先日「オーガニックなカリフォルニアワインは統計的には有意においしいことが判明」という記事を公開しました。

この元になるUCLAの研究は、あくまで各誌の評価とオーガニックかどうかということを統計的に処理して、相関関係があるとしたもので、それ自体は、全く正しい結果なのだと思います。

ただし、これをもってオーガニックなワインだからおいしいと結論はできません。

前の記事ではそのあたりのニュアンスも含めて、あえてタイトルに「統計的には」と入れたのですが、説明足らずだったという反省もあります。

また、この記事を発端とした、さまざまな意見も読み、個人的にもあらためていろいろと考えさせられました。

というわけで、うまくまとまらないのですが、このことについてもう一度考えてみたいと思っています。

まず、元記事についてですが、統計はあくまで2つの事象に数学的に関連があるかどうかを見るだけであって、因果関係があるかどうかは別の問題です。

例えば、体重と年収の相関を調べたら、体重の重い人の方が年収が上という結果が出るかもしれません。しかし、これをもって体重を増やせば年収が上がるかというと、そういう結論は出せません。もしかしたら、加齢によって体重が増えることと、年が上の方が給料が上がることによってそういった相関が現れたのかもしれません。

オーガニックのワインについても、例えばオーガニックのワインの方が高価なものが多く、それで美味しいものが多いのかもしれません。

因果関係を言うためには、他の条件をそろえた上でオーガニックと従来農法のワインを作り、それを比べてどちらがいいのかを見ないといけず、統計だけで結論づけるのは危険です。

実は、元記事の後追い記事として、UCLAの論文をさらに調べてみたら、Wine Advocate誌の方がWine SpectatorやWine Enthusiastよりも点が高く、それをもって「Wine Advocateはカリフォルニアワインに甘い点を付ける」というものがありました。これなんかもまさに、統計にだまされているわけで、Wine Advocate誌の方がWine Spectatorよりもカバー範囲が狭く、ハイエンドのワインに偏っていることが、その原因になっている可能性が大です。本当にWine Advocate誌の方が高い点を付けているかどうかは、同じ対象ワインで調べないと意味がありません。

では、それはそれとして、オーガニックなワインは本当においしいのでしょうか。

オーガニックで栽培されている畑(Ovid)

カリフォルニアではオーガニックにマイナスのイメージがあるという記事も以前ありました(ナパのワイナリーが「有機栽培」や「ビオディナミ」といった言葉を避ける理由)。

ただ単に、農薬を減らしたり、酸化防止剤の使用を減らしたりするだけなら、ブドウの品質やワインの品質は下がりこそすれ、上がることはないでしょう。

逆に言うと、現在オーガニックでブドウを作っているところは、お金も手間もかけているはずです。また、ブドウの収量はおそらく減りますから、ワイン1本あたりのコストはさらに上がる可能性が高いです。

結果として、ワインの値段も上がる可能性が高いでしょう。それでもオーガニックにするメリットがあると判断したワイナリーだけがオーガニックにしていると考えることもできるでしょう。

したがって、現在オーガニックだとして売られているカリフォルニアワインは、品質的にいいものが中心になっており、消費者としては品質判断のポイントにしてもいいのかもしれません。

逆に、オーガニックであまりに安いワインは、安かろう悪かろうになっている可能性が高いので、あまり手を出さない方が良さそうな気がします(おそらくそういったものは地元消費がほとんどで日本には入ってきていませんが)。

つまり、オーガニックだから美味しいワインができるのではなく、現状オーガニックでワインを作っているところの多くは、手間暇かけている高級ワインが中心であろう、だから品質もいいものが多いと判断しても良さそうだ、というのが私の考えです。

蛇足で付け加えるならば、逆にオーガニックでないからダメだということは全くありません。環境的な要因でオーガニックな栽培が難しいというケースも多々あるでしょう。例えば近隣にブドウの病気が発生したら、薬でその蔓延を防ぐという方が、無農薬に固執するよりも健全な判断だと思います。オーガニック至上論には陥らないことをおすすめしたいと思います。