ナパ・ウィークのイベントで「ナパ・ヴァレーワインと肉料理」というセミナーに出席しました。場所は六本木のミッドタウンにある喜扇亭(きせんてい)。人形町の老舗「今半」系列の鉄板焼きの店です。

ナパ・ヴァレー・ヴィントナーズ日本代表の一人である小枝絵麻(こえだ・えま)さんは、フードコーディネーターとしても知られる人。彼女が考えるワインと料理のマリアージュがこのセミナーの骨子です。まるでマジックのようなマリアージュにここから驚かされることになります。

マリアージュというと、メインの食材(肉・魚など)とワインの種類のマッチングを考えるだけに終わってしまう感じがあります。せいぜい、そこに調理法や味付けを合わせて考えるくらいでしょう。彼女はそこに「ブリッジ食材」を入れることでマリアージュが大きく変わると説きます。そのときに飲むワインと共通する香りや味わいの要素を持った食材が「ブリッジ食材」で、それを料理に少し加えることで、ワインと食事が「けんかしない」だけでなく、相乗効果を発揮して、さらに美味しく感じられるというのです。

ブリッジ食材は、スパークリングワインならレモンやアーモンド、サワークリームなど。シャルドネなら白味噌やみりんといった和食の要素も入ってきます。

ナパ・ワインと食材のペアリング

上のチャートはメインの食材と、調理法、味付けで選ぶワインと、そこに合うブリッジ食材を示したものです。

ブリッジ食材

今回のセミナーでは写真のようなブリッジ食材が用意されています(サラダ除く)。
手前左がポン酢と大根おろし、細ネギ。奥は左から塩、木の芽(山椒)、マスタード、たまり醤油です。あと、写真には入っていませんがゆず果汁もありました。

ポーク(味付けなしと味噌漬け)
最初の料理は豚肉。群馬県産の肩ロースを単純に焼いたものと、白味噌に付けて焼いたものが出てきました。

ワインはガーギッジヒルズのシャルドネとロンバウアーのシャルドネを合わせます。ガーギッジヒルズはオーガニック栽培で、新樽比率が低く、マロラクティック発酵をしていない、優しい味わいのシャルドネ。一方のロンバウアーは最近では珍しい濃厚タイプ。新樽比率が高く、マロラクティック発酵も100%行っています。ただ、下品な味わいではないので、飲んでいて嫌味はありません。クラシックで美味しいシャルドネです。

比較的淡白な味わいのガーギッジヒルズには豚肉も味付けしていないものを合わせます。まずは塩コショウだけ軽くして試します。ワインとの相性は悪くないですがよくもない。喧嘩しないだけに終わっています。

次に、ブリッジ食材としてゆず果汁をそこに少しかけてみます。するとなんということでしょう。単にゆずの味がワインと合うというだけでなく、肉の旨味もはるかに増して感じられました。ちなみに隣の人がポン酢で試してみたところ、あまり良くなかったとのこと。このあたりは不思議で難しいところですが、ともかくゆず果汁の効果にはビックリでした。

一方、濃厚なロンバウアーをゆず果汁で試してみると、やや逆効果のような感じもしました。デリケートな味わいのシャルドネにこそゆず果汁が合うようです。

ロンバウアーに使ったブリッジ食材は白味噌。味噌漬けして焼いた肉とロンバウアーの組み合わせは最高です。特にロースの脂のところの旨味がおいしく感じられるようになりました。
出番を待つ和牛
次は、山形産の薄切りのサーロインを塩とシェリー酒で味付けして焼いたものとレタスです。これをヴィアデア(Viader)のプロプライエタリ・レッド2014と合わせます。ナパの東側の急斜面の畑で作られたカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランのブレンド。カベルネ・フランが28%入っており、カベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインなどと比べるとややソフトでシルキーな舌触りが特徴です。カシスやブルーベリーのような青系の果実の風味も豊かなワイン。

ここでのブリッジ食材はポン酢ですが、まずは何もつけずに合わせてみます。うーん、肉の脂がやや強くワインに勝ってしまう印象です。これならばカベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインの方が合いそう。

次に、ポン酢を付けてみます。バランスが非常によくなったのを感じます。ワインの味もより引き立って明るい印象になりました。何もつけないのとは全然違います。

その次はポン酢にさらに大根おろしと細ねぎを加えます。全体にさっぱりしてさわやかな印象。これももちろんありですが、個人的にはポン酢だけの方が印象深いマッチングでした。

熟成

最後は3種類のカベルネ・ソーヴィニヨンをステーキに合わせます。ワインは
・ルナ・ヴィンヤーズ 2014 アペレーション・シリーズ カベルネ・ソーヴィニヨン
・イングルヌック 2012 カスク カベルネ・ソーヴィニヨン
・ロング・メドウ・ランチ 2008 カベルネ・ソーヴィニヨン
牛肉は、普通のが鹿児島産、2カ月熟成させたものが北海道産とのこと。

まずは塩だけでルナと合わせてみます。肉がとてもおいしく、ワインもおいしいので、普通に考えればこれで十分おいしいです。一般的にはこれでマリアージュできていると言ってしまうでしょう。

次に、塩をたまり醤油に変えてみます。すると、明らかに肉の旨味が増して感じられます。ワインの味も広がる印象です。3つめはさらにマスタードを加えます。酸味とスパイスの風味がワインからもより強く感じられます。たまり醤油だけのときより、よくなったというよりも別の要素を引き出してきた感じです。

次はイングルヌック。肉が塩だけだと、ワインの味がやや勝ってしまいます。たまり醤油はやはり美味しい。最後はさらに山椒(木の芽)を加えます。するとワインの中のハーブのニュアンスもより引き立つように感じました。

ちょっと最後の方はパターンと組み合わせが多くなりすぎて、どれがどれだかしっかりメモできていなかったのですが、ステーキに関して、いいたいことは「たまり醤油最高!」ということです。これがあるのとないのとでは、ワインの味の引き立ち方も肉の味も全然違いました。まさにブリッジ食材のマジックでした。

ブリッジ食材として何が有効かは、基本的には合わせるワインの香りや味わいで決まります。ワインの香りや味わいが複雑なほど、いろいろなブリッジ食材が有効になります。そういう意味ではナパのワインは多くのフレーバーを持っており、素晴らしいブリッジ食材が見つかる可能性を大いに秘めています。

最後に、ワインの品種ごとに考えられるブリッジ食材を挙げた資料をいただきましたので、参考のためにそれを載せておきます。今回のセミナーの豚肉のマッチングのところで見たように、同じシャルドネでも1つで有効なブリッジ食材が他のシャルドネではうまく働かないということもあります。したがって、挙げたものすべてがブリッジ食材であるということではなく、そのヒントと考えた方がいいでしょう。

■スパークリング
・レモン ・グレープフルーツ白 ・梅 ・アーモンド ・ハチミツ ・ブリオッシュ ・いちご ・サワークリーム

■ソーヴィニョンブラン
・グレープフルーツ ・はっさく ・青りんご ・キウイ ・トロピカルフルーツ ・ディル ・紫蘇 ・フェンネル ・セロリ

■シャルドネ
・りんご ・レモン ・はちみつ ・グレープフルーツ白 ・みりん ・白ごま ・白味噌 ・カシューナッツ ・バター ・アボカド

■ヴィオニエ
・マンゴー ・アプリコット ・アーモンド ・松の実 ・クローブ ・パイナップル ・オレンジ ・はちみつ

■リースリング
・マンダリン ・青りんご ・新生姜 ・ゆず ・すだち ・金柑 ・みょうが

■ピノ・ノワール
・マッシュルーム ・ザクロ ・生ハム 。チェリー ・ビーツ ・ローストガーリック ・オレガノ ・紫オリーブ ・生しょうゆ

■メルロー
・ナッツ全般 ・ローズマリー ・セージ ・デミグラス ・甘辛タレ ・ディジョンマスタード ・黒オリーブ ・バルサミコ ・チョコレートビター

■シラー
・クミン ・フェンネル ・ブラックペッパー ・ブルーベリージャム ・ベーコン ・ハーブプロバンス ・たまり醤油 ・バルサミコ ・クローブ ・プルーン

■ジンファンデル
・甘辛ソース ・焼肉タレ(甘口 ) ・ケチャップ ・とんかつソース ・胡椒 ・5スパイス ・ジュニパーベリー ・干しぶどう ・プルーン

■カベルネ・ソーヴィニヨン
・ビーツ ・くるみ ・黒オリーブ ・バルサミコ ・たまり醤油 ・セージ ・胡椒 ・ブラウンソース ・クローブ ・ビターチョコレート

なお、たまり醤油は、普通の醤油に赤ワインを煮切ったものを10対1の割合で足したもので代用できるとのこと。

理想的には、合わせるワインを試飲して、そのニュアンスからブリッジ食材を選ぶのがいいと思いますが、実際にはそこまでやるのはかなり大変でしょう。まずはいろいろ試してみて、自分なりの方程式を見つけるのを楽しむのもいいのではないでしょうか。うまくはまれば、信じられないほどの相乗効果が得られますよ。