シャトー・モンテレーナでエステート・ディレクターを務めるジョージ・ブランケンシー氏が来日、セミナーに参加してきました。


シャトー・モンテレーナといえば、だれでも引き合いに出すのが「パリスの審判」で白ワイン1位になったことでしょう。もちろん、その功績や影響は計り知れないほど大きなものがありますが、そこにあぐらをかいてきたワイナリーでないのも明らかです。

モンテレーナのウェブサイトを見ると、以下のようなことが書かれています。
モンテレーナでは、慣例や過去の方法論、あるいはもう少しうまくやる方法など、あらゆることに疑問を投げかける。

探求する自由があるからこそ、私たちは学ぶことができるのです。そして、「なぜ」と自問することで、「どうすれば」への道筋をよりよく理解することができるのです。

ワインのスタイル自体は基本的に変わっていないのですが、スタイルを守り続けることの中にも進化の過程が見られます。

ちょっと余談になりますが、以前CEOのボー・バレットが来日したときに「パリスの審判で1位になって一番良かったことは何か」と質問したことがあります。彼の答えは「シャルドネが売れて儲かったので、作りたかったカベルネ・ソーヴィニヨンに予定よりも早くトライできるようになったことかな」ということでした。ここからも、「シャルドネ1位」に甘えない姿勢が見えるような気がしました。

Montelena

ラベルにも描かれているワイナリーの建物は19世紀の1888年に完成したもの。これも見かけは変わっていませんが2011年には醸造設備などをリノベーション、耐震性も高めています。Napa Green Wineryの認証を取っており、電気は100%太陽光発電で賄っています。

2000年代には一時期ブショネの問題に悩まされたこともありますが、2010年代にDIAM30というブショネの起こらない合成コルクに切り替えています。

このほか、畑の植え替えも進めています。病害虫対策などを目的にしているとのこと。

ちなみに有機栽培については認証を取ると足かせになってしまう面もあるため、認証の予定はないとのこと。一方で畑の不耕起などを特徴とする「リジェネラティブ・ファーミング」については積極的に取り組んでいく姿勢だそうです。カバークロップを使って土壌の圧縮を防ぎ、有機物を増やすことを大事にしています。


今回は5種類のワインを試飲しました。

・シャルドネ ナパヴァレー 2021
オークノールの南東、少しだけクームズヴィルにかかっているところに長期契約の畑があります。パリスの審判のころからマロラクティック発酵しないスタイルで作られています。2021年は干ばつで収穫が少なかった年。2週間かけて発酵しています。
第一印象は甘いトロピカルなフルーツの香り。白い花の香りやヴァニラもあります。口に含むと豊かな酸があり、香りの印象よりもずっとバランスよく素直に美味しい。

・ジンファンデル ナパヴァレー 2019
カリフォルニアのヘリテージのジンファンデルが40%。イタリア由来のプリミティーボが60%。ジンファンデルとプリミティーボは品種としては同じであることが分かっていますから、クローン違いと捉えればいいかと思います。プリミティーボの方が実の付き方がまばらで均等に成熟するそうです。ジンファンデルは不均等に成熟するため、青い未熟な果実を避けようとするとどうしてもレーズン化してしまう果実もでてきます。それが濃厚な甘さやアルコール度数の高さにつながるのですが、プリミティーボではそういった面が避けられるとのこと。
レッドベリーなど赤果実の味わいが優勢で、少しブルーベリー感もあります。リコリスやアニス、コーヒー。白コショウ感もあり、ブラインドで飲んだらシラーと思うかも。酸やや高く、タンニンもジンファンデルにしては強い方でしょう。ストラクチャーもありバランスよくおいしいジンファンデル。多くの人のジンファンデルのイメージとは合わないかもしれませんが、非常にいいです。

・カベルネ・ソーヴィニヨン ナパヴァレー 2019
レギュラーのカベルネ・ソーヴィニヨンです。畑はカリストガの自社畑と契約農家、オークノール(メルロー、シャルドネと同じ畑)にあります。以前はナパの様々な地域のブドウを使っていましたが、自社の畑の場所が中心になりました。
カシスにレッド・チェリー、ザクロ、ややタイトな香りでタンニンもしっかりあります。エレガント系の作りでバランスよいワイン。

・カベルネ・ソーヴィニヨン エステート 2019
カリストガの自社畑のカベルネ・ソーヴィニヨン。わずかにプティ・ヴェルド、カベルネ・フランが入っていますが99%カベルネ・ソーヴィニヨンです。
レギュラーのカベルネ以上に引き締まった味わい。杉やコーヒー、タバコなどの複雑な香りにカシスなどの青黒系果実。非常に美味しいですが、熟成させたらもっと良くなることが間違いないと思います。

最後はエステートのバックヴィンテージです。
・カベルネ・ソーヴィニヨン エステート 2008
2008年は前年の2007年が評価高かったのでちょっと埋もれがちなヴィンテージですが品質は上々です。ヒートスパイクがあり収量が少なかった年だとのこと。
2019年のエステートと比べて赤果実系の味わいをより感じます。トマトのようなうまみ、柔らかなタンニン、若いうちの引き締まった感じから、穏やかなワインに変わってきています。

シャトー・モンテレーナのワイン、特に赤ワインは「モダン・ナパ」と呼ばれるような果実味が前面に出たはでなタイプとは真逆でエレガントなスタイルを貫いています。いろいろ変わりつつもそのスタイルは健在であることを改めて確認しました。