ロンバウアー、クラシックなナパのワインに田崎ソムリエが選んだ和食のペアリングは?
ナパのロンバウアーといえば、「樽の効いたシャルドネ」の代表格としてあまりにも有名なワイナリーです。「古き良き」という言葉が似あうクラシックで果実味を生かしたスタイルを堅実に守り続けています。今回、2008年からヘッド・ワインメーカーを務めているリッチー・アレン氏が来日し、テイスティング・セミナーが開催されました。今回のセミナーがユニークなのは、料理とのペアリングもあることで、しかもそのメニューは田崎真也ソムリエ協会前会長が考えたもの。セミナーでも田崎さんがメニューを選んだ理由やワインのテイスティングを直々に語ってくれるという貴重なものでした。
ちなみに、ロンバウアーの創設者コーナー・ロンバウアーの大叔母は『Joy of Cooking(料理の喜び)』というアメリカの家庭料理の有名本の著者であるイルマ・ロンバウアー。実はロンバウアーにとって料理とのペアリングは常に重要なテーマになっているのです。
テイスティングの最初のワインはソーヴィニヨン・ブラン2024です。ソノマのブドウを85%、ナパを15%使っています。夜間に手摘み収穫して、房ごとプレス。清澄度の高い果汁を使います。発酵・醸造にはフレンチオークの中古の樽10%、コンクリートが1~5%、残りがステンレスタンクを使います。10~11℃という低温で長い時間かけて発酵し、果実のアロマを残します。
田崎真也氏は、このワインから「かぼす」を思わせる和のグリーンな印象と、樽由来のイーストが混じり合った「ビスケット」の芳香を嗅ぎ取り、次のように分析しています。 「ニュージーランド産よりもボルドーの品格を備えつつ、よりフルーツの印象が高い。極めてバランスの良い酸が、直線的な力強さと果実の甘みを支えている」
リッチー・アレン氏は「これは、一口飲むだけで眠っていた味覚が鮮やかに目覚めるようなワインなのです」 と語っています。
私の印象は、果実のふくよかさがあり柔らかな味わい。ライムやグアバ、アプリコット。青っぽさはありません。テクスチャーがしっかりしています。一方で酸が下支えしていてしっかりバランスを取っています。カリフォルニアのソーヴィニヨン・ブランの中でも果実味が充実していることではかなり上になると思います。
合わせる料理は「富士の介のタルタル(大葉・柚子風味)」。富士の介はキングサーモンとニジマスを交配させて作った山梨の品種です。
ややボディのある富士の介の味わいは、果実味豊かなソーヴィニヨン・ブランと合っています。田崎さんによると「料理がちょっとリッチ感に負けているので、クリームチーズを切ったものを少し加えるとより近づいたのではないか。松の実や煎った白ごまを合わせると、樽の印象により近づくかもしれない」とのことでした。なお、田崎さんはテクニカル情報からメニューを考えたので、実際に試飲するのはこのときが初めてでした。
2番目のワインはシャルドネ2024です。冒頭に書いたようにロンバウアーの「看板」商品。カーネロスの自社畑と長期契約の畑からのブドウを使っています。
サンパブロ湾からの冷気が夜間の気温を28℃から10℃まで急降下させるカーネロス。ブドウが完璧なフレーバーと酸の均衡に達する「ピッキング・ウィンドウ(最適な収穫時期)」は極めて短く、わずか10日ほど。同社は160もの区画を個別に管理し、リッチー氏自らがブドウを味わい、収穫のタイミングを決定します。
収穫後は全房のままプレスし、果汁は1日置いてから樽に入れて発酵を始めます。発酵は6~8週間とゆっくり進みます。1週間から10日に1回バトナージュをします。MLFもゆっくり進み、9か月後にブレンドします。
ユニークなのは樽の構成で、アメリカンオークとフレンチオークの樽を使っています(新樽37%)。シャルドネでアメリカンオークを使うところは高級ワインでは珍しいと思います。ちなみに、赤ワインではカベルネ・ソーヴィニョンはフレンチオークのみ、ジンファンデルではアメリカンオークとフレンチオークを使っています。
リッチー・アレンさんにアメリカンオークを使う理由を聞いたところ、樽香というよりもテクスチャーが大事なようです。シャルドネにはミズーリ州のごく一部だけで取れる特別なアメリカンオークを使っているとのこと。ジンファンデルのアメリカンオークの樽とは産地が違います。このシャルドネのアメリカンオークの樽は、アメリカンオークによくあるとげとげしさが出ず、なめらかなテクスチャーを生み出すのだそうです。
味わいは熟した黄桃やブリオッシュ、さらにはバニラの薫香が重なります。わずかにバター感もあります。田崎さんは「酸とのバランスが完成度を高めている。黄色の熟したフルーツ、MLFによるカスタードクリームの印象にフルーツがスイーツのように
木樽のローストも絶妙でティラミスのような印象。リッチ感が持続した後で、最後にフレッシュ感。複雑性が続く」と表現しました。
合わせた料理は「真鯛の西京味噌漬け焼き」。
田崎さんによると、MLFしているワインに合わせて、同じく乳酸発酵している味噌を使ったとのこと。テクスチャーにクリーム感を与えています。また付け合わせのほうれん草はムニエルに使う焦がしバター(ブール・ノワゼット)をかけて炒めています。魚はあっさりとした鯛よりも、のどぐろの方が良かったかもしれないとのことでした。
確かに、ワインにボリューム感があるので、鯛はちょっと負けている感じもありました。ほうれん草はバターの風味と相まっておいしくワインとも相性が良かったです。
次のワインはナパヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨン2021です。セント・ヘレナ、カリストガ、スタッグス・リープ・ディストリクト、アトラスピークなど、ナパ各地のブドウをブレンドしています。
光学的選果で完熟した実だけを選んだあと、低温浸漬で色と風味を出し、樽とタンクを組み合わせて発酵させます。発酵後はバスケットプレスで優しくプレスして熟成に回します。
カシスやバニラ、甘草、スパイス、ローズマリー。リッチで強いワイン。クリーミーなテクスチャーで、タンニンが非常にこなれています。
田崎さんは「非常にピュアな果実の印象。リッチだけどタンニンが滑らかで、よくシルキーと言いますがそれを超えてビロード的な滑らかさです。ブラックチェリー、カシス、スミレ、クローブ、ナツメグ、葉巻のボックス、ローズマリーなど灌木の樹皮が感じられます」とコメントしています。
合わせた料理は「牛ロース肉の照り焼き 山椒風味」。牛ロースは一口では食べられないほど、かなり大きめのカットで、照り焼き風味のソースを上からかけています。日本酒、酒、みりん1対1に砂糖を加える一般的な照り焼きのタレだと甘さが強く、ワインの丸みやリッチ感が消されて苦みや酸味がネガティブに広がってしまいます。そこで今回は照り焼きのタレに赤ワインを煮詰めたものを加えて酸をそれに赤ワインを煮詰めたものを加えて、感覚的な甘みを下げています。さらにカベルネ・ソーヴィニョンのスパイス感や樹脂の印象に合わせて、日本の山椒でフレーバーを付けています。
先日、ごぼうのリゾットに山椒をかけたものとピノ・ノワールを合わせたのがとても合っていたのですが、カベルネと山椒も合いますね。ワインのボリューム感と肉のボリューム感もよく合っていました。間違いのない組み合わせです。
最後のワインはジンファンデル。シエラフットヒルズのブドウを85%使っており、3分の1は1890年代から続く自根・無灌漑の古木です。リッチー・アレンさんはオーストラリアの出身で、シラーズの経験があったことから、最初はシラーズのように「ヘビーハンデッド(重厚な抽出)」で作ればいいのかと思いこんだそうです。シラーズはアグレッシブに扱っても大丈夫なブドウなのですが、果皮が薄くデリケートなジンファンデルには合わず、今は抽出を穏やかに管理する「ライトタッチ」な醸造を徹底しています。新樽比率をわずか10%に抑え、アメリカンオーク中心の古いオーク樽を中心に熟成させています。
実はアルコール度数は15.9%もあります。そのため、やはり全体的なボリューム感はかなりあります。甘やかな香り、甘草、プラム、ブルーベリーのジャム、バニラの風味。古木からの酸味が高いレベルで全体のバランスを取ります。クラシックなジンファンデルのスタイルをきれいに仕上げた印象です。
田崎さんは「酸がしっかりあってバランス良く成熟している。黒系果実と赤系果実の両方を感じられる。ブラックペッパーはなく、ベルガモットを含むアイスティーのような香り。アメリカンオークのココナッツの香りはリオハのワインやシラーズに共通する。アメリカンオークが合う品種は多くないがジンファンデルはまさにその一つ。樽から来るビターチョコや苦みにカカオのフレーバー。ポテンシャルの高いジンファンデルに沿ったスタイルだと思います」とコメントしています。
合わせた料理は「ウナギのマトロート 八丁味噌風味」。マトロートというのは魚を赤ワインで煮込んだフランスの伝統的料理です。今回は八丁味噌を使うことで和風にしたてています。
シャルドネに合わせた白みそは白ワインに合いますが、赤ワインにはうまみが強く、苦みも感じる八丁味噌が合うとのこと。ワインの特徴を聞いて、当初考えていたよりも全体に味付けを強くしたとのことでした。
リッチー・アレンさん、うなぎはほとんど食べたことがなかったそうですが、今回の来日では何回かうなぎを食べて、赤ワインに合うことに驚いたそうです。とても感動したので、カリフォルニアでも食べたいと思っているそうですが、まずはこのように調理するシェフを探さないとと言っていました。
まあ、牛肉に引き続き、これも間違いのない組み合わせですね。大変おいしく、ワインにも合っていました。
ロンバウアー、クラシックなイメージを裏切らない、ナパらしい果実味の豊かさを持ったワインを造っています。一方で、オプティカル・ソーターの導入や25種類もの樽を使い分けること、優しい抽出のためのバスケットプレスなど、醸造面は進化していますし、栽培でもNapa GreenやFish Friendly Farmingといったサスティナブル認証を取得するなど、改善・改良を続けています。コルクは全品TCAのチェックをしています。伝統に甘んじず、ただ出来上がったワインはイメージを裏切らない、ナパの中でも安心して飲めるワインの一つです。
こういったアメリカンスタイルのワインは和食には合わないと短絡的に考えがちですが、調理法を少し工夫するだけで、見事なペアリングになる。田崎さんのメニューからもそういった学びがありました。