国際環境アクションワイナリー(IWCA)というワイナリー団体が、カリフォルニアワイン協会の試飲会に合わせてセミナーを開催しました。この団体は2019年にスペインのトーレスとカリフォルニアのジャクソン・ファミリーが設立したもの。カーボンフットプリントの削減を目指しており、2019年のワインエンスージアストの賞を受けています。カリフォルニアからはほかにスポッツウッドやシルバーオーク、リッジなどのワイナリーが参加しています。
IWCA
いわゆる「自然派ワイン」と比べると、直接ワインの品質に関わるわけではないのでわかりにくいですが、私はワイナリーが「よりよい企業」になるための活動と捉えています。そういう意味では消費者が、どのワイナリーがそういった活動をより積極的に行っているかを知ることが大事だと思います。

今回のセミナーに登壇(オンライン)したジャクソン・ファミリー、シルバーオーク、スポッツウッドはIWCAの中でも主導的なワイナリーであり。非常に環境活動に熱心に取り組んでいるワイナリーです。

さて、今回はゼロ・エミッションやカーボン・ニュートラルと呼ばれる二酸化炭素の排出をプラスマイナスゼロにするための活動がテーマでした。

IWCAは昨年11月、ワイン業界の排出をCEOに向けて、ゼロ・エミッションへの活動を低減しています。提言の内容は、科学的根拠に基づく取り組みを推進すること。2050年までに排出をゼロにすること、IWCAが開発したカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)の計算メソッドを普及させること、です。小さなワイナリーでも無理なく測定ができるようにしています。

ジャクソン・ファミリーのケイティ・ジャクソンCSR担当上席副社長からはカーボンフットプリントの測定などについて説明がありました。同社では2009年に初めての測定を行い、2015年に徹底的に見直しをしました。さらにそれ以降17.8%の削減を達成しています。
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主な取り組みとしてはボトルの重量を減らしたこと。また太陽光発電を大規模に導入しています。ボトルの軽量化では、最も⽣産量の多い4つのボトル⾦型でボトル重量を5%削減したことで、⾃社の排出量を年間2〜3%削減しました。また、年間約100万ドルのガラスコストと年間約50万ドルの燃料コストを削減しました。

なお、缶や箱といったガラスボトル以外のパッケージングの採用について質問したところ、さまざまなものを調べているとのこと。熟成能力もある程度必要と考えて選びたいとのことでした。

スポッツウッドのモリ―・シェパード エデュケーショナル・ワインメーカー兼サスティナビリティからはカバークロップについて、シルバーオークのネイト・ワイス醸造担当副社長からは土壌耕起の削減やコンポスト、生け垣と原生林の活用などについての話がありました。いずれも炭素隔離の実践事例となります。

カバークロップは有機物の増加や窒素保持、線虫抑制などさまざまな効果があります。ただ、カバークロップ自体、植物ですから水を必要とします。昨今の干ばつの状況ではカバークロップを使うのがいいのかどうかは難しい判断になりそうです。

土壌耕起削減という話は今回初めて聞きましたが、土壌の質感が二酸化炭素の排出にかかわっているそうで、土壌の中の粘土とシルトの比率が高いと排出量が減るとのこと。耕起(土地を耕すこと)を減らすことで植物が抱え込む二酸化炭素が増え、排出量が減ることになるそうです。ただ、全く耕起しないよりは少し耕起したほうがいいそうで、そのあたりの理屈はまだわかっていません。


セミナーではワインの試飲もありました。ジャクソン・ファミリーからはケンドール・ジャクソンのヴィントナーズ・リザーブ・シャルドネ2019。30年間米国での売上トップをほこるシャルドネです。
このワイン、95%樽発酵を使っており、樽の風味とマロラクティック発酵によるバターの風味でまろやかな味わい。酸が非常にしっかりしているのであまやかさよりもバランスの良さを感じます。
樽は洗浄が大変で、サスティナビリティの面では難しいところもあるのですが、ジャクソン・ファミリーでは洗浄の水を3回まで再利用するシステムを入れて水の利用を抑えています。また、前述のようにボトルを軽量化しており、再生ガラスも55%使っています。

同じくジャクソン・ファミリーからのカンブリア ジュリアズ・ヴィンヤード ピノ・ノワール2015はサンタ・バーバラのピノ・ノワール。ザクロやクランベリーなどやや甘やかな果実味にベーキング・スパイスやシナモンのスパイス風味が美味しいピノ・ノワール。酸もしっかりしています。

スポッツウッドからはカベルネ・ソーヴィニヨン2018。ナパを代表するカベルネ・ソーヴィニヨンの一つです。カシスやブラックベリーの風味、コーヒー、トースト、皮革。フルボディで非常に長い余韻。ナパのワインとしては酸もしっかりしています。タンニンがまだ結構強いので、こなれるまで少しかかりそうでした。

シルバーオークからはアレキサンダー・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨン2017とタイムレス 2018。タイムレスというのはシルバーオークがナパのソーダ・キャニオンに持つメインの畑の単一畑ものです。アレキサンダー・ヴァレーがミディアムボディーでまろやかなタンニン、非常に飲みやすいワインであるのに対し、タイムレスはストラクチャーがしっかりしており、タンニンも強固な山系を感じさせるワイン。20年以上の熟成が期待できそうです。

セミナーの内容はかなり難しいところもありましたが、今後はワイナリーを選ぶ基準としてもその取組を注視していきたいと思います。