武蔵の切れ味、サシ・ムーアマンの世界を味わう
サンディ(Sandhi)、ドメーヌ・ド・ラ・コート(Domaine de la Cote)、ピエドラサッシ(Piedrasassi)、ストルプマン(Stolpman)、オレゴンのイヴニングランド(Evening Land)などのワインメーカーを務めるサシ・ムーアマンが来日し、セミナーが開催されました。
【追記】イヴニングランドが増えて手が離せなくなったため、現在はストルプマンのワインメーカーはやめてしまったそうです。
過去記事:
IPOBミニインタビューその4――ラジャ・パー、サシ・ムーアマン/サンディ、ドメーヌ・ド・ラ・コート、ピエドラサッシ
IPOB解散――メンバーはどう受け止めたか(サシ・ムーアマン)
サンディ、ドメーヌ・ド・ラ・コート、イヴニングランドはいずれもIPOBの発案者であるラジャ・パーとともに手がけるプロジェクトであり、ラジャ・パーが前に出ている印象がありましたが、ワインメーカーはサシ・ムーアマンであり、実際に果たしている役割は非常に大きいようです。
今回のセミナーは、そのサンディとドメーヌ・ド・ラ・コートを中心としたものでした。このワイナリーはどちらもサンタ・バーバラのサンタ・リタ・ヒルズのブドウを使ってワインを作っています。ドメーヌ・ド・ラ・コートは自社畑専門、サンディの方は購入したブドウ専門でワインを作ります。サシ・ムーアマンによると、「サンディはフィロソフィーを重視」しており、いわゆる自然派ワインに非常に近い作りで、リリース直後から美味しく飲めるようになっています。一方、ドメーヌ・ド・ラ・コートは土地を引き出すことを目標としており、熟成向けワインです。
セミナーではドメーヌ・ド・ラ・コートの各畑の特徴なども解説されましたが、面白かったのが2007年に植えたメモリアスという畑。海からの強い風にさらされるドメーヌ・ド・ラ・コートのは畑の中でも一番涼しいところにあります。
この畑の横ではブドウを接ぎ木ではなく種から育てるプロジェクトをやっています。ピノ・ノワールの種から育てた1万本もの木があるそうです。まだようやく実を付けるようになってきたところで、これからブドウの色や味などを調べ(ピノ・ノワールから、ピノ・ブランやピノ・ムニエのような白ワイン系のブドウが生まれることもあるので)、また花が雄しべも雌しべも持ったものでなければいけない、など実際に使えるブドウを選ぶためには多くのハードルを超えないといけません。1万本のうち本当に使えるのは100本ほどしかないかもしれないとのこと。そうして選んだものを今度は接ぎ木できるように増やすことも必要で、とにかく大変時間がかかります。彼は25年プロジェクトだと言っていました。というわけで、今のメモリアスの畑でそれらのブドウが使われているわけではありませんが、大変夢があるプロジェクトだと思います。
今回の試飲はちょっと変わった趣向で、ブラインドで行われました。ピノ・ノワール3種、シャルドネ3種を飲んでどれがどのワインかを当てるというものです。
ピノ・ノワールはドメーヌ・ド・ラ・コートのブルームス・フィールド2013のほか、ゴールデンアイのゴーワン・クリーク2013、ブルゴーニュからドメーヌ・ジョルジュ・ミュニュレ・ジブールのニュイ・サン・ジョルジュ1級「レ・ヴィーニュ・ロンド」2013でした。ゴールデンアイやダックホーンがアンダーソン・ヴァレーに持つワイナリー。位置は北ですが、多少内陸に入るので、ドメーヌ・ド・ラ・コートよりは暖かい畑です。
並べて見ると1番は色が薄めで透明感があります。赤い果実に加え、レモンのようなかなり強い酸味、還元香も少し感じます。カリフォルニアの味ではないと判断しました。2番めはオレンジのようなフレーバーに、ハーブ。塩っぽさを感じるので、第一感でサンタ・リタ・ヒルズだろうと思いました。3番は一番色が濃く、味わいもダークなフルーツの味わいが一番強くなっています。かすかに甘みもあります。グラファイトっぽさが骨格を作ってしっかりとした味わい。これがゴールデンアイと判断しました。
結果は見事に全部正解。ドメーヌ・ド・ラ・コートは熟成できるワインを目指しているとのことですが、熟成させなくてもとても美味しいです。サンタ・リタ・ヒルズらしさも十分に味わえるいいワインでした。
シャルドネはサンディのサンタ・リタ・ヒルズ2014、ソノマからJCBの#81シャルドネ ソノマ・コースト2014、シャブリからドメーヌ・ヴァンサン・ドーヴィサ プルミエ・クリュ・ヴァイヨン2014。どれも定価6000円台のワインですが、サシ・ムーアマンによると、シャブリは米国ではその倍の価格するとのことでした。
1番はオレンジやレモンなど柑橘系の味わいが強いワイン。香りは意外と甘く、イーストのような香りもあります。ミネラルっぽさもあり、シャブリだろうと判断しました。2番はオレンジにパイナップル、香ばしい香り。3番は色は2番より濃いのですが、味わいはレモンなど、2番よりも酸が高く軽い感じ。ミネラルっぽさもあります。大分悩みましたが、2番をJCB、3番をサンディと判断。
結果はシャブリは正解でしたが、JCBとドメーヌ・ド・ラ・コートは逆でした。これはかなり難しかったです。というかJCBもサンディも同じくらい美味しいです。
セミナーの後は、ドメーヌ・ド・ラ・コート、サンディ、そしてピエドラサッシのワインの試飲。
サンディはシャルドネ5種。サンタ・バーバラ・カウンティ、サンタ・リタ・ヒルズ、リタズ・クラウン、サンフォード&ベネディクト、ベント・ロック。
サンディらしさがつよく現れているのは最初の3つ。ミネラルやレモンのフレーバーがあります。サンフォード&ベネディクトはバランス良く、個人的には一番おいしかったシャルドネでした。ベント・ロックは芳醇。サンディらしさを味わうにはまずは、カウンティやAVAものから飲んでみるのがいいのではないかと思います。
ドメーヌ・ド・ラ・コートはピノ・ノワール3種。サンタ・リタ・ヒルズとブルームス・フィールド、ラ・コート。サンタ・リタ・ヒルズはフルーツっぽさが少ないピノ・ノワール。上品です。ラ・コートは非常に骨格のしっかりしたピノ・ノワール。どれも果実味に頼らないあたりが特徴と言えるでしょう。熟成向きとはいえ、前述のように今飲んでもじゅうぶんおいしく、またサンタ・リタ・ヒルズのテロワールを感じられます。
ピエドロサッシはシラー2つ。PSシラーは3000円台のシラー。カリフォルニアのシラーには珍しく、フルーツっぽさをあまり感じません。コスパの高いワイン。もう1つはリム・ロック・ヴィンヤード。これだけアロヨ・グランデ・ヴァレーのワインです。これも美味しい。
サシ・ムーアマンはシラーが好きでピエドラサッシも自分が好きなものという感じがあります。ストルプマンのシラーもおいしいですし、お薦めです。
さて、ところでタイトルに「武蔵の切れ味」と書きましたが、何のこと?と思った人もいるでしょう。
実は彼は日系2世。本名はムサシというのです。日本向けのワインで「武蔵」ラベルにしたら日本で人気出るだろうに、と思ったのでした。
そんな与太話はさておき、携わっているワイナリーの名前を見るだけで彼の才能は明らか。人柄もすごくいいので、応援したくなる方でした。
【追記】イヴニングランドが増えて手が離せなくなったため、現在はストルプマンのワインメーカーはやめてしまったそうです。
過去記事:
IPOBミニインタビューその4――ラジャ・パー、サシ・ムーアマン/サンディ、ドメーヌ・ド・ラ・コート、ピエドラサッシ
IPOB解散――メンバーはどう受け止めたか(サシ・ムーアマン)
サンディ、ドメーヌ・ド・ラ・コート、イヴニングランドはいずれもIPOBの発案者であるラジャ・パーとともに手がけるプロジェクトであり、ラジャ・パーが前に出ている印象がありましたが、ワインメーカーはサシ・ムーアマンであり、実際に果たしている役割は非常に大きいようです。
今回のセミナーは、そのサンディとドメーヌ・ド・ラ・コートを中心としたものでした。このワイナリーはどちらもサンタ・バーバラのサンタ・リタ・ヒルズのブドウを使ってワインを作っています。ドメーヌ・ド・ラ・コートは自社畑専門、サンディの方は購入したブドウ専門でワインを作ります。サシ・ムーアマンによると、「サンディはフィロソフィーを重視」しており、いわゆる自然派ワインに非常に近い作りで、リリース直後から美味しく飲めるようになっています。一方、ドメーヌ・ド・ラ・コートは土地を引き出すことを目標としており、熟成向けワインです。
セミナーではドメーヌ・ド・ラ・コートの各畑の特徴なども解説されましたが、面白かったのが2007年に植えたメモリアスという畑。海からの強い風にさらされるドメーヌ・ド・ラ・コートのは畑の中でも一番涼しいところにあります。
この畑の横ではブドウを接ぎ木ではなく種から育てるプロジェクトをやっています。ピノ・ノワールの種から育てた1万本もの木があるそうです。まだようやく実を付けるようになってきたところで、これからブドウの色や味などを調べ(ピノ・ノワールから、ピノ・ブランやピノ・ムニエのような白ワイン系のブドウが生まれることもあるので)、また花が雄しべも雌しべも持ったものでなければいけない、など実際に使えるブドウを選ぶためには多くのハードルを超えないといけません。1万本のうち本当に使えるのは100本ほどしかないかもしれないとのこと。そうして選んだものを今度は接ぎ木できるように増やすことも必要で、とにかく大変時間がかかります。彼は25年プロジェクトだと言っていました。というわけで、今のメモリアスの畑でそれらのブドウが使われているわけではありませんが、大変夢があるプロジェクトだと思います。
今回の試飲はちょっと変わった趣向で、ブラインドで行われました。ピノ・ノワール3種、シャルドネ3種を飲んでどれがどのワインかを当てるというものです。
ピノ・ノワールはドメーヌ・ド・ラ・コートのブルームス・フィールド2013のほか、ゴールデンアイのゴーワン・クリーク2013、ブルゴーニュからドメーヌ・ジョルジュ・ミュニュレ・ジブールのニュイ・サン・ジョルジュ1級「レ・ヴィーニュ・ロンド」2013でした。ゴールデンアイやダックホーンがアンダーソン・ヴァレーに持つワイナリー。位置は北ですが、多少内陸に入るので、ドメーヌ・ド・ラ・コートよりは暖かい畑です。
並べて見ると1番は色が薄めで透明感があります。赤い果実に加え、レモンのようなかなり強い酸味、還元香も少し感じます。カリフォルニアの味ではないと判断しました。2番めはオレンジのようなフレーバーに、ハーブ。塩っぽさを感じるので、第一感でサンタ・リタ・ヒルズだろうと思いました。3番は一番色が濃く、味わいもダークなフルーツの味わいが一番強くなっています。かすかに甘みもあります。グラファイトっぽさが骨格を作ってしっかりとした味わい。これがゴールデンアイと判断しました。
結果は見事に全部正解。ドメーヌ・ド・ラ・コートは熟成できるワインを目指しているとのことですが、熟成させなくてもとても美味しいです。サンタ・リタ・ヒルズらしさも十分に味わえるいいワインでした。
シャルドネはサンディのサンタ・リタ・ヒルズ2014、ソノマからJCBの#81シャルドネ ソノマ・コースト2014、シャブリからドメーヌ・ヴァンサン・ドーヴィサ プルミエ・クリュ・ヴァイヨン2014。どれも定価6000円台のワインですが、サシ・ムーアマンによると、シャブリは米国ではその倍の価格するとのことでした。
1番はオレンジやレモンなど柑橘系の味わいが強いワイン。香りは意外と甘く、イーストのような香りもあります。ミネラルっぽさもあり、シャブリだろうと判断しました。2番はオレンジにパイナップル、香ばしい香り。3番は色は2番より濃いのですが、味わいはレモンなど、2番よりも酸が高く軽い感じ。ミネラルっぽさもあります。大分悩みましたが、2番をJCB、3番をサンディと判断。
結果はシャブリは正解でしたが、JCBとドメーヌ・ド・ラ・コートは逆でした。これはかなり難しかったです。というかJCBもサンディも同じくらい美味しいです。
セミナーの後は、ドメーヌ・ド・ラ・コート、サンディ、そしてピエドラサッシのワインの試飲。
サンディはシャルドネ5種。サンタ・バーバラ・カウンティ、サンタ・リタ・ヒルズ、リタズ・クラウン、サンフォード&ベネディクト、ベント・ロック。
サンディらしさがつよく現れているのは最初の3つ。ミネラルやレモンのフレーバーがあります。サンフォード&ベネディクトはバランス良く、個人的には一番おいしかったシャルドネでした。ベント・ロックは芳醇。サンディらしさを味わうにはまずは、カウンティやAVAものから飲んでみるのがいいのではないかと思います。
ドメーヌ・ド・ラ・コートはピノ・ノワール3種。サンタ・リタ・ヒルズとブルームス・フィールド、ラ・コート。サンタ・リタ・ヒルズはフルーツっぽさが少ないピノ・ノワール。上品です。ラ・コートは非常に骨格のしっかりしたピノ・ノワール。どれも果実味に頼らないあたりが特徴と言えるでしょう。熟成向きとはいえ、前述のように今飲んでもじゅうぶんおいしく、またサンタ・リタ・ヒルズのテロワールを感じられます。
ピエドロサッシはシラー2つ。PSシラーは3000円台のシラー。カリフォルニアのシラーには珍しく、フルーツっぽさをあまり感じません。コスパの高いワイン。もう1つはリム・ロック・ヴィンヤード。これだけアロヨ・グランデ・ヴァレーのワインです。これも美味しい。
サシ・ムーアマンはシラーが好きでピエドラサッシも自分が好きなものという感じがあります。ストルプマンのシラーもおいしいですし、お薦めです。
さて、ところでタイトルに「武蔵の切れ味」と書きましたが、何のこと?と思った人もいるでしょう。
実は彼は日系2世。本名はムサシというのです。日本向けのワインで「武蔵」ラベルにしたら日本で人気出るだろうに、と思ったのでした。
そんな与太話はさておき、携わっているワイナリーの名前を見るだけで彼の才能は明らか。人柄もすごくいいので、応援したくなる方でした。