シルヴァー・オークの3ブランド、新ヴィンテージの実力は?
ナパの大人気ワイナリー「シルヴァー・オーク(Silver Oak)」から創設者の息子で現CEOのデイビッド・ダンカンさんが初来日し、新ヴィンテージなどの試飲セミナーを開きました。「ファミリーの作ったワインを共有できてうれしい」とダンカン氏。
シルヴァー・オークは1972年創設、ナパヴァレーとソノマのアレキサンダー・ヴァレーの二つのカベルネ・ソーヴィニョンに注力し「Life is a Cabernet!」のスローガンでも知られています。創設者の故レイ・ダンカンには4人の息子がおり、共同で所有していますが、デイビッドは実は一番年下です。
1999年に、カベルネ・ソーヴィニョン以外の品種にチャレンジするためにTwomey Cellarsを設立。Twomeyというのは、デイビッドの祖母の旧姓から取った名前です。
デイビッドはシルヴァー・オークのフィロソフィーについても語りました。第1のフィロソフィーはエクセレンス。最上のものを作ることを目的とし大量生産ではないワインを作ります。
第2のフィロソフィーはサスティナビリティ。畑における環境保護やワイナリーにおける電力や水などの節約はもちろんのこと、そこで働く人がサスティナビリティにコミットしていることが大事だといいます。
そして3番目のフィロソフィーは信頼。信頼のあるワインを作り続けたいといいます。重要なのは「まだ最高のワインを作っていない。もっとよくしていけるはずだ」と信じ、畑や醸造など高みにのぼれるようにがんばっているとのことです。
ワインは、自分の大切な人とおいしい食事をシェアしたり、お祝いをしたりといった特別な瞬間のためにある。その素敵な瞬間をいいものにするためにいいワインを作ろうとしている。評論家のスコアのような特定の一人の意見で評価されるのではなく、みんなに喜ばれるワインを作りたいと語りました。
試飲に移ります。
Twomeyからはソーヴィニヨン・ブラン 2022とピノ・ノワールが2種類。 アレキサンダー・ヴァレー 2020とロシアン・リバー・ヴァレー2020です。Twomeyはソノマのロシアン・リバー・ヴァレー、メンドシーノ、そしてオレゴンと3つのワイナリーを保持しています。それぞれワインメーカーも別になっています。アレキサンダー・ヴァレーのワイナリーは2019年にできた新しいものです。なお、Twomeyの最初のワインはメルローでしたが、現在はメルローはラインアップから外れています。
ソーヴィニヨン・ブラン 2022はナパとソノマの2つずつの自社畑のブドウを中心に作っています。ハーヴの香りや黄色い花の香、ピーチ、アーモンドなどがあり豊かな酸と厚みのある味わいが楽しめます、
醸造ではステンレスタンクのほか、ステンレスの樽、オークの旧樽を使っています。ステンレスのタンクはやわらかな口当たり、ステンレスタンクは酸の豊かさに貢献しています。
Twomeyピノ・ノワール アレキサンダー・ヴァレー2020は、腐葉土やマッシュルームといった熟成系の風味や、ザクロなど赤系の果実にちょっとブラックベリーなど黒系のダークな果実味が混じります。甘草のような甘やかさもあり、口当たりがやわらかです。酸はやや高め、複雑味があります。
Twomeyピノ・ノワール ロシアン・リバー・ヴァレー2020は、より果実味が豊かでカリフォルニアの太陽を感じるワイン。ラズベリー、カシス、ベーキングスパイスなどの風味。アレキサンダー・ヴァレーと比べ、なめらかで落ち着いた酸味があります。
ちなみにどちらも100%除梗で作られています。年によっては10数パーセント除梗する場合もあるとのこと。
Twomeyの次は、グループの中でも新しいワイナリーであるタイムレス(Timeless)です。シルヴァー・オークはナパ市の東側のソーダ・キャニオンと呼ばれるエリアに113エーカーという大きな畑を持っています(AVAはナパヴァレーになります)。シルヴァー・オークのナパヴァレーではこの畑のブドウに、契約栽培家のブドウなどを加えて醸造していますが、もっとこの畑のテロワールを表現するワインを作りたいとして始めたのがTimelessです。2017年が最初のヴィンテージです。シルヴァー・オークが1万ケースを超えるくらいの量を作っているのに対し、Timelessは2000ケース程度と少量です。
ちなみに、Timelessという名前はデイビッドが父親のレイ・ダンカン(創設者)のために作った曲の名前だそうです。2015年の誕生日(奇しくもデイビッドもレイも同じ10/23生まれでした)に披露するつもりだったのが、誕生日の2週間前に亡くなってしまい、この曲にちなんだワインを作ることにしたそうです。
Timelessではボルドー系の品種カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、カベルネ・フラン、プティヴェルドをブレンドします。その年を表現するロットを選ぶのですが、今回試飲した2019と2020はどちらもメルローが半分くらい使っているそうです(ブレンド比率は公表されていません)。2023年は2/3くらいカベルネ・ソーヴィニョンになりそうとのことでした。
ちなみに、シルヴァー・オークはアメリカン・オークの樽だけを使うことで知られており、ミズーリ州に樽のメーカーを持っているくらい力を入れていますが、Timelessではフレンチオークを使っています。
試飲に移ります。
Timeless2020は赤果実に青果実の風味。腐葉土。コンポートのような甘やかさ。しっかりしたタンニンがありパワフル、余韻の長いワインです。
Timeless2019は2020よりもタンニンが強く、よりパワフルです。赤果実にカシス、花の香がありますが、2020よりもちょっと閉じているように感じました。
最後にシルヴァー・オークの試飲です。シルヴァー・オークの2014年からのワインメーカーはネイト・ワイズという人。50年の歴史の中で3代目のワインメーカーという、長期間務めるのも特徴です。
シルヴァー・オークの試飲では、現行ヴィンテージに加えて2012年という約10年たったヴィンテージも合わせて試飲しました。
シルヴァー・オーク アレキサンダー・ヴァレー カベルネ・ソーヴィニョン 2019は腐葉土や杉、ココナツ、ザクロ、ブルーベリーなどの風味。酸が比較的高く、柔らかさとしなやかさがあります。
シルヴァー・オーク アレキサンダー・ヴァレー カベルネ・ソーヴィニョン 2012はマッシュルーム、杉、甘草。まだタンニン強くパワフルなワイン、
シルヴァー・オーク ナパヴァレー カベルネ・ソーヴィニョン 2018はやや固さを感じます。黒鉛、カシス、ブラックベリー、ココナツ。タニックですがバランスいいワイン。
シルヴァー・オーク ナパヴァレー カベルネ・ソーヴィニョン 2012はまだまだ芳醇な果実味が残っています。それに加えてマッシュルーム、杉、アニス、甘草などの風味が感じられます。複雑さがあり美味しい。
ところで、シルヴァー・オークのナパヴァレーはこの2018年からラベル・デザインを変更しました。これまではボトルにエッチングを施したものだったのを、通常の紙のラベルに変更したのです。これまでのエッチングは、カナダのメーカーにボトルを送って作ってもらっていたのですが、ボトルの運搬やエッチングなどサスティナブルではないと判断したのが理由です。
質疑応答では、アルコール度数が高いのにバランスが悪くないのはどうしてか、といった質問がありました。デイビッド・ダンカン氏によると、それは収穫のタイミングを見極めて収穫しているからだろうとのことです。最適なタイミングは24時間くらいしかなく、そこで収穫をするのが大事。そのため、ナパでは自社の収穫部隊がいて、多くの畑で最適なタイミングで収穫しています。各地に畑があるため1日200マイルも移動することがあるとのことです。
最後に感想をまとめます。
Twomeyは、堅実にいいワインをいつも作っているのが印象的です。特にソーヴィニヨン・ブランは個人的にも好きなワインの一つで、きれいな酸に加えて果実の厚みが感じられ宇ところがカリフォルニアらしいと思います。
Timelessはまだ4ヴィンテージめということで、シルヴァー・オークのような確固としたスタイルを築くところまでは行っていないような気がしますが、志があるワインなので、まだまだ良くなっていくだろうと思います。難しいヴィンテージと言われる2020年も、みじんもネガティブさを感じませんでした。
シルヴァー・オークは、これまで何回飲んだかわからないくらい飲んでいますが、いつ飲んでも安定した味わいがさすがです。シルヴァー・オークらしさを持ちつつ、改善を怠らない姿勢にも感銘を受けます。やはりナパのリーダー的ワイナリーの一つだと言えます。
貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました。
あと、シルヴァー・オークにはOvidというワイナリーもあります。これは買い取ったワイナリーで一から育てた他のブランドとは位置づけが違うのでしょうけど、個人的にはそちらも試飲できるとうれしいです(と書いておこう)。特にOvidにはHexameterというカベルネ・フランの名作がありますから、私のあこがれのブランドの一つです。