最近では星新一の伝記で話題を呼んだ最相葉月さんの本です。平成14年の東京大学応援部を舞台にしたノンフィクションです。

ノンフィクションなのにタイトルには「物語」。筆者はその理由を明記していませんが,私はこれが応援部という一種の“おとぎの国”の話だからなのだろうと思います。体育会でありながら,他者の応援という間接的な形でしかスポーツにかかわれない応援部はそもそもの成り立ちが微妙な上に,東京大学においては勝利という形で報われることがほとんどないため,「応援」そのものの美学を追求せざるを得ない立場にあります。

そして,事実は小説より奇なりといいますが,この年の応援部も,筆者のために作ったかのようにドラマチックです(もちろんそんなことあるはずもありませんが)。

ネタばれになるので,これ以上は書きませんが,僕はこの本を読んで不覚にも涙が止まらなくなりました(しかも電車の中で!)。

スポーツ物が好きな人ならはまれると思います。

なお,単行本と2007年に出た文庫本がありますが,文庫本にはおとぎの国のその後についても報告があるそうです。どうやら本当に,おとぎの国になってしまったらしい。登場人物の写真を使った単行本と,かわいい絵になってしまった文庫本との落差もそのあたりにあるのでしょう。