カリフォルニア、ワシントンに次ぐ米国3番めのワインの生産量を誇るのがニューヨーク州です。歴史もカリフォルニアより古く、米国に現存する最古のワイナリーはニューヨークにあります。ニューヨークのワイン産地を代表するのが、東部のロングアイランドと中部のフィンガーレイクス。ロングアイランドは比較的温暖で、ボルドー品種などの赤ワインも多く造られています。一方、フィンガーレイクスは冷涼でリースリングなどの白ワインの生産が中心です。

そのフィンガーレイクスで生まれ、マスター・ソムリエとして活躍しながら、フィンガーレイクスでワイナリーも始めたのがクリストファー・ベイツMS。先日、来日して開催したセミナーに参加してきました。
クリストファー・ベイツMSセミナー
ベイツMSによると、一般的に「新世界」と呼ばれる地域は、旧世界である欧州と比べると、ブドウの栽培が容易な地域が多いといいます。それに比べるとニューヨークは気温が低く、難しい地域です。そもそもワインは欧州からの移民と同時にやってきたので西海岸よりもはるかに歴史はありますが、フィロキセラがいたため、ワインに向くヴィティス・ヴィニフェラ種の栽培は失敗の連続でした。そこで、ワインにするブドウも米国の原産品種や、原産品種とヴィニフェラのハイブリッドなど、ちょっと質の落ちるものが中心になりました。その後、耐性のある根に接ぎ木するという手段が確立するしましたが、こんどは禁酒法でほぼワインの製造がなくなるなどの苦境を経てきています。

1950年代末からウクライナ出身のフランク博士という人がフィンガーレイクスで研究を始め、ようやくリースリングなどが栽培できるようになってきました。この地域は冬には氷点下20℃くらいになることもあり、樹が破裂してしまうそうです。寒さに耐える品種でないと育ちません。
クリストファー・ベイツMSセミナー
フィンガーレイクスという名前は南北に細長い湖がいくつも並んで、まるで指のようということで名付けられました。これらの湖は氷河が削った後に水がたまったものです。水は蓄熱効果があるため、その近くは冬は比較的暖かく、夏は涼しくなります。そのため、一番大きなセネカ湖の周囲などにワイナリーが多くあります。

特にセネカ湖は中央の水深が深く、温度を安定させる効果が大きいので、寒さに弱い品種などは、中央近くで栽培されています。このほか土壌や、北西にある五大湖の1つエリー湖からの冷たい風などがテロワールを形作ります。

試飲に移りましょう。

今回試飲したワインは6種。うち3つはベイツMSのエレメント・ワイナリーのもの。それ以外に3つのワイナリーのリースリングやカベルネ・フランを試飲しました。

まずはキューカ・レイク・ヴィンヤーズ(Keuka Lake Vineyards)のドライリースリング2015。.オレンジやレモンといった柑橘系の味わいで酸の印象が強いリースリング。甘さはほとんど感じません(残糖は5gとのこと)。アフターにちょっと苦味があり味をひきしめています。

次はレヴィーンズ(Ravines)のドライリースリング2013。キューカ・レイク・ヴィンヤーズのリースリングよりも色は少し濃く、味わいにもふくよかさがあります。繊細な香り。

次はベイツMSのエレメント・ワイナリーからシャルドネ2014。30カ月シュール・リー。ステンレスタンクで発酵・熟成して、100%マロラクティック発酵しています。シュール・リーのためか、ブリオッシュのような香りが印象的。ライチやオレンジ。トロピカルフルーツのフレーバーもかすかにあります。

次はエレメント・ワイナリーのピノ・ノワール2013。色は薄めでちょっとオレンジっぽいです。チェリーの味わい、ラズベリー、プラム。とても上品で軽いですが、ストラクチャーもあり、ミネラルも感じます。出汁系の
ピノ・ノワールでブルゴーニュ好きが喜びそうな味わい。

5本目はハーマン・J・ウィーマー(Hermann J. Wiemer)のカベルネ・フラン。カベルネ・フランは比較的寒さに強い品種だそうです。カシスの香り、ミンティーなハーブの香りもあります。酸がきれいで伸びてくる印象。重くはないですが、タンニンもしっかりしてストラクチャーがあります。

最後はエレメント・ワイナリーのシラー。フィンガーレイクスはシラーには涼しすぎると考えられていましたが、最近少しずつ挑戦するところがでてきているようです。ドライフルーツの味わい。スパイス。上品だけどパワーがあります。冷涼感あるシラーで、予想以上においしくびっくりしました。
クリストファー・ベイツMSセミナー
赤ワインを3つ並べたところです。ピノ・ノワールの色の薄さが際立っています。

大変勉強になるセミナーでした。ニューヨークのワインも興味深いものが多く、リースリングだけ、などと思っていてはいけないと痛感しました。

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