今を去ること10年と3カ月前、このサイトにも当時はまだブログはなかったのですが、今から考えるとブログもどきの「コラム」というコーナーがあったんです(オンラインで投稿すると目次を再構成するくらいの機能があったのでブログと言い張れば言えなくもなかったかも。まあ当時はそんな言葉も知らなかったのですが)。

そこに「人はなぜPinotにはまるのか」という記事を、知り合い10数人にアンケートを書いて載せたことがありました。

昨日、その記事って結論なんでしたっけということをある人から聞かれ、ディスクの中を調べてみたら、テキスト発見しました。なので、ちょっと長いのですが、懐かしかったので、ほぼそのまま掲載したいと思います。

以下、オリジナル。10年前の世界に戻ってください…
なお、その2その3もご一緒にお楽しみください。



私が,この深遠なテーマについて書いてみようと思ったのには,わけがある。一つは,かつてZin党を自認していたナパさんが,どうやら最近Pinotばかりを飲んでいるように見うけられること,もう一つは先日ベイエリアで開かれたTestarossa水平ワイン会で,ちゃん・りーさんがご自身の日記に書かれていたPinotの感想である。ナパさんには,昨年はPinotの話をしても,関心なさそうだったのに,いつの間に…という興味(笑),ちゃん・りーさんについては「最初はやな奴。後で、あれ?こんなところも? へ、こういうとこあるのか。あれ、こいつってけっこういいやつじゃん。うん? なんだか気になる、気になる・・・・・・私ってこいつのこと好きかも」と,一日にしてPinot観が変わっていったことに興味を覚えたのである。また,ベイエリアの会の主催者の一人であったかんちゃんも,昨年聞いたときは確か「Pinotはあまり飲まない」といっていたような記憶がある。いつ,どこで変わっていったのだろうか。

日本で,多くのワイン・ファンがまずボルドーから入っていくように,カリフォルニアワインでも,特に赤ワインに関してはCabernet Sauvignonから入っていく人が多いと思う。私自身もそうであった。最初からPinotで入る人はあまりいなさそうだ。

そこで,気になったのは「ほかの人たちはどうだったのだろうか」ということである。いてもたってもいられず(笑),早速知り合いのワイン好きの人たち14人に簡単なアンケートを行った。CWFC会員が中心ではあるが,会員でない人,会員だけど普段はフランス・ワインが中心の人も含まれている。以下敬称は略させていただく。

第一印象は必ずしもよくない

集計をするほどきちんとしたアンケートではないのだが,まず,好きなブドウの種類を1位から3位まで書いてもらったので,1位を3点,2位を2点,3位を1点として合計してみた結果が図である(注:図は見つからなかったので割愛しました)。アンケートが偏向しているせいもあるだろうが,やはりトップはPinot,2番目がCabernet Sauvignonであった。Pinotを1位に挙げた人も7人と半数である。やはりPinotは人気がある。

しかし,みながみな,最初からPinot好きではない。むしろ逆の人も多い。14人中5人は最初のPinotの印象がよくなかったと答えている。「味も色も、えらいウスいワインやなぁ」(ナパ),「とにかくすっぱくて美味しくない。はずれた」(世田谷太郎)といった具合だ。ナパさんを除くと,印象がよくなかった人が飲んだワインの大半はブルゴーニュだったのも興味深い。

逆に,最初から好印象を持った人はカリフォルニアやオレゴンで入った人が多く,ワイン暦も浅いことが多い。「とにかく香りが華やかで、見た目も美しい。(カベルネにくらべて)薄い色なのに飲んでみたら薄くないし軽くない(笑)。とても美味しいと思いました」(sato)といった感想が上がっている。

ま,もちろんこのあたりはこのアンケートの母集団が偏向しているのでブルゴーニュ・ファンは気にせず通過してほしいが,やはりブルゴーニュの場合,作り手による違いが大きく,グラン・クリュでもはずす可能性が高いこと,カリフォルニアのPinot Noirの方が果実味が強く酸味が弱いため,飲みやすいこと,といった要素は影響しているかもしれない。

一方,初めて感動したPinot Noirは,という質問では,いいワインが並ぶものの,ものすごく高価なものばかりというわけではなかった。ずらずらと並べると

Robert Mondavi reserve 94
カレラセレック94
Williams Selyem Russian River Valley 1995
Schug Pinot Noir Carneros 97
メオ・カミュゼの88クロ・ド・ヴージョ
88オスピス・ド・ボーヌのキュベ・ニコラ・ロラン(ルイ・ラトゥール詰め)
ABCのPinot
「クロ・ヴージョ」作り手はジョルジュ・リニエだったかなあ
'89 Beaune Bressandes 1er (Chanson)
ABCのSanta Maria Valley (1995?)
Patz & Hall Pinot Noir Hyde Vineyard 1997
FLOWERS
ミュニレージブールのエシェゾー87

といった具合である。

また,Pinotの魅力に関しては過半数の人が「香り」を挙げた。妖しさ,妖艶といったことばを使った人も5名に上る一方で,癒し系,元気が出る,といった回答も複数あった。「全体的に少なめの生産量によるレア度(笑)」(zouk),「当たり外れが大きく、当たったときの感動が強いこと」(かもしだ)といったところは,マニア好みである由縁だろうか。「ソースよりお醤油系の食事に合いやすいこと」(TAK),「どんなお料理にも(洋食でも和食でも中華でも)おいしくマッチすると思うから」(SARA)と,料理とのマッチングも好評である。

私の考えでも,ライバル(?)のCabernet Sauvignonは,味の濃い料理やステーキがベスト・マッチであるが,Pinot Noirはもっとバラエティに富んだ料理に合うと思う。特にカリフォルニアにいたときには,いわゆるカリフォルニア料理にはPinot Noirが一番だと思った。また,食べ疲れしない料理にあう飲み疲れしないワインということで,あまり若くない人(大爆)に受け入れられやすいのが,癒し系という評価につながったのだろう。一方で,妖艶さはまた別の極にあり,ときにチャーミング,ときに妖艶といった変わり身も魅力なのであろう。

こんなことをいろいろ考えると,やはりPinot Noirの単純でない魅力と付き合っていくには,ある程度場数をこなすことも必要なのだろう。今はPinot好きでないあなたにも,いつかそれに魅せられるときがくるかもしれない。また,最初は比較的親しみ易い果実味たっぷりのものから入るのがいいかもしれない。



結論というほどたいした結論ではなく,申し訳ないが,次回の後編では,アンケートからいくつかのエピソードを紹介したいと思う。回答いただいたかた,ありがとうございました。「私も何かいいたい」という人も大歓迎。メールください。