昨年は全部で16冊のベストを挙げましたが、今年は読んだ本が減ったこともあり、フィクション・ノンフィクションおりまぜて10冊を取り上げます。

10位:スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション/カーマイン・ガロ
いわゆるビジネス書はあまり読まないのではありますが、これはいろいろと考えるヒントになる本です。今後の自分の生き方を考える上でも役に立つ本。



9位:舟を編む/三浦しをん
三浦しをんほど、面白いものを書く人はいないと思っているのですが、本書の主人公である馬締(まじめ)君は、その生真面目さそのものがおかしく、冒頭の「大都会」のシーンなど、噴出すポイントに事欠きません。辞書編纂というマニアックさも秀逸。




8位:君のためなら千回でも/カーレド・ホッセイニ
数年前に読んだ「千の輝く太陽」は、アフガニスタンの女性の過酷な人生を描いた大傑作でしたが、本書はアフガニスタンで子供時代を過ごした主人公が、その後米国に移住し、アフガニスタンに昔を取り戻しに行くという話。「千の輝く太陽」と比べると若干話は弱いですが、半面読みやすく、友情など、普遍的なテーマを取り扱っており、多くの人に読んでほしい小説です。




7位:フェイスブック 若き天才の野望/デビッド・カークパトリック

映画と比べて、より現在に近いところまでを扱っており、facebookの思想的なところを感じるのにはいい作品だと思います。



6位:偶然の音楽/ポール・オースター

オースターの最近の作品はちょっとテクニックが鼻につく感じがしないでもないのですが、本書ではテクニックとエネルギーがいい感じでバランスがとれていると思います。傑作といっていいでしょう。





5位:贖罪/イアン・マキューアン

イアン・マキューアンの小説は、とても完成度が高いと思います。隅から隅まで神経が行き届いている感じ。特に前半の、少女が誤りを犯すまでのパートはすばらしい。大傑作。



4位:三陸海岸大津波/吉村昭
今年を語る上で地震と津波は避けて通れないものですが、津波に関して言えば、決して想定外のものではないことが本書を読むとわかります。




3位:聖餐城/皆川博子
皆川博子さんという作家は本当にすばらしいと思うのですが、ドイツの17年戦争を舞台にしたこの小説はスケールが大きく、瑞々しさも併せ持った大傑作です。




2位:スティーブ・ジョブズ/ウォルター・アイザックソン

本書に関しては、ダメな伝記だと言っている人もいるようですが、どうもジョブズの功績を褒め讃えていないのが気に入らないような感じで、なんだかなあ、などと思っています。

私の感想は以前書いたものから抜粋して載せておきます。
まず、ジョブズ礼賛でなく、彼のいいところも悪いところもしっかり書いているところ。特に性格的に一般人には解釈しがたいところが彼にはあるのですが、そこも包み隠さず書いています。特に、実の親との関係が、彼の正確に大きく影響していることなど、初めて知ったことが数多くありました。

次に、複雑怪奇な彼の性格を、ジョブズからの聞き語りだけでなく、周囲への丹念な取材を通じて分析・考察している点。例えば上巻の11章全部を割いて、有名な「現実歪曲フィールド」について分析しています。近年は、この言葉はジョブズのすばらしいプレゼンを形容するものであるかのように書かれていることが多々ありますが、元々は否定的な意味合いがかなり強かったもの。本書では、否定的な部分を説明しながらも、ジョブズの魅力というものがその根底に流れていることを多くの事例から引き出しています。本書がただの伝記ではなく、スティーブ・ジョブズという稀代のイノベーターの仕事を分析するビジネス書としても、優れているのは、こういった深い考察があるからです。




1位:苦海浄土/石牟礼道子

今年読んだ作品の中では、ダントツに素晴らしかったのがこの作品。水俣病を描いたノンフィクション風の小説ですが、特に病気の人への聞きがたり風のパート1が圧巻です。方言で語られる病気の話は,その深刻さと裏腹に,優しくときには滑稽で,しみじみとした慈愛に満ちています。一種のお伽話のようですらあります。

 うちは、ほら、いつも踊りおどりよるように、こまか痙攣をしっぱなしでっしょ。
 それで、こうして袖をはたはた振って、大学病院の廊下ば千鳥足で歩いてゆく。
 こ、ん、に、ちわあ。
 うち、踊りおどるけん、見とるものはみんな煙草出しなはる!
 ほんなこて,踊りおどっとるような悲しか気持ちばい。そういう風にしてそこれへんをくるうっとまわるのよ。からだかたむけて。


こんな素晴らしい作品を読めたことだけでも、今年はいい年だったような気がします。