カリフォルニアの生産者が欧州ワインへの関税が必要だと考える理由
カリフォルニアのローダイの生産者団体が、欧州ワインに対して関税が必要だとする記事を公開しています(WHY MANY CALIFORNIA WINEGROWERS ARE CALLING FOR TARIFFS ON IMPORTS)。
それと関連する、2024年に公開された記事(WINE DUTY DRAWBACK – ANOTHER DIRTY SECRET!)の内容を含めて紹介します。
ローダイなどカリフォルニアのセントラルヴァレーは、ワインの需要減少の直撃を受けています。過去2年間でカリフォルニア全体で60万~80万トンのブドウが収穫されないままになってしまいました。その大半がセントラルヴァレーです。カリフォルニアのワイン用ブドウ栽培農家の8割は独立系(特定の生産者との契約に依存しないこと)であり、セントラルヴァレーでは9割に達します。
ガロやブロンコなど、安価なワインを大量に作る生産者がこれらの農家にとってのバイヤーになるわけですが、近年は海外、特に欧州から安くワインを輸入するケースが多くなっています。この構造を変えるには関税が必要だというのが上記記事の骨子になります。
では、それら大手のワイナリーはなぜ欧州から安いバルクワインを調達するのかというと、そこには2つの理由があります。
その一つが、冒頭に挙げた2つ目の記事に書かれた関税と酒税をキックバックする制度です。これは欧州側ではなく米国側の制度による問題です。
米国の生産者は、海外にワインを輸出し、並行して海外からワインを輸入したとき、輸入したワインに支払われた関税と酒税分のキックバックを得られます。例えばあるワイナリーがオーストラリア産シャルドネを100万ガロン輸入し、カリフォルニア産白ワインを100万ガロン輸出した場合、輸入シャルドネに支払われた関税と物品税(酒税)の最大99%をキックバックされます。これによって輸入ワインを税金ゼロとして販売できるため、相対的にカリフォルニアワインの競争力はなくなり、栽培農家からの購入が減るわけです。そういえばフランジアなど、昔はカリフォルニアだけだったのが、今は他国のワインを使ったものが増えています。そこにはこういう理由があったわけですね。

この制度ができたのは2003年で、それ以降バルクワインの輸入が急増しているのが分かります。過去5年を見ても13億本のワインが輸入されています。

各社はいくらのキックバックを得ているのか公開していませんが、輸入量と輸出量を勘案すると、大手7社で2016年から2022年に1億7400万ドルのキックバックを得た計算になります。米国全体で実際にキックバックした額は2憶4000万ドル程度であり、この制度の恩恵を受ける大半は大手ワイナリーであることがわかります。
実は、カリフォルニアワイン協会もこの制度に対しては反対を唱えていません。ワインの輸出を促進するというのがその理由ですが、実際には輸出よりも輸入を促進しているというのがローダイの主張です。
もう一つの理由は欧州側にあります。多額の補助金によって、ワイナリーや栽培農家が恩恵を受けているということです。EUによるワイン産業の支援は年間10億ユーロ(11億3000万米ドル)以上、加盟国や地方自治体がプラスする額を含めると年間推定20億ユーロ(22億6000万米ドル)に達します。
これらの補助金は大きく分けると3つの形で使われます。一つがブドウの買い取り。余ったブドウを買い取って工業用アルコールの製造に使います。この買い取りがあるため、栽培農家にとっては栽培を減らすモチベーションがありません。
二つ目はブドウの引き抜き。フランス政府は1億2000万ユーロを拠出し、生産者に1ヘクタールあたり4000ユーロを支払い、約3万ヘクタールのブドウ畑(国のブドウ畑面積の約3.4%に相当)を撤去させました。これは長期的な生産調整を目的としていますが、2029年には植え替え禁止期間を過ぎるので、一時的な対策に終わる可能性もあります。
三つ目はブドウ畑の植樹への支援。EUは新規ブドウ畑の植樹支援に年間5億ユーロ以上を支出しています。地域によって異なりますが、ブドウ畑の開発費用の50%から75%が補助されます。これは、より生産性の高い畑への移行を促しているという面がありますが、その結果として、ブドウ畑の面積は減って行っていても、ブドウの生産量自体はほとんど変化しないということになっています。この制度は2045年まで続くことになっています。
結局、買い取りがあるため、農家にとっては生産量を減らすモチベーションは少なく、補助金などによって畑は減っても生産量は変わらないという図式が今後も続くことになります。

これ以外に、EUはマーケティング的にも支援を行っています。
例えば、ワイン・スペクテイターの4月30日号には、EUとイタリア政府の資金援助による全面広告が15件、部分ページ広告が3件掲載されています。この広告料は50万ドル以上になります。対照的に、米国のワイナリーによる全面広告は1件のみでした。この号ではイタリアワインが広範囲に取り上げられています。
このように欧州ワインは様々な恩恵をEUや各国政府から得ており、さらに前述のように大手ワイナリーが輸入するワインでは税金も実質的に免除になっています。このような構図を突き崩さないことにはカリフォルニアのセントラルヴァレーの栽培農家にとっては、非常に厳しい状況が続くことになります。輸入ワインに関税が必要だと、ローダイの団体が主張するのはそのためです。
この構図自体は今始まったわけではありませんが、2020年頃までは米国内の需要が伸びていたので、大きな問題になっていなかったのでしょう。ただ、関税を上げたとしても、その分がまたキックバックされてしまうのであれば意味がないので、本当に米国内のブドウ栽培農家を守りたいのであれば、まずは自国のキックバックの制度を何とかするのが先決ではないかという気もします。
こういった低価格ワイン周りの情報は日本に来る生産者(ほとんどがプレミアム)からは聞けない話なので、勉強になりましたし、考えさせられるものでした。
それと関連する、2024年に公開された記事(WINE DUTY DRAWBACK – ANOTHER DIRTY SECRET!)の内容を含めて紹介します。
ローダイなどカリフォルニアのセントラルヴァレーは、ワインの需要減少の直撃を受けています。過去2年間でカリフォルニア全体で60万~80万トンのブドウが収穫されないままになってしまいました。その大半がセントラルヴァレーです。カリフォルニアのワイン用ブドウ栽培農家の8割は独立系(特定の生産者との契約に依存しないこと)であり、セントラルヴァレーでは9割に達します。
ガロやブロンコなど、安価なワインを大量に作る生産者がこれらの農家にとってのバイヤーになるわけですが、近年は海外、特に欧州から安くワインを輸入するケースが多くなっています。この構造を変えるには関税が必要だというのが上記記事の骨子になります。
では、それら大手のワイナリーはなぜ欧州から安いバルクワインを調達するのかというと、そこには2つの理由があります。
その一つが、冒頭に挙げた2つ目の記事に書かれた関税と酒税をキックバックする制度です。これは欧州側ではなく米国側の制度による問題です。
米国の生産者は、海外にワインを輸出し、並行して海外からワインを輸入したとき、輸入したワインに支払われた関税と酒税分のキックバックを得られます。例えばあるワイナリーがオーストラリア産シャルドネを100万ガロン輸入し、カリフォルニア産白ワインを100万ガロン輸出した場合、輸入シャルドネに支払われた関税と物品税(酒税)の最大99%をキックバックされます。これによって輸入ワインを税金ゼロとして販売できるため、相対的にカリフォルニアワインの競争力はなくなり、栽培農家からの購入が減るわけです。そういえばフランジアなど、昔はカリフォルニアだけだったのが、今は他国のワインを使ったものが増えています。そこにはこういう理由があったわけですね。

この制度ができたのは2003年で、それ以降バルクワインの輸入が急増しているのが分かります。過去5年を見ても13億本のワインが輸入されています。

各社はいくらのキックバックを得ているのか公開していませんが、輸入量と輸出量を勘案すると、大手7社で2016年から2022年に1億7400万ドルのキックバックを得た計算になります。米国全体で実際にキックバックした額は2憶4000万ドル程度であり、この制度の恩恵を受ける大半は大手ワイナリーであることがわかります。
実は、カリフォルニアワイン協会もこの制度に対しては反対を唱えていません。ワインの輸出を促進するというのがその理由ですが、実際には輸出よりも輸入を促進しているというのがローダイの主張です。
もう一つの理由は欧州側にあります。多額の補助金によって、ワイナリーや栽培農家が恩恵を受けているということです。EUによるワイン産業の支援は年間10億ユーロ(11億3000万米ドル)以上、加盟国や地方自治体がプラスする額を含めると年間推定20億ユーロ(22億6000万米ドル)に達します。
これらの補助金は大きく分けると3つの形で使われます。一つがブドウの買い取り。余ったブドウを買い取って工業用アルコールの製造に使います。この買い取りがあるため、栽培農家にとっては栽培を減らすモチベーションがありません。
二つ目はブドウの引き抜き。フランス政府は1億2000万ユーロを拠出し、生産者に1ヘクタールあたり4000ユーロを支払い、約3万ヘクタールのブドウ畑(国のブドウ畑面積の約3.4%に相当)を撤去させました。これは長期的な生産調整を目的としていますが、2029年には植え替え禁止期間を過ぎるので、一時的な対策に終わる可能性もあります。
三つ目はブドウ畑の植樹への支援。EUは新規ブドウ畑の植樹支援に年間5億ユーロ以上を支出しています。地域によって異なりますが、ブドウ畑の開発費用の50%から75%が補助されます。これは、より生産性の高い畑への移行を促しているという面がありますが、その結果として、ブドウ畑の面積は減って行っていても、ブドウの生産量自体はほとんど変化しないということになっています。この制度は2045年まで続くことになっています。
結局、買い取りがあるため、農家にとっては生産量を減らすモチベーションは少なく、補助金などによって畑は減っても生産量は変わらないという図式が今後も続くことになります。

これ以外に、EUはマーケティング的にも支援を行っています。
例えば、ワイン・スペクテイターの4月30日号には、EUとイタリア政府の資金援助による全面広告が15件、部分ページ広告が3件掲載されています。この広告料は50万ドル以上になります。対照的に、米国のワイナリーによる全面広告は1件のみでした。この号ではイタリアワインが広範囲に取り上げられています。
このように欧州ワインは様々な恩恵をEUや各国政府から得ており、さらに前述のように大手ワイナリーが輸入するワインでは税金も実質的に免除になっています。このような構図を突き崩さないことにはカリフォルニアのセントラルヴァレーの栽培農家にとっては、非常に厳しい状況が続くことになります。輸入ワインに関税が必要だと、ローダイの団体が主張するのはそのためです。
この構図自体は今始まったわけではありませんが、2020年頃までは米国内の需要が伸びていたので、大きな問題になっていなかったのでしょう。ただ、関税を上げたとしても、その分がまたキックバックされてしまうのであれば意味がないので、本当に米国内のブドウ栽培農家を守りたいのであれば、まずは自国のキックバックの制度を何とかするのが先決ではないかという気もします。
こういった低価格ワイン周りの情報は日本に来る生産者(ほとんどがプレミアム)からは聞けない話なので、勉強になりましたし、考えさせられるものでした。