今年春に「カリフォルニア、カベルネ・フランの真髄」という記事で、ハーランのカベルネ・フランなどカベルネ・フランの超貴重ワインばかりのワイン会の話を紹介しました。同じ方から今度はメルロー会をやりましょうとのことで参加してきました。



メルローにこだわったというこの会、乾杯のスパークリングもメルローです。北海道余市のリタファーム&ワイナリーが作るペットナットのメルロー。レッドベリーの風味がチャーミング。


この会、料理も凝りに凝ったものが登場します。まずはすり身にイカ墨を合わせたトースト。見た目もおしゃれです。


ワインはいきなりお宝中のお宝です。なんとスタッグス・リープ・ワイン・セラーズの1974年のメルローです。かのパリスの審判のワインの次の年のメルローです。

50年近く熟成したワインですが、まだ赤果実の風味が残っています。とにかくきれいでエレガント。酸もほどよくあり染み入るような味わい。酸化した風味もなく最高の熟成状態です。


こちらの料理はシラスに、1週間ホエイに漬けて発酵させた玉露を混ぜたもの。これも素晴らしい風味。ワインが酸化していたら、これにレモン風味を付ける予定だったそうですが、まったくその必要はありませんでした。


次のワインはポール・ホブスのマイケル・ブラック・ヴィンヤード2003。マイケル・ブラック・ヴィンヤードはナパのクームズヴィルにある畑。今はCohoというワイナリーがメルローを作っているようです。
こちらはマッシュルームやトリュフのようなキノコの風味や腐葉土など、熟成香が素晴らしい。メルローが熟成するともっと獣系の香りが出てくるのかと思っていましたが、植物系の熟成香が中心でした。ブラックベリーなどの果実味もあり、多少甘やかな味わいがカリフォルニアらしさを感じさせます。


これに合わせた料理がまたすごい。和牛のハラミを白味噌の汁に仕立て、グリーンカレーの風味を少しだけつけています。肉の旨味、汁の出汁、白味噌の甘味をグリーンカレーのスパイスが引き締めて、これがポール・ホブスに素晴らしく合いました。ペアリングの妙ということではこの日の一番だったかもしれません。


次はなんとメルローで作った白ワイン。長野の塩尻にあるヴォータノのメルロー・ブランです。ちょっとオレンジっぽい風味。酸がきれいでさわやかなワイン。


料理もさわやかに魚介のサラダ仕立て。緑黄野菜と長谷川農産ホワイトマッシュルーム、壱岐穴子の一夜干し、ヒラメの昆布締め、明石蛸、大ハマグリのサフランジュレがけ。
素材がどれも素晴らしく美味しいです。


ワインはダックホーンのメルロー、スリー・パームス・ヴィンヤード1988。スリー・パームスのメルローを飲んだことある方は結構いらっしゃると思いますが、1988年となるとほとんどいないだろうと思います。
ちょっとミンティな風味を感じます。果実味もきれいに残りエレガント。今回、メルローがこんなにきれいに熟成するのを初めて知りました。旨味もあり美味しい。


料理は牛すじ出汁と金針菜の煮込み。カイケム(アヒルの塩漬け玉子)と腐乳のソース。肉の旨味と出汁がむちゃくちゃ美味しい。今日の料理は基本的に和食の仕立てです。


次のワインはプライド・マウンテン。スプリング・マウンテンの山のメルローで一世を風靡したワイナリーです。ナパとソノマの境にワイナリーがあり、どちらのワインも作っている(ナパとソノマの両方のAVAがついたワインもあります)というのもユニークなワイナリーですが、今回のワインはソノマ側の畑のようです。Vintner’s Selectというキュベでワインメーカーのロバート・フォーリーの好きなロットも加えているとのこと。またカベルネ・ソーヴィニョンを20%入れています。
この日のワインでは一番リッチで濃厚なワイン。スパイシーでプルーンのような熟した果実の風味。酸もタンニンもしっかりしているところが山らしい。


これに合わせた料理がまた面白い。米ナスのナスの含め煮のキャラメリゼ。どんこ椎茸とジュンサイのゼリー掛け。ゼリーを含めて完全にヴィーガンな料理です。キャラメリゼの甘味がプライドの熟した果実感によく合います。


次のワインはブラインドで飲んだのですがまったくわかりませんでした。色はまあまあ濃く、果実味も結構あるのですが、香りはかなり熟成感があります。酸の強さもあり、90年代のメルローかと思ったのですが、実際には2012年のワイン。しかもフィリップ・メルカがボルドーのサンテミリオンで作ったワイン。カベルネ・フランが3分の2、メルローが3分の1です。いわれてみるとなるほどという感じ。ただ、果実味が強いところなど、ボルドーよりナパっぽい感じもします。


料理はこの日のゲストシェフの浅倉鼓太郎さん(銀座・鼓門)によるサーモンと黄韮のアンチョビソース。イクラはゆっくりと熱を入れて半熟卵状態になっており、ソースはそのイクラをさらに裏ごししたものという凝った料理。サーモンのかりかりの皮も美味しい。柑橘の風味がワインによく合います。


さて、豪華な会もついに最後のメルローです。コルギンのメルロー、ジュビレーション2002。コルギンは最近、ジュビレーションの名前でセカンドワインを作っていますが、これはセカンドではないジュビレーション。というか、そもそもコルギンがメルローを作っていたのも知らなかったです。2002年は自社畑IX(ナンバーナイン)エステートの最初のヴィンテージですが、そこのブドウなのかどうかもわかりません。
このワイン、素晴らしかったです。とにかく緻密でスムーズなテクスチャー。赤系・黒系の果実もまだしっかりしています。タンニンも極めてシルキー。「テクスチャーはごまかしが効かない」という話を今年だれかから聞いたのですが、それを思い出しました(誰が言っていたのか覚えている人教えてください)。


この日のもう一人のゲストシェフ古賀哲司さんによるブリスケのステーキ。火の入れ方がすばらしく、ブリスケを柔らかくうまみたっぷりに仕上げています。

これでワインは終了の予定でしたが…
もう1本くらい何か飲みましょうかというホストのありがたいお言葉で、セラーからワインを探します。コングスガードのメルローが2本あったので、メルローつながりでそれにしようかというところだったのですが、コングスガードならジャッジもありますよ、ということでセラーに2本あったザ・ジャッジの2004年をありがたくいただきました。


やや酸は低めですが、とろけるようなハチミツの風味がまるでデザートワインのよう(ワイン自体はドライです)。
デザートがゴルゴンゾーラの杏仁豆腐だったのですが、これともすごくよく合いました。

料理もワインもどれもすばらしく、めったに飲むことのできない熟成したメルローを堪能しました。カリフォルニアのメルローがこんなにきれいに熟成するというのも驚きでした。
メルローはカベルネ・ソーヴィニョンの陰にかくれて、なかなか位置付けが難しいブドウになっているところもありますが、メルローはメルローとしての良さがあることも改めて認識しました。
貴重な会に参加させていただき、ありがとうございました。