ソノマのロシアン・リバー・ヴァレーにあるワイナリー「ギャリー・ファレル(Gary Garrell)」のジェネラル・マネージャー、ナンシー・ベイリーさんが先日来日し、セミナーを開催しました。

ギャリー・ファレルはソノマの老舗ワイナリー「デイヴィス・バイナム(Davis Bynum)」でワインメーカーを務めてたギャリー・ファレルが1982年に設立したワイナリー。ギャリー・ファレルはソノマで最も尊敬されているワインメーカーと言われており、多くのワイナリーやワインメーカーのメンター的な役割を果たしていました。また、その関係からロキオリ(Rochioli)をはじめとした素晴らしい畑からブドウの提供を受けるようになりました。

しかし、2004年にワイナリーを売却して以降はオーナーが次々と変わり、ギャリー・ファレル自身も2006年にアリシアン(Alysian)を設立してそちらに専念(現在は完全に引退しています)。そんな形でワイナリーも2000年代のピノ・ノワール・ブームの中に埋没してしまい、いつしか「昔の名前」になってしまっていました。

その状況を変えたのが現在のワインメーカーであるテレサ・ヘレディア(Theresa Heredia)。2012年に就任後、ワイン造りを立て直し、現在ではかつてのギャリー・ファレル時代よりも上と言われるくらい美味しいワインを造っています。オーナーもキスラーやコスタ・ブラウンなどを所有するビル・プライスに変わり、財政的基盤も安定しました。まだ種類は少ないですが、日本への輸入も再開しました。

今回のセミナーでは現在輸入されているAVAのワインだけでなく「ロキオリ-アレン」など、未輸入の単一畑ワインも提供され、ロシアン・リバー・ヴァレーのさまざまな地域の特性などを見ていきました。

ワイン造りはギャリー・ファレル時代よりも全体にライトなスタイルになっています。ブドウを収穫する糖度も少し下がり、樽もトーストが以前より軽いものになっています。一方で白ワインではオリとのコンタクトを増やす、ピノ・ノワールではコールド・マセレーションやイクステンディッド・マセレーションなど、果皮との接触時間を増やすテクニックを導入するなどで、ブドウの味をより引き出す形になっているようです。また、白ワインでは一部、コンクリート・エッグと呼ばれる卵型のコンクリート槽を使った発酵・熟成も導入しています。楕円形になっていることにより、自然な対流が起こってより味を引き出したり、コンクリートの小さな穴を通して酸素とのコンタクトが起こりクリーミーなテクスチャーになったりすると言われています。赤ワインでは大樽を使った発酵も行っています。

ギャリー・ファレルは自社畑を持っていないのですが、ギャリー・ファレル時代から続く畑の生産者との関係は残っており、合計で43もの畑のブドウを使っています。シャルドネのAVAものでは16、ピノ・ノワールのAVAものでは22もの畑のワインをブレンドしています。3週間かけてブラインドですべてのワインを試飲しブレンドを決めていくそうです。

また、今回のセミナーではロシアン・リバー・ヴァレーをさらに5つの地域に分け、そこの単一畑のピノ・ノワールを試飲しています。

ロシアン・リバー・ヴァレーはソノマの中でもかなり広い面積のAVAで、ソノマ・コーストのAVAとも一部地域が重なっていますし、グリーン・ヴァレーをほぼ包含、チョーク・ヒルとも一部重なっています。グリーン・ヴァレーに属する地域など相当冷涼なところもあれば、ジンファンデルが作られる温暖な場所もあります。土壌もさまざまです。そこで、2014年頃からロシアン・リバー・ヴァレーを5つの地域に分け、それぞれの地域のワイン(未完成のもの)を様々なワイナリーが持ち寄ってブラインドで試飲。地域ごとの共通項を導き出すといった「ロシアン・リバー・ヴァレー・ネイバーフッド・イニシアティブ」を行っているとのこと。

5つの地域は以下のようになっています。
セバストポール・ヒルズ:ロシアン・リバー・ヴァレーの南部でペタルマ・ギャップからの強い風が吹き込み一番冷涼。土壌は砂と粘土が混じった「ゴールドリッジ」ですが、やや粘土が多め。
グリーン・ヴァレー:セバストポール・ヒルズの北西。太平洋に近く霧の影響が大きいが、丘が多く高いところと低いところの違いも大きい地域。砂が多めのゴールドリッジ。
ラグナ・リッジ:グリーン・ヴァレーの東側の丘陵地帯。やや暖かく霜の心配はない。早く芽吹くため生育期間が長い。ゴールドリッジ。
サンタ・ローザ・プレインズ:ラグナ・リッジの東側の平原地帯。ラグナ・リッジより暖かい。海洋性の堆積土壌でミネラルに富む。
ミドル・ランチ:ロシアン・リバー沿いのやや上流。一番暖かい。砂岩やシェールなど。

試飲に移りましょう。

最初は日本にも輸入されているロシアン・リバー・セレクション シャルドネ 2016です。エレガントなシャルドネ。青りんごなどのやわらかな果実味。チョーク、白い花の香り。きれいです。美味しい。

次は輸入されているなかで唯一の単一畑、オリヴェット・レーンのシャルドネ2015です。最初のシャルドネより色濃く香りも果実味も豊か。オレンジやカスタードの味わい。ミネラル感もあります。とてもいいワインだと思います。

3番から6番までは日本未輸入の単一畑のピノ・ノワール。上記のロシアン・リバー・ヴァレーの地域ごとの味わいを見るために選ばれました。

3番めはセバストポール・ヒルズにあるマクドナルド・マウンテン ピノ・ノワール2016。ダーク・チェリーやザクロの味わい。紅茶の香り。酸は中程度でタンニンはかなりしっかり感じます。一番冷涼な地域ですが、冷涼感はそこまで感じず、複雑さを感じるワインでした。

4番めはグリーン・ヴァレーにあるホールバーグ・ヴィンヤード ピノ・ノワール2016。ラズベリーにカシス、ダーク・チェリーの味わい。ロシアン・リバー・ヴァレーらしいボディのあるピノ・ノワールです。

5番目はサンタ・ローザ・プレインズにあるマルタエラ・ヴィンヤード ピノ・ノワール2016。色はこれが一番濃いです。ラズベリーの風味。ミントやスパイスなど複雑さがあるワイン。

6番目はミドル・ランチにあるロキオリ-アレン ピノ・ノワール2016です。アレンはあロキオリの隣にある隣人の畑なのですが、実際にはロキオリがすべて管理しているロキオリの一部といっても過言ではない畑です。ロシアン・リバー・ヴァレーの中では比較的暖かいというミドル・ランチですが、このワインは単一畑の中では一番エレガントで酸がきれい。紅茶やアジアン・スパイスの風味が複雑さを与えています。個人的には単一畑の4種の中ではこれが一番好きでした。

7番目はブレンドもののロシアン・リバー・セレクション ピノ・ノワール2016。前述のように22の畑のワインをブレンドしています。その中にはなんと遠くサンタ・バーバラのサンフォード・ベネディクト・ヴィンヤードのものも含まれているそうです。ロシアン・リバー・ヴァレーらしいダークな果実感とバランスがいいワイン。ロシアン・リバー・ヴァレーらしさを感じるにはまずこのワインがいいのではないでしょうか。

久しぶりに試飲したギャリー・ファレル。レベルの底上げが素晴らしいと思います。AVAものというと格が下というイメージになりやすいですが、どちらかというと単一畑が畑の個性を引き出すのに対し、ブレンドものはワインの美味しさを全面に出しているような気がします。


ナンシー・ベイリーさん(左)と通訳・セミナーコーディネーターの立花峰夫さん(右)