ハーラン・エステートの創設者ビル・ハーランの息子ウィル・ハーランが来日し、ハーラン第3のプロジェクト「プロモントリー」についてセミナーを開きました。プロモントリーのワインメイキング担当ディレクターであるコリー・エンプティングも一緒に来日しています。プロモントリーはハーラン・エステートとも、第2のプロジェクトであるボンドのワインとも全く異なる個性的なワインで、個人的には将来ナパでトップの評価を受ける可能性がある、すさまじいポテンシャルを持っていると感じました。

なお、本サイトでは2011年からプロモントリーの記事を報じています(「Harlanの新プロジェクト「Promontory」が明らかに」)。


プロモントリー(Promontory)とは岬とか突端といった意味ですが、ここはナパの西側マヤカマスの山からナパ・ヴァレーに向かって突き出したような場所になっています。平地側からのアクセスも山側からのアクセスも難しいところ。1980年代初頭にビル・ハーランが発見したときはまだ手付かずの森だったそうですが、当時は売りに出ておらず、2008年にようやく買うことができたそうです。それまでに340ヘクタール(840エーカー)のうち32ヘクタール(80エーカー)はブドウ畑になっていたそうですが、ほとんど管理もされておらず、伸び放題でひどい有様だったとのこと。

この土地はハーランの畑から距離的には600メートルくらいしか離れていませんが、土地のキャラクターは大きく異なっています。標高は150~350メートルほどあり、それによる気温の違いもあります。南から来る霧の通り道にあたり、霧が涼しさとともに湿気も与えてくれます。

また地質的には、中間を断層が走っており、堆積岩と火山性の土壌に分かれています。さらに3番めの土壌として変成岩のところがかなりあります。特に変成岩についてはここより200メートル北でも200メートル南にもない、ここ固有の土壌になっています。

今回来日したウィルとプロモントリーのコリー・エンプティングはともにナパ生まれナパ育ちですが、そういった「第2世代」にとってこのような、ほとんど未開発でしかもユニークな土地のワインを任されたというのは極めて貴重な経験だそうです。

植えられていた畑は、最初は「忘れられた公園」のようで、荒れ放題で木も育ちすぎでした。すばらしいワインをそこから作れるかどうか全くわかりませんでした。入手してから3年間は古い畑の手入れに費やし、そこからどういうワインができるかを考えていったとのこと。最初の1、2年、まだ畑の状態はよくないのに、ワインのキャラクターはすごいものがあり、そこですべてを一度に植え替えるのではなく25年間かけて植え替えることにしたそうです。植え替え前は1エーカーあたり2000本くらいの密植度だったのを植え替え後は6000~8000本/エーカーとかなり密にしています。VSP(バーティカル・シュート・ポジショニング)と呼ばれる仕立てが中心ですが、ここは平均斜度が40度もある急斜面で、コート・ロティなどで使われている「エシャラ仕立て」やヘッドプルーンなどもあるとのことです。また当初はカベルネ・ソーヴィニヨン中心でいくつか他の品種もありましたが、植え替えはすべてカベルネ・ソーヴィニヨンだとのこと。

ちなみに、2009年のプロモントリーの評価はロバート・パーカーが97点、アントニオ・ガッローニ(ヴィナス)が94点と、その畑の状態を考えると非常に高い評価がついており、畑の力がどれだけ強いのかが伺えます。

ワインを作ってみると非常にタンニンが強く、色も濃く、凝縮感もあることがわかり、24カ月樽熟成させてみましたが、まだまだ時間がかかることがわかったそうです。5年間熟成するのがいいと判断しましたが、このようにぜいたくができるのがハーラン・ファミリーの素晴らしいところです。例えばハーラン・エステートにしても87年からワインを作り始めて、実際に販売したのは90年のヴィンテージからでしたし(つまり販売を始めたのは93年くらいからになります)、ボンドにいたってはプロジェクトを初めてからワインを売り出すまで12年もかかっています。それだけの投資と長期プランを持つのがここの特徴でもあります。

プロモントリーでユニークなのが、樽熟成にバリックと呼ばれるような普通の小さな樽ではなく30ヘクトリットルの大きなカスクと呼ばれる樽を使っていることです。樽香を過剰につけないためにニュートラルな樽を探し、オーストリアのメーカーから購入しているとのことです。最初は輸出を渋っていたそうですが、苦労して買うことができたそうです。この樽を使う前に、若いワインを入れてなじませる必要があったので、2013年からこちらの樽を全面的に使えるようになりました。
カスク

試飲は2011年から2013年の3ヴィンテージ。2013年はこれから売り出すところです。

最初に試飲した2011年の第1印象は、ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンにしては、黒系の果実よりも赤系の果実の印象があり、酸がしっかりしていること。チョークやグラファイトなど鉱物的な風味もかなり強く、非常にタンニンがしっかりして強固なワインです。凝縮感は比較的(他のヴィンテージと比べると)ありませんが、「山系」の魅力をふんだんに発揮しています。個人的には「山系」らしさという点で3ヴィンテージの中でも魅力を感じたワイン。

2012年は2011年に比べるとブルーベリーなどの青系の果実の風味がより強くありますが、またミネラル感も非常に強くバランスがいいワイン。2011年と比べるとまだ柔らかいですがそれでもかなりタンニンはあります。

2013年は、ヴィンテージ自体にストラクチャーが強く出る傾向があり、プロモントリーの特徴と相まって、ストラクチャーの素晴らしさが目立ちます。得点をつけるならば3ヴィンテージの中でこれが一番でしょう。ブルーベリー、ブラックベリーなどの果実の風味も豊かです。もちろんタンニンも強く酸もしっかりしており、高いレベルでバランスが取れています。非常に素晴らしいワイン。ちなみにロバート・パーカーは99点、アントニオ・ガッローニは98+という評価です。

今回、何よりも驚いたのが、植え替えた木の樹齢を考えると2013年のものでもまだ4年程度であること。植え替えた木のポテンシャルがフルに発揮されるようになるのにはおそらくまだ10年以上かかるでしょう。それでもこれだけの味を既に出しているということは10年後のワインがどれだけのレベルになるのか、空恐ろしいほどです。ただ、ここのワインのタンニンの強さなどを考えると、熟成は20年ではまだ短いくらいかもしれません。それらを考えると、ここの最高のワインを飲めるのはまだ30年は先かも…初めて自分の寿命も考えてしまいました(笑)。

既にガッローニは2014年に100点を付けており、もうナパのトップクラスの一員とみなしていいワインですが、上述のように、これから先、さらにレベルはどんどん上がっていくと思います。ハーランよりも名声を勝ち取る日が来たとしても全然不思議ではないと思います。それだけのポテンシャルを感じるワインでした。