トレフェッセンにて、スポッツウッドのオーナーなどに会う(ナパ2日め、その3)
カリストガのAmici Cellarsでのランチの後は、ナパ・ヴァレーをずっと南下して、ナパ市にあるトレフェッセン・ファミリー・ヴィンヤーズ(Trefethen Family Vineyards)に行きます。
CEOのジョン・ルエルさんが迎えてくれました。
ここは、テイスティング・ルームになっていたモニュメント的な建物(19世紀に作られたものです)が2014年の地震で大きな損傷を受けています。今はその修繕中。まだしばらくかかるようです。
奥の方に、テイスティング・ルームが新たにオープンしていたのですが、それも本当につい先日のことだそうで、まだ地震の爪痕は残っています。
ちょっと余談になりますが、ホテルのあるナパの市街には、工事をしているところが多数ありました。景気が良くて新しい建物を作っているのかと思ったのですが、実際にはまだ地震の後の修繕をしているところが多いのだそうです。下の写真の郵便局も大きな被害を受け、いろいろな事情で修繕も難しくなっているとか。For Saleの看板が出ていました。
さて、ここでは「ナパの歴史を深掘りするディスカッション」とのことで、パネル・ディスカッションの形式で、試飲しながらナパの歴史を語るというプログラムでした。
モデレーターは「Wine Bible」という米国でワインの本として一番のベストセラーを書いたカレン・マクニール(Karen MacNeil)さん。
ワイナリーからはトレフェッセンのルエルCEOのほか、ペレット・エステート(Pellet Estate)のワインメーカーであるトム・リナルディ(Tom Rinaldi)さん、スポッツウッド(Spottswoode)のベス・ノヴァック・ミリケン(Beth Novak Milliken)社長兼CEOです。
まず、カレンさんが19世紀からのナパの歴史を振り返ります。面白かったのはカリフォルニアのゴールドラッシュとワインとの関係。1849年にゴールドラッシュが始まったのは有名ですが、ワインとはこれまであまりつなげて考えていなかったので目からウロコでした。
ゴールドラッシュでサンフランシスコの人口は800人から2万5000人まで膨れ上がりました。ほとんどが若い男性です。みな金を掘ってまさに一攫千金を狙ったわけですが、ほとんどの人はうまくいかず、そこから故郷へと帰ることさえできなくなってしまいました。そこで、それらの人たちは農業をするしかなかったのです。これでサンフランシスコ近郊に、農業を営む人口と、さらにはアルコールを欲しがる若い男性が溢れたわけです。結果として1860~1890年がカリフォルニアワインにとって最初のゴールデンエイジになりました。
この後は、フィロキセラ、禁酒法、戦争と暗い時代が続きます。
次の大きな転機は1960年代。「Sex、drug、rock'n roll」の時代で、ロバート・モンダヴィがワイナリーを設立したのもこの時代です。また、ナパでは農地保全法が1968年に作られました。これが環境保全や開発の抑止という点で、今でも大きな役割を果たしています。
続く1970年代が第2のゴールデンエイジ。医者、科学者、技術者とさまざまなアントレプレナーがナパに移ってきました。今回同席したトレフェッセンは1960年代、スポッツウッドのノヴァック家は1970年代。トム・リナルディの在籍していたダックホーンも1970年代です。
スポッツウッドのベスさんの父親はスタンフォード大学の卒業生。南カリフォルニアのサンディエゴで医者をしていたのですが、田舎のライフスタイルに憧れてナパにやってきました。当時は1エーカーあたり4000ドルと、土地も極めて安価でした。
最初はプチシラーやガメイ、フレンチコロンバードなど手当たり次第にいろいろなブドウ品種を植えて、ブドウはガロなどに売っていました。その後、カベルネ・ソーヴィニヨンに植え替えてワイン作りを志すものの、今度はお金が回らなくなってしまいます。
父親が医者に戻ったのですが44歳で、亡くなってしまい、家族が後を継がざるを得なくなったそうです。
今やスポッツッドといえば、ナパを代表するワイナリーの一つであり、コンスタントに最上級のカベルネ・ソーヴィニヨンを作るワイナリーとなっていますが、初期のころはこんな苦労があったのですね。
話が長くなってきました。試飲の話に移ります。写真の左から
スポッツウッド カベルネ・ソーヴィニヨン 2012
トレフェッセン メルロー 2012
ペレット カベルネ・ソーヴィニヨン 2011
スポッツウッド カベルネ・ソーヴィニヨン 2013
トレフェッセン カベルネ・ソーヴィニヨン 2012
ペレット カベルネ・ソーヴィニヨン 2012
スポッツウッドは2012年と2013年。力強さを感じたのは2012年。非常に濃く、タンニンもしっかりしています。豊かな酸が、ただ濃いワインにならないようにバランスを保っています。この年はカベルネ・ソーヴィニヨンが89%、カベルネ・フランが8%、プティ・ヴェルドが3%。2013年の方がやや親しみやすく、芳醇な香りが印象的です。この年はカベルネ・ソーヴィニヨンが85%、カベルネ・フランが10%、プティ・ヴェルドが5%。
トレフェッセンはメルローとカベルネ・ソーヴィニヨン。
ルエルCEOは畑のデザインの移り変わりについて説明しました。1960年代は樹の間隔が広く、樹勢もあまりコントロールされていませんでした。それが1980年代にフィロキセラで植え替えをすることになり、新しいデザインで畑を作りなおすことになりました。メルローも1987年に植え替えた畑のものだそうです。
ちなみに、トレフェッセンがあるオークノールAVAは、南に涼しいカーネロス、北にはドミナスなどがあるヨントヴィルに挟まれたある意味中間地帯。そのため自社畑では涼しいところに向いたシャルドネやピノ・ノワールも、暖かいところに向いたカベルネ・ソーヴィニヨンなどを植えています。リースリングまで作っているのはナパではかなり珍しいです。ただ、1960年代には赤で42品種、白で38品種作っていたとのことなので、これでも植え替えのときに大分絞ったのだそうです。
メルローは、赤系の果実味が豊富で、酸も豊か、スパイシーな味わいもあります。タンニンがあまり強くなく、柔らかくて飲みやすいワイン。かなりいいメルローだと思います。
カベルネ・ソーヴィニヨンは打って変わってタニックなワイン。かなりスパイシー。美味しいですが時間がかかりそうなワインでした。
ペレットは非常に難しい年だったという2011年と、良年と言われる2012年のカベルネ・ソーヴィニヨン。
2011年は意外と濃く、芳醇かつ飲みやすいワイン。難しい年だということをあまり思わせないワインです。どういう手法を使ったのか聞いてみたところ、やはり、カベルネ・ソーヴィニヨンが少し薄かったので、2012年のカベルネ・ソーヴィニヨンを5%ほどブレンドしたり(ラベリングのルールで認められている範囲です)、味わいの濃いプティ・ヴェルドを普通の年よりも増やしたとのことでした。
2012年はさすがに力強さを感じます。ただ、今飲むなら2011年の方が飲みやすいかも、と思いました。
最後に余談。
パネル・ディスカッションを行う建物に入るときに、入り口で朗らかに挨拶をして迎え入れてくれた女性がいました。てっきりトレフェッセンの担当の方かだれかかと思ったのですが、それがスポッツウッドのベスさんでした。名門ワイナリーなのに、それを感じさせない雰囲気にちょっと驚きました。
CEOのジョン・ルエルさんが迎えてくれました。
ここは、テイスティング・ルームになっていたモニュメント的な建物(19世紀に作られたものです)が2014年の地震で大きな損傷を受けています。今はその修繕中。まだしばらくかかるようです。
奥の方に、テイスティング・ルームが新たにオープンしていたのですが、それも本当につい先日のことだそうで、まだ地震の爪痕は残っています。
ちょっと余談になりますが、ホテルのあるナパの市街には、工事をしているところが多数ありました。景気が良くて新しい建物を作っているのかと思ったのですが、実際にはまだ地震の後の修繕をしているところが多いのだそうです。下の写真の郵便局も大きな被害を受け、いろいろな事情で修繕も難しくなっているとか。For Saleの看板が出ていました。
さて、ここでは「ナパの歴史を深掘りするディスカッション」とのことで、パネル・ディスカッションの形式で、試飲しながらナパの歴史を語るというプログラムでした。
モデレーターは「Wine Bible」という米国でワインの本として一番のベストセラーを書いたカレン・マクニール(Karen MacNeil)さん。
ワイナリーからはトレフェッセンのルエルCEOのほか、ペレット・エステート(Pellet Estate)のワインメーカーであるトム・リナルディ(Tom Rinaldi)さん、スポッツウッド(Spottswoode)のベス・ノヴァック・ミリケン(Beth Novak Milliken)社長兼CEOです。
まず、カレンさんが19世紀からのナパの歴史を振り返ります。面白かったのはカリフォルニアのゴールドラッシュとワインとの関係。1849年にゴールドラッシュが始まったのは有名ですが、ワインとはこれまであまりつなげて考えていなかったので目からウロコでした。
ゴールドラッシュでサンフランシスコの人口は800人から2万5000人まで膨れ上がりました。ほとんどが若い男性です。みな金を掘ってまさに一攫千金を狙ったわけですが、ほとんどの人はうまくいかず、そこから故郷へと帰ることさえできなくなってしまいました。そこで、それらの人たちは農業をするしかなかったのです。これでサンフランシスコ近郊に、農業を営む人口と、さらにはアルコールを欲しがる若い男性が溢れたわけです。結果として1860~1890年がカリフォルニアワインにとって最初のゴールデンエイジになりました。
この後は、フィロキセラ、禁酒法、戦争と暗い時代が続きます。
次の大きな転機は1960年代。「Sex、drug、rock'n roll」の時代で、ロバート・モンダヴィがワイナリーを設立したのもこの時代です。また、ナパでは農地保全法が1968年に作られました。これが環境保全や開発の抑止という点で、今でも大きな役割を果たしています。
続く1970年代が第2のゴールデンエイジ。医者、科学者、技術者とさまざまなアントレプレナーがナパに移ってきました。今回同席したトレフェッセンは1960年代、スポッツウッドのノヴァック家は1970年代。トム・リナルディの在籍していたダックホーンも1970年代です。
スポッツウッドのベスさんの父親はスタンフォード大学の卒業生。南カリフォルニアのサンディエゴで医者をしていたのですが、田舎のライフスタイルに憧れてナパにやってきました。当時は1エーカーあたり4000ドルと、土地も極めて安価でした。
最初はプチシラーやガメイ、フレンチコロンバードなど手当たり次第にいろいろなブドウ品種を植えて、ブドウはガロなどに売っていました。その後、カベルネ・ソーヴィニヨンに植え替えてワイン作りを志すものの、今度はお金が回らなくなってしまいます。
父親が医者に戻ったのですが44歳で、亡くなってしまい、家族が後を継がざるを得なくなったそうです。
今やスポッツッドといえば、ナパを代表するワイナリーの一つであり、コンスタントに最上級のカベルネ・ソーヴィニヨンを作るワイナリーとなっていますが、初期のころはこんな苦労があったのですね。
話が長くなってきました。試飲の話に移ります。写真の左から
スポッツウッド カベルネ・ソーヴィニヨン 2012
トレフェッセン メルロー 2012
ペレット カベルネ・ソーヴィニヨン 2011
スポッツウッド カベルネ・ソーヴィニヨン 2013
トレフェッセン カベルネ・ソーヴィニヨン 2012
ペレット カベルネ・ソーヴィニヨン 2012
スポッツウッドは2012年と2013年。力強さを感じたのは2012年。非常に濃く、タンニンもしっかりしています。豊かな酸が、ただ濃いワインにならないようにバランスを保っています。この年はカベルネ・ソーヴィニヨンが89%、カベルネ・フランが8%、プティ・ヴェルドが3%。2013年の方がやや親しみやすく、芳醇な香りが印象的です。この年はカベルネ・ソーヴィニヨンが85%、カベルネ・フランが10%、プティ・ヴェルドが5%。
トレフェッセンはメルローとカベルネ・ソーヴィニヨン。
ルエルCEOは畑のデザインの移り変わりについて説明しました。1960年代は樹の間隔が広く、樹勢もあまりコントロールされていませんでした。それが1980年代にフィロキセラで植え替えをすることになり、新しいデザインで畑を作りなおすことになりました。メルローも1987年に植え替えた畑のものだそうです。
ちなみに、トレフェッセンがあるオークノールAVAは、南に涼しいカーネロス、北にはドミナスなどがあるヨントヴィルに挟まれたある意味中間地帯。そのため自社畑では涼しいところに向いたシャルドネやピノ・ノワールも、暖かいところに向いたカベルネ・ソーヴィニヨンなどを植えています。リースリングまで作っているのはナパではかなり珍しいです。ただ、1960年代には赤で42品種、白で38品種作っていたとのことなので、これでも植え替えのときに大分絞ったのだそうです。
メルローは、赤系の果実味が豊富で、酸も豊か、スパイシーな味わいもあります。タンニンがあまり強くなく、柔らかくて飲みやすいワイン。かなりいいメルローだと思います。
カベルネ・ソーヴィニヨンは打って変わってタニックなワイン。かなりスパイシー。美味しいですが時間がかかりそうなワインでした。
ペレットは非常に難しい年だったという2011年と、良年と言われる2012年のカベルネ・ソーヴィニヨン。
2011年は意外と濃く、芳醇かつ飲みやすいワイン。難しい年だということをあまり思わせないワインです。どういう手法を使ったのか聞いてみたところ、やはり、カベルネ・ソーヴィニヨンが少し薄かったので、2012年のカベルネ・ソーヴィニヨンを5%ほどブレンドしたり(ラベリングのルールで認められている範囲です)、味わいの濃いプティ・ヴェルドを普通の年よりも増やしたとのことでした。
2012年はさすがに力強さを感じます。ただ、今飲むなら2011年の方が飲みやすいかも、と思いました。
最後に余談。
パネル・ディスカッションを行う建物に入るときに、入り口で朗らかに挨拶をして迎え入れてくれた女性がいました。てっきりトレフェッセンの担当の方かだれかかと思ったのですが、それがスポッツウッドのベスさんでした。名門ワイナリーなのに、それを感じさせない雰囲気にちょっと驚きました。