アルダー・スプリングス(Alder Springs)という畑をご存知でしょうか。どこにあるかまで大体わかっていたら、かなりのカリフォルニアワイン・マニアだと思います。個人的にはカリフォルニアでグラン・クリュの畑を選ぶとしたらそこに入れたい畑の一つです。

アルダー・スプリングス

畑の場所はメンドシーノ郡。メンドシーノというと有名なAVAではアンダーソン・ヴァレーがありますが、アンダーソン・ヴァレーがソノマのすぐ北にあるのに対し、アルダー・スプリングスはそれよりももっと北の方にあります。これだけの畑なのにAVAの指定されていないところです(アルダー・スプリングスがAVA申請すれば通ると思いますが)。

サンフランシスコから150マイルあるというから約240km。太平洋からはわずか18kmしかありません。6000エーカー(東京ドーム500個分以上)という広大な土地に140エーカーだけがブドウ畑になっています。標高は1700フィートから2700フィートとかなり高く、冬になると雪も積もります。

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この土地を開拓したのはスチュアート・ビューリー(Stuart Bewley)という人。UCデーヴィスを卒業し、彼の理想にあったブドウ畑の土地を探して1980年代末からカリフォルニアの各地を回りました。1991年にメンドシーノの田舎に見つけたのがここ。元牛舎だった土地が売りに出ていたのを期待せずに調べたら、理想通りの土壌でそこを購入。1993年からぶどう作りを始めました。

ここを有名にしたのはパッツ&ホールでしょう。1990年代からシャルドネとピノ・ノワールを作っています。以前、元パッツ&ホールのドナルド・パッツさんが来日したときのワイン会で彼が言っていたのは「アルダー・スプリングスのワインは果実味を感じない。それが大きな特徴だ」ということ。もちろん果実味が本当にないわけではないのですが、それ以上にミネラル感や様々な複雑な味わいを強く感じるワインになります。パッツ&ホールのワインの中でも長熟タイプになります。

今ではパッツ&ホールのほか、リース(Rhys)、ベッドロック(Bedrock)、パックス(Pax)、クルーズ・ワイン(Cruse Wine)、アルノー・ロバーツ(Arnot-Roberts)、ケスナー(Kesner)といったそうそうたるワイナリーが、アルダー・スプリングスのブドウでワインを作っています。また、アルダー・スプリングス自身のワイナリーもあり、ワインメーカーはバイロン・コスゲ(Byron Kosuge)。日系人で元セインツベリーのワインメーカーです。
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さて、このような輝かしいアルダー・スプリングスのワインに、日本人作のものが加わりました。平林園枝さんが作るシックス・クローヴズのピノ・ノワールです。


前述のように、アルダー・スプリングスのワインはミネラル感が非常に強いので、若いときはかなり固く感じられることがしばしばあります。しかし、これは2021年ヴィンテージと、まだ1年しか経っていないにもかかわらず、柔らかさがあります。同時に非常に奥深い味わいも。普通のカリフォルニアワインのように果実を楽しむのではなく、時間をかけて変化を追ったり、少しずつその奥深さを味わうなど、ゆっくり・じっくり飲んでいきたいワインになっていました。

今月末には国内入荷されてくるということなので、そのときには改めて紹介したいと思います。