「電子書籍の衝撃」(佐々木俊尚)をiPhoneの電子書籍で読んだ
佐々木俊尚さんが書いた「電子書籍の衝撃」が4月14日正午まで110円(通常価格1000円)だというので,ディスカヴァー デジタルブックストアでダウンロードして読んでみました。当初110円が1万人限定ということでアクセスが殺到したせいか,初日の4月7日にはアカウント作成でエラーが続出したり,支払った後も書籍にアクセスできなかったり,最後にはログインもできなくなったりと散々でしたが,4月8日にはちゃんと使えるようになったようです。
以下では書籍の内容,および「続きを読む」以下ではこの電子書籍自体について感想を記します。
本書は
第1章 iPadとキンドルは、何を変えるのか
第2章 電子ブック・プラットフォーム戦争
第3章 セルフパブリッシングの時代へ
第4章 日本の出版文化はなぜダメになったのか
終章 本の未来
という構成になっています。第1章,第2章は日頃からそれなりに電子ブックについて興味を持って情報を追っていれば大体知っている内容でした。
第3章のセルフパブリッシングのあたりが本書の白眉。AmazonでKindle向けに電子書籍を作る方法や米国でセルフパブリッシングをしている人の話,日本で音楽をセルフディストリビューションしている人の話,MySpaceで楽曲を公開したのをきっかけに若手を育成するミュージックレーベル,さらにはメジャーレーベルへと進出した話が書かれています。特に最後の部分が,今後の書籍における構造変化を示唆しているようで興味深いところでした。
第4章はケータイ小説と取次の話。ケータイ小説は知らない世界なので面白かったですが,本書の中では刺身のツマ的な部分。取次に関しては,委託制が導入された経緯など知らないところもありましたが現在の問題点などは既にいろいろ語られているところ。特に新鮮味はありませんでした。日販の総量規制の話などはどうして書かなかったのか逆にちょっと不思議な感じがしました。
一般向けの新書なので全体にあっさりした記述で物足りなさはありますが,1時間で電子書籍のあらましが分かると思えばお得なのだろうと思います。
こちらも気になる。
さて,続きはこの電子書籍ですが,購入した本はiPhoneあるいはPCで読めます。PCでは「T-Timeビューア」,iPhoneでは「D21 Book Viewer」という無料アプリを使います。今回はiPhoneで読みました。
アプリをダウンロードした後,起動すると右上に「Discover Digital Books」というリンクがあります。これをタップするとSafariでサイトが開き,ログインして購入した書籍をダウンロードします。すると再びアプリが起動して本が読めるようになります。下に,書籍が追加された様子を示します。
本は視認性高く,楽に読めます。
ただし,iPhoneでこれまで使った電子書籍アプリと比べると機能が低く,不満が残りました。
これまで,iPhoneでは青空文庫用の「i文庫」,AmazonのKindleのソフト,それにO'Reillyが書籍アプリとして出しているものを使ったことがあります。これら,どれでも提供されている「しおり」や表示カスタマイズの機能がD21のアプリにはありません。KindleやO'Reillyにある検索機能もありません。Kindleが提供していてアップルのiBooksも実現するというデバイス間での同期機能(例えばパソコンで読んでいたところの続きをiPhoneで読む)機能もありません。最低限の機能だけを備えた感じです。
PC版のビューアは書体も含めてほぼ同じ表示で,検索などの機能も付いています。ただ,iPhoneの方がいつでもどこでも気が向いたときに読める分,読書向きだと思いました。
では,この電子書籍を今回の115円ではなく,本来の,紙の書籍より少し安いくらいの価格で買うかどうかと言うと,どちらかと言えば電子書籍版を選ぶだろうと思います(その値段なら買わないという選択肢は一応横に置いておくとして)。
電子書籍と紙を比較すると,紙のほうが読みやすいのは事実ですが,文字だけであればiPhoneでも十分です(この本を実際に1時間足らずで読み終わったということでも分かるでしょう)。iPhoneでは横15文字縦15行と1ページの情報量が少ないことと,図版は独立したページになるので,図版が多い書籍の場合はかなり可読性が悪くなると思いますが,本書では図版が2点しかなかったのでほとんど影響ありませんでした。
紙よりもiPhoneの方が良い点すらあります。実は今回,本書の半分は風呂に浸かりながらZiplocに入れたiPhoneで読みました。濡れる心配なしに読めるので風呂読書に合っています。読んだ後保存する場所を考えなくていいのもメリットです。
以下は戯言。
著者の佐々木さんはよくTwitterで日経のIT関係の記事がおかしいと文句を書いていますが,自分の専門分野の記事は不満に思うくらいが当たり前だと思っています。日経を読んで,参考になると思ったとしたらその分野の専門家ではない証拠と思ってもいいくらい。これは日経をバカにしているのではなく,新聞のカバーするところはそのあたりだろうということ。佐々木さんはIT専門と書いていますが,本書で「ウィンドウズはマウスを使ったアイコン操作の使い勝手が良かったうえに、ウィンドウズ用に作られたパソコンソフトは操作性が共通していたため、瞬く間に市場を独占していきました」なんて記述を読むと首をひねってしまいますが,だからこの本が駄目だとは思いません。所詮専門性など相対的なものなので,役割が違うのだから,ケチつけは程々が賢明に感じます。
それと,本書では「いまの出版業界はその(Andy注:1980年代のニューアカデミア・ブームのころを最後にする「良い本」を読者に届けるという態勢)残滓を食い尽くしながら、一方で生き残りのために自己啓発本をはじめとする一般に受ける本を量産しているにすぎないのです」と,それを「守るべきでない」と言っているのですが,この電子書籍のサイト,見事に自己啓発本しか並んでいません。そこまで言うのならもっと志高く出版社も選んでほしいものだと思いました。
以下では書籍の内容,および「続きを読む」以下ではこの電子書籍自体について感想を記します。
本書は
第1章 iPadとキンドルは、何を変えるのか
第2章 電子ブック・プラットフォーム戦争
第3章 セルフパブリッシングの時代へ
第4章 日本の出版文化はなぜダメになったのか
終章 本の未来
という構成になっています。第1章,第2章は日頃からそれなりに電子ブックについて興味を持って情報を追っていれば大体知っている内容でした。
第3章のセルフパブリッシングのあたりが本書の白眉。AmazonでKindle向けに電子書籍を作る方法や米国でセルフパブリッシングをしている人の話,日本で音楽をセルフディストリビューションしている人の話,MySpaceで楽曲を公開したのをきっかけに若手を育成するミュージックレーベル,さらにはメジャーレーベルへと進出した話が書かれています。特に最後の部分が,今後の書籍における構造変化を示唆しているようで興味深いところでした。
第4章はケータイ小説と取次の話。ケータイ小説は知らない世界なので面白かったですが,本書の中では刺身のツマ的な部分。取次に関しては,委託制が導入された経緯など知らないところもありましたが現在の問題点などは既にいろいろ語られているところ。特に新鮮味はありませんでした。日販の総量規制の話などはどうして書かなかったのか逆にちょっと不思議な感じがしました。
一般向けの新書なので全体にあっさりした記述で物足りなさはありますが,1時間で電子書籍のあらましが分かると思えばお得なのだろうと思います。
こちらも気になる。
さて,続きはこの電子書籍ですが,購入した本はiPhoneあるいはPCで読めます。PCでは「T-Timeビューア」,iPhoneでは「D21 Book Viewer」という無料アプリを使います。今回はiPhoneで読みました。
アプリをダウンロードした後,起動すると右上に「Discover Digital Books」というリンクがあります。これをタップするとSafariでサイトが開き,ログインして購入した書籍をダウンロードします。すると再びアプリが起動して本が読めるようになります。下に,書籍が追加された様子を示します。
本は視認性高く,楽に読めます。
ただし,iPhoneでこれまで使った電子書籍アプリと比べると機能が低く,不満が残りました。
これまで,iPhoneでは青空文庫用の「i文庫」,AmazonのKindleのソフト,それにO'Reillyが書籍アプリとして出しているものを使ったことがあります。これら,どれでも提供されている「しおり」や表示カスタマイズの機能がD21のアプリにはありません。KindleやO'Reillyにある検索機能もありません。Kindleが提供していてアップルのiBooksも実現するというデバイス間での同期機能(例えばパソコンで読んでいたところの続きをiPhoneで読む)機能もありません。最低限の機能だけを備えた感じです。
PC版のビューアは書体も含めてほぼ同じ表示で,検索などの機能も付いています。ただ,iPhoneの方がいつでもどこでも気が向いたときに読める分,読書向きだと思いました。
では,この電子書籍を今回の115円ではなく,本来の,紙の書籍より少し安いくらいの価格で買うかどうかと言うと,どちらかと言えば電子書籍版を選ぶだろうと思います(その値段なら買わないという選択肢は一応横に置いておくとして)。
電子書籍と紙を比較すると,紙のほうが読みやすいのは事実ですが,文字だけであればiPhoneでも十分です(この本を実際に1時間足らずで読み終わったということでも分かるでしょう)。iPhoneでは横15文字縦15行と1ページの情報量が少ないことと,図版は独立したページになるので,図版が多い書籍の場合はかなり可読性が悪くなると思いますが,本書では図版が2点しかなかったのでほとんど影響ありませんでした。
紙よりもiPhoneの方が良い点すらあります。実は今回,本書の半分は風呂に浸かりながらZiplocに入れたiPhoneで読みました。濡れる心配なしに読めるので風呂読書に合っています。読んだ後保存する場所を考えなくていいのもメリットです。
以下は戯言。
著者の佐々木さんはよくTwitterで日経のIT関係の記事がおかしいと文句を書いていますが,自分の専門分野の記事は不満に思うくらいが当たり前だと思っています。日経を読んで,参考になると思ったとしたらその分野の専門家ではない証拠と思ってもいいくらい。これは日経をバカにしているのではなく,新聞のカバーするところはそのあたりだろうということ。佐々木さんはIT専門と書いていますが,本書で「ウィンドウズはマウスを使ったアイコン操作の使い勝手が良かったうえに、ウィンドウズ用に作られたパソコンソフトは操作性が共通していたため、瞬く間に市場を独占していきました」なんて記述を読むと首をひねってしまいますが,だからこの本が駄目だとは思いません。所詮専門性など相対的なものなので,役割が違うのだから,ケチつけは程々が賢明に感じます。
それと,本書では「いまの出版業界はその(Andy注:1980年代のニューアカデミア・ブームのころを最後にする「良い本」を読者に届けるという態勢)残滓を食い尽くしながら、一方で生き残りのために自己啓発本をはじめとする一般に受ける本を量産しているにすぎないのです」と,それを「守るべきでない」と言っているのですが,この電子書籍のサイト,見事に自己啓発本しか並んでいません。そこまで言うのならもっと志高く出版社も選んでほしいものだと思いました。