本腰を入れてザ・ヴァイスを設立。ヴァイスとは「悪癖」のことであり、「自分を幸せにしてくれるのは自分の悪癖だ」ということから名付けたそうです。
ヴァイスは多種生産で、現在では60を超えるキュベを作っています。日本に輸入されているのも10種類以上あります。自身では畑を持たず、栽培家とのコネクションでブドウを調達しています。名前を出していませんが、驚くような畑のブドウが使われているワインもあります。
マレックさんとは関税の話などを含めていろいろとざっくばらんにお話ししてきましたが、ここでは飲んだワインを中心にお伝えします。

最初のワインはゲヴュルツトラミネールのオレンジワインです(5720円、税込み希望小売価格、以下同)。ヴァイスのワインは表ラベルは非常にシンプルなデザインのものが多く、裏ラベルに情報が載っていることがしばしばです。ですので、写真は表と裏の両方を載せています。
このオレンジワインは唯一残糖があるワインです。ヴァイスはナパでは唯一といっていいオレンジワインの生産者で(ほかにマサイアソンが少量作っていますが)、中でもこのゲビュルツのオレンジがヴァイスの中でも2番目に人気のあるワインで、特に若い世代に支持されているそうです。ゲヴュルツらしいライチの香りがあり、ほどよい甘みがスターターとしてぴったりです。オレンジワインとしては、フレッシュな味わいで中華前菜にもよく合いました。ちなみにゲヴュルツは、カーネロス産のものを使っていましたが、今はモントレーを中心にカーネロスとメンドシーノのブドウを少量使っているそうです。ラベルはカリフォルニア表記です。といっても実は表ラベルはポピーの絵が描かれているだけで、品種名も何も書いていません。ほとんどのコンシューマーはゲヴェルツトラミネールという品種名を知らないので、あえて情報は裏ラベルにしか入れていないとのことです。

次のワインはナパヴァレーのシャルドネです(7150円)。「エリース」という名前が付けられていますが、これはマレックさんの義理の母親の名前から取りました。彼女はシャルドネ好きでしたが、ここ15年ほど好きなシャルドネが見付からず、このシャルドネを作ったそうです。一番のポイントは100%フレンチオークの新樽で熟成していること。上品な樽の風味が高級感を与えてくれます。安いシャルドネはオークチップなどで香りを付けるので濃厚ですが、実際の新樽の上品さはでてきません。その代わり、樽のコストだけでワイン1本あたり4.5ドルにもなるそうです。マロラクティック発酵は30%に抑えており、フレッシュ感を残しているのもポイントで、バランスよく美味しいシャルドネです。私もシャルドネファンとして納得の1本となりました。
小籠包とエビのマヨネーズ炒め。

次のナパヴァレー・カベルネ・ソーヴィニヨンはヴァイスで一番生産量の多いワイン(7480円)。1万6000ケースほどを作っています。樽はアメリカン・オークとフレンチ・オークを半々。ブドウはカーネロス、クームズヴィルといった冷涼地域から、オークヴィル、セントヘレナのヴァレーフロア、そしてスプリング・マウンテン、アトラス・ピークといった山のブドウと6カ所から調達しています。
ワインの名前は「ザ・ハウス」。裏ラベルにはマレックさんの家から見える景色が描かれています。
まさに正統派のナパのカベルネ・ソーヴィニヨン。バランスもよく、ストラクチャーもあり、高級感も醸し出しています。

アルバリーニョのオレンジです(5720円)。アルバリーニョというと海のイメージがあると思いますが、これは逆でシエラネバダの山麓の畑のブドウを使っています。生産量少なく、ほとんど直販で売っているワインです。どちらかというと軽い味わいのことが多いアルバリーニョが醸しによって、花の香りなどが出てきてアロマティックなワインになってきています。バランスよく美味しい。実はこのワイン、凝った作りで半分はコンクリートエッグ、半分はステンレススチールタンクで醸造しておりステンレススチールの方だけ17日間醸しをしています。

次はオークヴィルのカベルネ・ソーヴィニヨン「99ヴァイセス」です(15950円)。オークヴィルの東側斜面の畑とのこと。オークヴィルは東も西もすごい畑ばかりですが、東といえばダラ・ヴァレやピーター・マイケル、ジョセフ・フェルプスのバッカスなど。弩級の畑が並ぶ地域です。正直に言って、ワインの品質的にも1万円台なら全然安いと思います。オークヴィルらしいリッチさとバランスの良さ、複雑さがあり素晴らしいカベルネ・ソーヴィニヨン。

次のワインは「ファイヴ・ピークス」というカベルネ・ソーヴィニヨン(19800円)。ナパには山のAVAが五つ(マウント・ヴィーダー、スプリング・マウンテン、ダイヤモンド・マウンテン、アトラス・ピーク、ハウエル・マウンテン)ありますが、これつの山のブドウをすべて使ったワイン。ナパ広しと言えども、五つの山のAVA全部を使ったワインはおそらくこれだけだろうとのことです。ボトルの横には標高も書いてあって面白い。実はこれも畑は聞けば「おー!」と思うようなところばかり。山らしいタンニンと深みがあります。長期熟成にも耐えられるワイン。
ちなみに、これは書いても大丈夫だと思いますが、スプリング・マウンテンは、先日廃業が発表されたニュートンのブドウを使っています。ヴァイスはニュートンのスプリング・マウンテンとヨントヴィルの畑のブドウを使う権利を得ているそうで、秀逸なブドウソースを手に入れたことになります。

最後はジンファンデル(9350円)。暖かいところで育つイメージが強いジンファンデルですが、これはナパで一番冷涼なカーネロスのジンファンデルを使っています。エレガントで美味しいジンファンデル。
マレックさん、ワインメーカーとして秀逸なワインを造っていますが、それだけでなく、ビジネスセンスがあり、様々な事象についてお話を伺えました。例えば関税の問題、ロー・アルコールやノー・アルコールのブームをどう考えるか、缶ワインは、マリファナは、などなど。話も面白く、さすが1代でここまでビジネスを広げてきただけのことはあると感じました。
ワイナリーの人に会うと、「ナパに来たらうちのワイナリーに寄ってね」と言われるのが普通ですが、彼の場合はそれだけでなく「声をかけてくれたら、ナパでどのワイナリーに行ったらいいかコンシェルジェをしてあげるよ」と言ってくれました。いろいろな栽培家とのコネクションもあることからの言葉かとは思いますが、そういった考えができるのも面白いと思いました。
セッティングいただいたオルカさん、ありがとうございました。

マレックさんはモロッコの生まれ。父親がパイロットで幼少期から様々な国を旅行してきました(今まで行った国の数は65だそうです、ちなみにヴァイスのワインを輸出しているのは11カ国)。
彼の半生は驚くべきことばかりで「Vice Wine Company Founder Goes From Moroccan Street Dealer To Luxury Winemaker」に詳しくまとめられていますが、ここで簡単に記しておきます。
11歳で母親を亡くしてからは大麻の売買などに手を染めたこともありましたが、頭は良く16歳で高校を卒業して医学部に入学しました。しかし医学部は性に合わず、米国に行くことを考え、17歳でビザを取得してニューヨークに。そこから半年はホームレス生活をしていました。年齢を偽ってバーテンダーやウェイターをし、高級レストランのソムリエを経て酒販会社のセールス担当に上り詰めました。30歳になるまでに100万ドル以上の税金を払ったとのことです。
そこからワイン造りを始めることを考え、毎週末にニューヨークからナパに行く生活を続け、ナパで多くの生産者の知己を得ます。2013年からはニューヨークで少しずつワインを造りはじめます。そして2016年に本腰を入れてザ・ヴァイスを設立。ヴァイスとは「悪癖」のことであり、「自分を幸せにしてくれるのは自分の悪癖だ」ということから名付けたそうです。
ヴァイスは多種生産で、現在では60を超えるキュベを作っています。日本に輸入されているのも10種類以上あります。自身では畑を持たず、栽培家とのコネクションでブドウを調達しています。名前を出していませんが、驚くような畑のブドウが使われているワインもあります。
マレックさんとは関税の話などを含めていろいろとざっくばらんにお話ししてきましたが、ここでは飲んだワインを中心にお伝えします。

最初のワインはゲヴュルツトラミネールのオレンジワインです(5720円、税込み希望小売価格、以下同)。ヴァイスのワインは表ラベルは非常にシンプルなデザインのものが多く、裏ラベルに情報が載っていることがしばしばです。ですので、写真は表と裏の両方を載せています。
このオレンジワインは唯一残糖があるワインです。ヴァイスはナパでは唯一といっていいオレンジワインの生産者で(ほかにマサイアソンが少量作っていますが)、中でもこのゲビュルツのオレンジがヴァイスの中でも2番目に人気のあるワインで、特に若い世代に支持されているそうです。ゲヴュルツらしいライチの香りがあり、ほどよい甘みがスターターとしてぴったりです。オレンジワインとしては、フレッシュな味わいで中華前菜にもよく合いました。ちなみにゲヴュルツは、カーネロス産のものを使っていましたが、今はモントレーを中心にカーネロスとメンドシーノのブドウを少量使っているそうです。ラベルはカリフォルニア表記です。といっても実は表ラベルはポピーの絵が描かれているだけで、品種名も何も書いていません。ほとんどのコンシューマーはゲヴェルツトラミネールという品種名を知らないので、あえて情報は裏ラベルにしか入れていないとのことです。

次のワインはナパヴァレーのシャルドネです(7150円)。「エリース」という名前が付けられていますが、これはマレックさんの義理の母親の名前から取りました。彼女はシャルドネ好きでしたが、ここ15年ほど好きなシャルドネが見付からず、このシャルドネを作ったそうです。一番のポイントは100%フレンチオークの新樽で熟成していること。上品な樽の風味が高級感を与えてくれます。安いシャルドネはオークチップなどで香りを付けるので濃厚ですが、実際の新樽の上品さはでてきません。その代わり、樽のコストだけでワイン1本あたり4.5ドルにもなるそうです。マロラクティック発酵は30%に抑えており、フレッシュ感を残しているのもポイントで、バランスよく美味しいシャルドネです。私もシャルドネファンとして納得の1本となりました。
小籠包とエビのマヨネーズ炒め。

次のナパヴァレー・カベルネ・ソーヴィニヨンはヴァイスで一番生産量の多いワイン(7480円)。1万6000ケースほどを作っています。樽はアメリカン・オークとフレンチ・オークを半々。ブドウはカーネロス、クームズヴィルといった冷涼地域から、オークヴィル、セントヘレナのヴァレーフロア、そしてスプリング・マウンテン、アトラス・ピークといった山のブドウと6カ所から調達しています。
ワインの名前は「ザ・ハウス」。裏ラベルにはマレックさんの家から見える景色が描かれています。
まさに正統派のナパのカベルネ・ソーヴィニヨン。バランスもよく、ストラクチャーもあり、高級感も醸し出しています。

アルバリーニョのオレンジです(5720円)。アルバリーニョというと海のイメージがあると思いますが、これは逆でシエラネバダの山麓の畑のブドウを使っています。生産量少なく、ほとんど直販で売っているワインです。どちらかというと軽い味わいのことが多いアルバリーニョが醸しによって、花の香りなどが出てきてアロマティックなワインになってきています。バランスよく美味しい。実はこのワイン、凝った作りで半分はコンクリートエッグ、半分はステンレススチールタンクで醸造しておりステンレススチールの方だけ17日間醸しをしています。

次はオークヴィルのカベルネ・ソーヴィニヨン「99ヴァイセス」です(15950円)。オークヴィルの東側斜面の畑とのこと。オークヴィルは東も西もすごい畑ばかりですが、東といえばダラ・ヴァレやピーター・マイケル、ジョセフ・フェルプスのバッカスなど。弩級の畑が並ぶ地域です。正直に言って、ワインの品質的にも1万円台なら全然安いと思います。オークヴィルらしいリッチさとバランスの良さ、複雑さがあり素晴らしいカベルネ・ソーヴィニヨン。

次のワインは「ファイヴ・ピークス」というカベルネ・ソーヴィニヨン(19800円)。ナパには山のAVAが五つ(マウント・ヴィーダー、スプリング・マウンテン、ダイヤモンド・マウンテン、アトラス・ピーク、ハウエル・マウンテン)ありますが、これつの山のブドウをすべて使ったワイン。ナパ広しと言えども、五つの山のAVA全部を使ったワインはおそらくこれだけだろうとのことです。ボトルの横には標高も書いてあって面白い。実はこれも畑は聞けば「おー!」と思うようなところばかり。山らしいタンニンと深みがあります。長期熟成にも耐えられるワイン。
ちなみに、これは書いても大丈夫だと思いますが、スプリング・マウンテンは、先日廃業が発表されたニュートンのブドウを使っています。ヴァイスはニュートンのスプリング・マウンテンとヨントヴィルの畑のブドウを使う権利を得ているそうで、秀逸なブドウソースを手に入れたことになります。

最後はジンファンデル(9350円)。暖かいところで育つイメージが強いジンファンデルですが、これはナパで一番冷涼なカーネロスのジンファンデルを使っています。エレガントで美味しいジンファンデル。
マレックさん、ワインメーカーとして秀逸なワインを造っていますが、それだけでなく、ビジネスセンスがあり、様々な事象についてお話を伺えました。例えば関税の問題、ロー・アルコールやノー・アルコールのブームをどう考えるか、缶ワインは、マリファナは、などなど。話も面白く、さすが1代でここまでビジネスを広げてきただけのことはあると感じました。
ワイナリーの人に会うと、「ナパに来たらうちのワイナリーに寄ってね」と言われるのが普通ですが、彼の場合はそれだけでなく「声をかけてくれたら、ナパでどのワイナリーに行ったらいいかコンシェルジェをしてあげるよ」と言ってくれました。いろいろな栽培家とのコネクションもあることからの言葉かとは思いますが、そういった考えができるのも面白いと思いました。
セッティングいただいたオルカさん、ありがとうございました。
