沖縄県南部,ひめゆりの塔から500mほど離れたところに「琉風之塔」という慰霊塔があります。戦争で亡くなった沖縄の気象台職員を祭っています。では,沖縄戦と気象台はどういう関係だったのでしょう。

沖縄戦について精力的に名著を書き続けている田村洋三さんの作品に「特攻に殉ず――地方気象台の沖縄戦」という本があるのは知っていました。ただ,もう一つピンと来ず,敬遠していたところもあるのですが,先日やっとこれを読んでみました。そして,この中の重要な登場人物である矢崎好夫さんが書いた「八月十五日の天気図―沖縄戦海軍気象士官の手記 」も。

これでやっと自分の中でいろいろなものがつながってきた感じがしました。

神風特攻隊について聞いたことがない人はいないと思いますが,特攻隊のほとんどは沖縄めがけて特攻しにいっていたことはご存知でしょうか(ちなみに神風~は海軍の名称)。特攻隊が始まったのはフィリピン戦ですが,それが大々的に作戦として実行されたのは沖縄戦でした。有名な知覧などが沖縄に向かって飛び立つ基地があったところです。このとき,爆弾を抱えた小型機にとって大事なのが天気。晴れ渡っていたらすぐに発見されてしまいますし,雲が多すぎたら相手の位置を把握できません。また,途中に前線があると飛行に大きな障害となりました。

そこで,特攻隊のために沖縄“現地”の天気予報を発信し続けたのが気象台や海軍・陸軍の気象兵だったのです。



「八月十五日の天気図」の方は沖縄にある海軍の「巌」部隊において気象班を作り天気予報を送る体制を築き,後に心ならずも異動によって本土から特攻隊向けの予報をすることになった気象仕官の覚書。

巌部隊での戦争準備の話,内地に戻ってから東京の軍令部での話,特攻隊の基地における経験,沖縄に残した気象班のその後,終戦というのが主な内容。最初のパートももちろん興味深かったのですが,特攻隊の基地で,特攻に出る隊員たちとの話が実は一番興味を引きました。

特攻隊についてはこれまで数冊本を読んだことがありますが,多くは家族に残した手紙などがベース。そのあまりの達観に特攻隊員が神聖視される理由を見たのと同時に,いささかの違和感も感じたのでした。一方,この本に出てくる特攻隊員たちはもっと人間的。出撃の直前まで自分の死の意味づけに苦しんでいた姿がなまなましく描かれています。その結果として「書けばどうしても紋切り型にならざるを得ない」のです。特攻隊の真の姿が垣間見えただけでも本書を読む価値はあったと思います。


一方,「特攻に殉ず」の方は,より純粋に気象担当の苦闘を描いたもの。ただ,気象担当といっても海軍,陸軍,気象台と分かれるので全体像をつかむのがやや難しく感じられました。また,ほとんどがこれまで埋もれていた話であり,証言者の年令などを考えるときちんと記録に残すおそらく最後の機会ということもあり,話としてすっきり書くことよりも各人の奮闘振りをあまさず書くことに主眼を置いているのだと思います。

前半は情報源の重要な部分が矢崎さんであることもあり,上記の本と大部分重なり合いますが,沖縄戦が始まってからのことは本書の方が詳しく,涙をそそるものがあります。

読み物としては「沖縄の島守―内務官僚かく戦えり」の方がよくできていますが,これも好書だと思います。