オレゴンで今、一番注目されているワイナリーといえばイヴニングランドで間違いないでしょう。2015年にはワインスペクテーターで年間3位に選ばれています。選ばれたワインは2012年のピノ・ノワール「ラ・スルス」。同誌のレイティングは98点で、これはオレゴンだけでなく、米国のピノ・ノワールとしては過去最高点、しかもその点を取った唯一のワインです。

イヴニングランド サシ・ムーアマン

イヴニングランドが設立されたのは10年前とまだ新しいワイナリーですが、上記の快挙以前から話題のワイナリーとなっていました。例えば、ブルゴーニュのドミニク・ラフォンがコンサルタントとして携わっていたことなどです。また、当初はオレゴンだけでなくカリフォルニアにも畑を買ってワインを作っていました。2014年にはチャールズ・バンクスのグループが買収し、カリフォルニアのサンタ・バーバラでサンディやドメーヌ・ドゥ・ラ・コートでワインを作っているラジャ・パーとサシ・ムーアマンがワインメーカーになりました。

そのサシ・ムーアマンが来日し、セミナーが開かれました。

参考:
IPOBミニインタビューその4――ラジャ・パー、サシ・ムーアマン/サンディ、ドメーヌ・ド・ラ・コート、ピエドラサッシ
武蔵の切れ味、サシ・ムーアマンの世界を味わう

こちらもご参考に。
ドメーヌ・ド・ラ・コートやイヴニング・ランドが亜硫酸削減のためにやっていること
実は、これまでオレゴンのワインは試飲会で多少試飲するくらいで、それほど飲んだことはなかったです。また、その特徴もこれまではあまり知らず、大変勉強になりました。


イヴニングランドの畑「セブン・スプリングス」はオレゴンのAVA「エオラ・アミティ・ヒルズ」に含まれています。エオラ・アミティ・ヒルズは、ウィラメット・ヴァレーのサブAVAです。
ウィラメット・ヴァレー

ウィラメット・ヴァレーはソノマの3倍もある広大なAVAです。その中でワイン造りで重要なのは北側半分。エオラ・アミティ・ヒルズは北側の一番南側になります。この地域は重要な特徴を持っています。それは「ヴァン・ドゥーザ・コリドール」と呼ばれる東西方向の谷が西側にあること。

ウィラメット・ヴァレーは海からは少し離れているのですが、エオラ・アミティ・ヒルズはこのコリドールから太平洋の冷たい風が吹いてくるのです。そのため周囲と比べて気温が低く、収穫が2週間ほども遅くなります。

そもそもオレゴンの特徴は生育期間が短いこと。発芽が遅い一方で、夏の気温はカリフォルニアよりも高く一気に生育が進みます。カリフォルニアのピノ・ノワールでは、酸をどれだけ残すかが重要な課題ですが、オレゴンでは酸は必ず残るのでそれは問題になりません。短い生育期間でいかに成熟させるかが課題となります。生育期間が長くできるエオラ・アミティ・ヒルズが、注目される理由もそこにあります。

カリフォルニアのピノ・ノワールだとストロベリーやラズベリーなどの果実の風味がありますが、ウィラメット・ヴァレーは酸が強いため、クランベリーやザクロ的な風味になります。

酸が残る一方、問題になりやすいのはタンニンです。栽培でなるべくブドウを成熟させるのと、醸造時にあまり抽出しすぎないなどの方法でタンニンをやわらかくしているそうです。

イヴニングランドの畑、セブン・スプリングスは1983年ころに作られた畑です。そのころは接ぎ木ではなく自根で栽培することが多く、ここも実は大部分自根になっています。心配されるのがフィロキセラですが、やはり結構やられてしまっているようです。今回、畑の航空写真を見せてもらったのですが、明らかに生育が遅い区画があります。そこはフィロキセラにやられてしまっているところです。そのため、イヴニングランドでは植え替えもかなり進めています。

試飲レポートは後編で。実はイヴニングランドは白もすごいんです。